Silver snow2*おはよう。

1


 今日から期間限定の恋が始まった。

 だけど分かってしまう。

 わたしは相可おおかくんの特別なんかじゃない。



雪羽ゆきは、起きなさい」

 12月2日。わたしはお母さんの声で目覚めた。


 なんていうのは嘘で、もうとっくに起きている。


「ちょっと、雪羽ゆきは聞こえてるの?」

「早く起きなさい」

 お母さんは階段の下からうるさく呼びかけてくる。


 わたしは布団をぎゅっと掴む。


 いつもはお母さんに何度か呼ばれてからしか起きられないけど、今日は自然と起きられた。

 相可おおかくんのおかげ。


 わたしは、ふ、っと笑う。


 胸がドキドキする。


 今日からわたしの席は相可おおかくんの隣。


 だけど、“隣の席じゃなくなるまで”だから期間限定の恋になる。

 それでも嬉しい。


 わたしは満面の笑みを浮かべる。


 夢じゃないよね?

 どうしよう、高校すごく楽しみ。


 ちゅんちゅん、と心地の良い雀達の鳴き声が耳に入ってくる。

 ベランダに続く扉を隠した淡い青色の雪柄のカーテンの隙間から陽の光が差し込んでいた。


 わたしはベットから降りて、

 シャッ!

 扉のカーテンを開ける。


 するとベランダでくるまって寝ている猫がいた。

 雪みたいに真っ白な顔に銀色で珍しい綺麗柄が入った猫。


 あ、隣の家の猫…。

 銀雪みたいで可愛いと思っていたけど、なんでわたしのベランダに?

 理由は分からないけど天使みたいな可愛い顔して寝てる…。


「今すぐ撫でたい…」


 だけど、この窓を開けることが出来ない。


 わたしは喘息持ちだから動物のふわふわの毛が体に良くなくて…。


 両親にペット禁止にされて飼えない。


 その代わりに部屋のベットにはハート型のうさぎのクッションがあって、


 小さな四角いテーブルの上にはうさぎのシャーペン、近くにふわふわの雪柄の座布団、


 学習机の棚には教科書が立っててパソコンもあって、


 その隣には耳にリボンがついたうさぎのロップイヤーの小さな縫いぐるみを置いてる。


 わたしは扉に両手の平を当てる。


「冷たっ…」


 だから、こんな近くで見れて嬉しい。


「…!」


 猫、むくっと起きて…。

 くりくりの丸い目、可愛い…。


 猫と目が合う。


「あっ」


 ベランダから走って飛び降りちゃった…。


 わたしはベットの横に置いてあるうさぎ型時計を見る。


 わたしも着替えないと。


 わたしはハンガーにかかった制服をベットの上に置く。


 葉二蘭ばにら高校の制服は、雪色のブレザーの襟に淡い青色でチェック柄のパイピングがあり、


 それと同じ色柄のリボン、ゴールドの2つボタン、両側のポケットに羽の紋章、


 スカートは薄い灰色に水色のチェック柄になっていて、可愛くてお気に入り。


 ふわふわパジャマと下着を脱いで、脇に制汗スプレーを少しだけしゅ~とかけた。


「ひゃっ」


 良い香りだけど冷たい……。


 わたしは新しい下着、ヒートテック、白のレースのブラウスを着る。

 そして黒のタイツを履いてブラウスが隠れるようにスカートを履き、ブレザーを羽織って学習机の鏡を見ながら髪をくしでといて整える。


 ……よし、出来た。


 高校行くの緊張する。

 だけどいつもはいない隣の猫が今日家のベランダで寝てた。

 そしてわたしを見て走って飛び降りた。

 だからわたしも勇気を持って飛び出そう。


 わたしは右肩にチョコレート色の鞄をかけ、灰色のダッフルコートにふわふわのマフラーを持って、

 ガチャッ。

 扉を開けて部屋から出た。

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