2


 入学式の後。


 ふらぁ…。


 だめだ、もう限界。

 みんな教室に戻って行っちゃったし、少し休もう…。


 疲れてしまったわたしは廊下の窓の下で崩れ落ちしゃがみ込む。


 ――――パタ。

 後方から、シューズの音が響いた。


 パタパタ。

 誰かが近づいてくる。


「入学式寝てたわ」


「マジで? 俺もだよ」


 男の子達の声…!?


 わたしは慌てて顔をあげる。

 すると雪みたいに手の平に飴が降ってきた。


 わたしは首を傾げる。


 飴?

 “銀のミルク”って書いてある…。


 銀色の髪の男の子と黒髪の男の子の後ろ姿が見えて、並び的にわたしの前を通ったのは銀色の髪の男の子で。


 見た訳じゃないから確証はないけど、相可おおかくんが飴をくれたんだと思う。

 怖いって思ってたけど、ほんとうは優しい男の子なのかもしれない。


 温もりを感じながら、大粒の涙が頬から滑り落ちていく。


「甘いなぁ…」


 飴を食べたら、ほっとして涙があふれてきて…元気までわいてくる。


 わたしは、この日からずっと、相可おおかくんを目で追うようになった。



 だけど話せたことはまだ一度もない。


 はぁ、と息を吐く。


 明るい女の子達に囲まれる元気な相可おおかくんと体が弱い孤独なわたし。


 ほんと、正反対だな。


 わたしはぎゅっと自分の手を握り締める。


 なんだろう……。

 わたしと別世界にいるみたいだ。

 相可おおかくんが、遠い…………。


 わたしがあの輪に入ることはきっと一生ない。



 放課後、家に帰るとお母さんが玄関のドアの前で出迎えてくれた。


雪羽ゆきは、おかえり」

 お母さんはそう言い終えると、優しく笑う。


 お母さんの頬、真っ赤…。

 寒い中、わたしのこと待っててくれたみたい…。


 お母さんは主婦でお父さんはサラリーマンだから、お母さんと一緒にいる時間の方が長い。


「出迎えなんていいのに…。待ってる間寒かったでしょ?」


「このくらいの寒さなんて平気よ」

「それより、体育の持久走、大丈夫だった?」

 お母さんは心配そうな表情で尋ねる。


「うん、最後まで走りきったよ」

 わたしは笑顔を浮かべながら答えつつも、内心ではもやもやしていた。


 あ…お母さんに頭優しくぽんされて…。


「そう、頑張ったわね」

 お母さんは、ほっとした笑みを零した。


「暖かいココア入れるから早く中に入りなさい」


 お母さん、嬉しそう…。


 視界が薄暗くなっていき、闇が広がっていく。


 ほんとうは“休んでた”なんて言えない。

 優しくて心配性なお母さんには。


 それに正直、出迎えされるの嬉しくない。

 “自分だけ違う”って言われてるみたいで、すごく苦しいから。

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