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 わたしは目に涙を溜めながら、しゅんと落ち込む。


 …なんて無理だよね。

 1学期に2回、2学期に1回席替えしたけど全部離れた席だったから…。

 もう諦めてる…だから。


「では出席番号順にクジを引きにくるように」

 池田先生がクジの箱を教壇に置く。


 せめて、どうか、どうか、日向ひなたの席になりますように。


「――全員クジ引いたな。じゃあ席移動」


 池田先生が言うとみんな席を移動し始める。


 フックに鞄がかかったグリーンの机。

 教科書の束や体育館シューズが入った袋が置かれた後ろのロッカー。

 すぐ近くには後ろの白いドア。


 わたしの顔が暗くなる。


 最悪だ…。

 寒い日陰の席になってしまった…。

 雪を受け取れたくらいで『…いいことあるといいな』って呟いた自分が恥ずかしい。


「…だよね」

 誰にも聞こえない弱弱しい声で呟く。


 現実は甘くない。

 雪を受け取れても、いいことなんて起きるはずがない。


「あれ? 黒図くろず、隣?」


 え…この声は…。


 窓の外で、ふわふわの雪が降る。


 え、え…相可おおかくん?

 話しかけてくれて、しかも“黒図くろず”って…。


 相可おおかくんに苗字呼ばれちゃった…。

 知っててくれてたんだ…。

 嘘…、こんなことってあるの?


 わたしの視界がぼやけ、みるみる内に光が浮かびきらきらと揺れる。

 雪は降り積もっていく。


 眉が下がり、わたしは震えながらも両手で自分の口を押える。


 ねぇ、どうして?

 ずっと諦めてたのに。


「おい、しゃがんでどうした…」


 ぽろぽろ、と涙が零れ落ちていく。

 その涙は、今までとは違って、一粒ずつキラキラと輝いている。


 わたしは涙をこぼしながらふわっと笑う。


 無謀な恋だって分かってる。

 だけど、隣の席じゃなくなるまで好きでいよう。



 黒図雪羽くろずゆきは、16歳。

 今日、憧れの相可おおかくんの隣の席になりました。


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