Silver snow0*諦めてたのに。

1


 今日、憧れの相可おおかくんの隣の席になった。

 ねぇ、どうして?

 ずっと諦めてたのに。



「こら、黒図くろず何サボってる!」

「すみません…」


 薄っすらと日差しが照り、冷たい風が吹く中、校庭で体育の日向ひゅうが先生に怒られているわたしは、黒図雪羽くろずゆきは、16歳。


 髪はロング。上が白で下がピンク色のジャージは、ちょっとぶかぶか。


 そして…周りは元気な女の子達ばかり。

 はぁ。11月の終わりから持久走とか、ほんとう地獄。


「また黒ずきん、怒られてる~」

「仕方ないよ~、いっつもサボってるんだも~ん」


 ボソボソと後ろから女の子達の声が聞こえてくる。


 同じ1年A組の女の子達が言ってる“黒ずきん”は、わたしのあだ名。

 女の子達はサボってるふうに見えてるみたいだけど、そうじゃない。


 見た目はみんなと変わらないけど、わたしは生まれつき喘息持ちで体が弱い。

 そのせいで体力はみんなの半分しかなくて何をやってもすぐに疲れてしまう。


 でも、そんなの、元気なみんなには理解できる訳もなくて。

 今まで両親以外、話しても誰にも信じてもらえず、「あざとい、甘えんな」って言われるだけで。


 わたしの両目がじわりと潤む。


 ほんと、なんでこんな弱い体に生まれたんだろう。

 みんなと同じで元気だったら、嫌味言われなくても済むのに。


 ふわっ…と、しゃがみ込むわたしの隣を男の子が駆け抜ける。


 銀髪の髪?

 一瞬だけど男の子と目が合ってしまった。


「キャー! ぎんくんかっこいい~」


 女の子達が騒いでいる男の子は相可銀おおかぎんくん。

 1年A組の人気者。華やかな顔立ちで存在感が際立つクールなヤンキーボーイ。

 上が白で下が紺色のジャージを着崩し、名前だけに髪の色は銀で片耳にピアスまでつけてる。


 一般的な高校はピアスは禁止だけど、わたしの通うこの葉二蘭ばにら高校はゆるくて個性を大事にするから許されてる。


 女の子達、相可おおかくんに釘付けで嫌味言わなくなったな…。


 わたしはそう思い、ハッとする。


 あ…もしかして、相可おおかくん、わたしのこと助けてくれた?

 そんなこと、ある訳ないよね…。

 でも、前にも同じように思ったことがある。



 4月、葉二蘭ばにら高校入学式。


 鮮やかな青空の下、ふわり、ふわりと校庭に咲き誇る桜の花びらが華麗に舞っている。


 ぽかぽかな春の陽気。

 桜の木の下で女の子達は笑い合う。


 ――――サァッ。

 風が吹き、桜の花びらが舞う。

 桜の花びらが地面にひらりと落ちる。


「キャー! ぎんくん、かっこいい!!」


 あ、女の子達が騒いでる…。

 男の子の髪、銀色!?

 右隣の男の子は黒髪だけど左隣の女の子は茶髪!?


 ――髪染めてるヤンキーには気をつけるのよ。


 今朝、お母さんに注意されたけど、まさかヤンキーがこの高校にいるなんて…。

 しかもヤンキーグループぽい?

 怖い…近寄らないでおこう。

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