Silver snow6*隣の席はわたしだけじゃない。

1


 なんでそんな突き放すこと言うの?

 わたしは何があっても、

 傍にいたいのに。



「くしゅんっ…」

 12月7日。わたしは教室の自分の席で、くしゃみをした。

 わたしの体がかすかに震える。


 今日は一段と寒いな…。

 高校が楽しみすぎて早く着きすぎちゃった…。


 ぱさっ…。

 上から黒のパーカーが頭に被さる。

 わたしの肩がびくつく。


 え、何…!?


黒図くろず、おはよう」


 相可おおかくん…!?

 いつの間に入ってきたの?


「あの、これは…?」

 わたしは弱弱しい声で相可おおかくんに問いかける。


「くしゃみ」


「え」

 わたしの顔が、かああああっと熱くなる。


「着とけ」


 わたしは、はい、と短く答えた。


 ガタッ、と隣から音が聞こえる。

 相可おおかくんが鞄を机の上に置いて、わたしの左隣の席に座る。


 相可おおかくんに、くしゃみ聞かれてたなんて…恥ずかしい。

 だけど黒のパーカー、制服の上から着たら暖かい。


 まさか2度も黒のパーカー貸してもらえるなんて…。


 あ… ほのかにバニラな香りがする。

 安心する香り。


 電話がかかってきて、相可おおかくんは雪色のブレザーからスマホを手に取り、耳に当てる。


「もしもし?」

りんかよ」

「あ? 今、黒図くろずと2人」


 相可おおかくん、林崎りんざきくんにわたしのこと話してる!?


 太陽のほのかな光が窓から入ってきて、教室が明るくなる。


 どうしよう。

 嬉しくて、相可おおかくんの顔、見れない。



姫乃ひめの、何やってんの? 入らないの?」

 1年A組の教室の前でゆりが尋ねた。


「ゆり!」

「あー、いや…」

 姫乃ひめのが言葉に詰まるとゆりが教室の中を覗く。


ぎんくん、黒ずきんと…」

 ゆりは物凄く嫌な顔をする。


「あ、電話」

「あっちで話してくる」

 ゆりはそう言って廊下を歩いて行く。


 姫乃ひめのはぎゅっと自分の手を握る。

「ゆり、確実に怒ってた…雪羽ゆきはのこと守らないと」



「昼休み終わっちゃう。早く化学室行かないと」

 それから時間は過ぎて行き、5限が始まる前。


 廊下を歩きながら慌てた姫乃ひめのちゃんが言った。

 両手には化学の教科書と筆箱を持っている。


「うん」

 わたしがそう短く答えると、


「あっ、ノート忘れた。取って来る」

「みんなは先に行ってて」

 姫乃ひめのちゃんは1年A組の教室に向かって走っていく。


 林崎りんざきくんが心配そうな表情を浮かべる。


姫乃ひめのが何か忘れるなんて珍しいな」

「いつも完璧なのに。何かあったのかな」

 林崎りんざきくんの顔が曇る。


「あの時と似てるね」


 あの時?


 相可おおかくんが口を開く。


「そうだな」

「俺も教室に…」


「わたし、見て来ます」


黒図くろず、おい!」

雪羽ゆきはちゃん!」


 相可おおかくんと林崎りんざきくんが同時に叫ぶ中、

 わたしは走って1年A組の教室に向かう。



 数分が経過した頃。1年A組の教室に着いたわたしは、バクバクしている胸に右手を当てながら呼吸を整える。


「はぁっ、はぁっ……」


 廊下にはわたし以外誰もいない。


 …あれ?

 教室の後ろの扉、開いてる?

 確か出る前に池田先生が後ろの扉の鍵かけたはずなのに。


 わたしは後ろの扉から教室の中を覗いてみるなり固まる。


「……っ」


 え…なんで青髪のヤンキーが…。

 制服は同じだからこの高校の生徒で間違いない。

 姫乃ひめのちゃん、震えながら両手でノートを持ったまま立ってる…。


 ゆりちゃんの時も怖かったけど…。

 それとは比べものにならない程、恐怖で全身がガタガタ震えて……止まらない。


 逃げたい。

 怖い、怖いよ。

 だけど…助けなきゃ。


 バッ。

 わたしは相可おおかくんの黒パーカーについているフードを被る。


 わたしは黒ずきん。

 もう何も怖くない。


 わたしは後ろの扉から教室の中に入って行く。


「あー、やっときた」


 そう言って雪色の制服を着崩した青髪のヤンキーが、にこっと笑う。


「黒ずきんちゃん、こんちは」

「青色狼です」


「なんちゃって、ははっ」

 青髪ヤンキーが意地悪な顔で笑う。

「B組の青井魔咲まさきです」

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