Silver snow5*わたし、体が弱いの。
1
なんで…隣にいるの?
わたし、嘘ついたのに。
一緒に走ってくれるの?
*
「キャー!
12月6日の朝。校庭に女の子達の甲高い声が響いた。
今にも雨が降ってきそうな曇り空で冷たい風が吹き荒れる。
朝の1限から持久走…地獄なはずなのに。
女の子達に混じって
今、男の子15人が校庭のトラックを走っていて、わたしを含めた女の子15人は待機中である。
走ってるだけなのに
「男子、もういいぞ」
「次、女子!」
体育の
「はーい」
とやる気のない返事をし、わたしは女の子達と一緒にトラックに並ぶ。
「
「先生ずっと見てるからな」
わたしの顔が曇り空と同じように曇る。
「はい…」
気持ちで負けていたらだめ。
気合を入れよう。
わたしは上が白で下がピンク色のジャージのポケットに入っていた予備のゴムで髪をきゅっと結ぶ。
「…あんなおっさん、気にしなくていいからね」
隣にいる
今まではずっと一人だった。
だけど今は、
こうやってフォローしてくれる
ううん、それだけじゃない。
――何も諦めるな。
ふと、
一緒に冬の花火を見た日、
だから大丈夫。
それだけで走れる、頑張れる。
ピー、と
分かってはいたけど、どんどん追い抜かされていく。
そしてゆりちゃんがわたしを追い越す瞬間、
肩が軽く当たり、バランスを崩し倒れそうになるも堪える。
「はぁっ……、はぁっ……」
く、苦しい……。
どうしよう…疲れてきちゃった…。
「大丈夫?」
わたしの両目が揺れ動く。
え、
なんで…隣にいるの?
わたしはへらっと笑う。
「うん、大丈夫。先に…」
「行かないよ。一緒に走る」
カラオケ店に行った時、わたし、嘘ついたのに――――。
わたしの両目に、じわりと涙が浮かび上がる。
一緒に走ってくれるの?
*
「あ、おい、
「…ったく、仕方ないなぁ」
「俺も行きますか」
「
「俺達もう一周、トラック走ってきま~す」
体育の
「こら、女子に混ざってトラック走るな!」
*
「え、
わたしの顔が熱くなる。
なんで
夢みたいだ……。
「
「ちゃんと隣で見てるから」
わたしの視界がぼやけ、たくさんの暖かな光が浮かび、きらきらと揺れ落ちていく。
わたしは涙を手で拭いながら走り続ける。
「何アレ、黒ずきん最悪なんですけど~」
「大丈夫、ゆりがなんとかしてくれるって」
ツインテールとショートボブの女の子達が話してる言葉さえも気にならないくらいに――――。
*
「――――今日はみんなよく頑張ったな。解散」
体育の
「
「
「はぁっ、はぁっ……うん」
わたしは息を整えながら笑って返す。
すると
「頑張ったね」
持久走、初めてやり遂げられた。
曇り空から少し霧雨が降ってきた。
あ、雨……。
ゆりちゃんが近寄ってくる。
「
ゆりちゃんが尋ねると、
「いいよ」
「雨降ってきたし、
あ…
「
わたしは
「行くぞ」
*
「あのさ、余計なことしないでくれる?」
自動販売機の前で、ゆりが
近くには、手洗い場とテニスコートがある。
「余計なこと?」
「黒ずきんと一緒に走って」
「更に
「巻き込んでないよ」
「一緒に走ったのは
「はぁ~?」
「
ゆりが手を振り上げた――――。
*
「だめっ……!!」
わたしは
びっくりしてゆりちゃんの手が、ぴたりと止まる。
同時に
「なんで…
「教室に戻ろうとしたけど…出来なかった」
「一緒に走ってくれたから…」
わたしの両目に光るものが滲み、体が
あだ名は黒ずきんで顔は普通。
体は弱くて、本当、だめなわたし。
強くなりたい。
強くなりたい。
強くなりたい。
そう、願うだけで精一杯。
こんなわたしなんて、大嫌い。
だけど、
今まで諦めてたことが少しずつだけど出来るようになった。
だから、もう逃げない。
負けない。
わたしは零れ落ちないように涙を右手で拭う。
「文句があるなら、これからはわたしだけに言って下さい」
「
「今まで雪みたいに固まってたくせに」
「
「黒ずきんなんか溶けちゃえばいいのよ!」
ゆりちゃんが振り上げた手をわたしの頬に向かって振り下ろそうとした時、わたしはその場で崩れ落ちていく。
「え」
ゆりちゃんと
「
「
「うん、私は大丈夫だけど…」
「はぁっ……はぁっ……」
持久走の疲れが出たみたい…。
息するの苦しい…。
「一歩遅かったみたいだね」
「
ゆりちゃんは慌てて否定する。
「…何が? やるならもっと上手くやらなきゃね」
ゆりちゃんはゾクッとする。
「
「私、手上げてないから」
「え、え」
パニックに陥るわたし。
「2限サボるわ」
「おーけー、池田先生に伝えとく」
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