Silver snow1*隣の席になりました。

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「はぁ…寒っ…」

 翌日、わたしは白い息を吐きながら葉二蘭ばにら高校に向かって住宅地を歩いていた。


 今日から12月。

 昨日よりも凍るように寒い…。

 灰色のダッフルコートに、ふわふわのマフラー巻いて、黒のタイツ履いてきて良かった。


 ふわっ…。

 冷たい何かが頭の上に降ってくる。


「あ、雪だ…」

 わたしは目をキラキラと輝かせながら言う。


 わたしは思わず両手の平を合わせて広げた。


 あ、手の平に雪…冷たい…。

 だけど一瞬で溶けてしまった。


 わたしはしゅんとなる。

 まぶたのふちに熱くにじむものを感じながら、わたしの両手がかすかに震える。


 なんだか“体の弱いわたし”みたい。


 ――雪を受け取るとね、いいことあるのよ。


 わたしが小さい頃、お母さんがよく、そう言ってたな。

 でも、信じられなくて受け取れたことは一度もなかったっけ。


 それなのに今日は自然に雪を受け取ることが出来た。


 わたしはボソッと祈るように呟く。


「…いいことあるといいな」



「えー、今から席替えをする」

 朝のHRホームルーム中、1年A組の壇上で担任の先生が言った。


 担任の先生は池田先生といって、男で顔がけっこうイケメンなことからみんなから“イケメン”と呼ばれている。


「こんな時期に席替え?」

「イケメン、マジかよ」


 女の子達も男の子達もざわざわしてる。


 わたしが通う葉二蘭ばにら高校はテストごとに席替えをしていて、2学期の期末テストは11月下旬に終わったから席替えでもおかしくない。


 それに、友達もいない彼氏もいないわたしには席替えなんて大したことじゃない。

 だけどもし寒い日陰の席だったら体壊すかもしれないし、今と同じ日向ひなたの席がいいな…。


相可おおかの隣の席になれるかもしれないぞ」


「キャー! やるやる!」


 女の子達の目、狼みたいな目をして、みんなギラギラしてる。

 池田先生の一言で女の子達のやる気が出たみたい。


「チッ、また相可おおかかよ」

 男の子達は不服そう。


 わたしはチラッと相可おおかくんを見る。


 相可おおかくんの隣の席かぁ…。

 もしなれたら幸せだろうな…。

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