多世界渡航編

新たな選択



悠たちが塔の奥へ進むと、不意に周囲の空間が変わり始めた。石壁と瓦礫のダンジョンが淡い光に包まれ、いつの間にか広々とした真っ白な空間へと移り変わっていた。


「なんだここ…?」悠が眉をひそめて周囲を見渡した。


空間には宙に浮かぶ謎の記号や文字がちらちらと輝いている。そのどれもが規則性を持たない不思議な模様だった。そして、その光の中から小柄な影が現れた。


「やぁやぁ、ようこそ『始まりの管理室』へ!」


現れたのは、丸い体型に柔らかな羽毛をまとった小さな存在だった。体長は子猫ほどだが、瞳は大きく、目が合うだけでこちらを和ませるような愛嬌のある顔立ちをしている。手足は短いが、軽やかに空中を舞う姿には不思議な魅力があった。


「えっと…君、何者?」悠が困惑しながら問いかけると、その存在は胸を張り、誇らしげに言った。


「我が名はピリィ!この空間の案内役であり、君たちの選択を見守る者さ!」


「ピリィ…?」リリアが目を丸くする。「こんな可愛らしい子が、管理室の案内役なの?」


「ふふん、可愛いだけじゃないんだぞ!」ピリィは体をふわりと回転させながら、宙に輝く文字を指差した。「ここは君たちが次の道を選ぶための場所。これまでの努力を振り返り、未来を決めるんだ!」


セリナが慎重に質問した。「未来を決める…それはどういうことですか?」


ピリィは真剣な表情になり、ふわふわと悠たちの目の前に浮かびながら説明を始めた。「君たちは、この世界で数々の試練を乗り越えてきたよね。その過程で得た力や知識、そして絆はすべて“魂の成長”につながっているんだ。」


「魂…の成長?」悠が首をかしげる。


「そう!簡単に言うと、君たちはこの世界で“魂の経験値”を稼いできたわけだね。でも、ここで終わりじゃない!君たちが進むべき次のステージを選ばなくちゃいけないんだよ。」


ピリィはぱたぱたと羽を広げると、目の前に二つの映像を浮かび上がらせた。一つはこれまで悠たちが歩んできた道、そしてもう一つは荒廃した別の世界だった。


「一つ目の道は、今の世界に残り、自分たちの生活を守り続けること。二つ目の道は、新たな世界で管理者見習いとして活動すること。君たちにはそのどちらかを選ぶ権利があるんだよ。」


荒廃した世界の映像には、崩れた大地や悲鳴を上げる人々の姿が映っていた。悠はしばらくその光景を見つめたあと、ピリィに向き直った。


「俺たちが行かなかったら、この世界はどうなるんだ?」


ピリィは少し寂しそうに首をかしげた。「その場合、別の誰かが派遣されるかもしれない。でも、君たちほど力を持った存在が見つかるかどうかは保証できないね。」


リリアが静かに言った。「つまり、私たちが選べばその世界を救える可能性が高い、ということね。」


「その通り!」ピリィは大きく頷き、再び明るい声を取り戻した。「でも安心して!どちらを選んでも間違いじゃないよ。君たちの選択は、どっちの道でも価値があるから!」


悠は深く息を吸い込み、仲間たちを見渡した。「どうする?俺たちがここまで来れたのは、みんながいたからだ。それがなけりゃ、何もできなかった。」


セリナとリリアも互いに目を合わせ、次第に決意を固めた表情になった。


「行きましょう。」リリアが口を開いた。「私たちはどんな世界でも、助けを求める人々を救うために戦える。それが私たちの信じた道だもの。」


「そうですね。」セリナも頷く。「ここで止まる理由はないと思います。」


悠が微笑んだ。「よし、決まりだな。ピリィ、俺たちは新しい世界に行くよ。」


ピリィは満面の笑みを浮かべ、羽を勢いよく広げた。「素晴らしい選択だね!君たちなら、きっとその世界を導けるはずさ!」


そして、ピリィが軽やかに宙を舞うと空間全体が光に包まれた。


「新しい冒険の始まりだ!気を引き締めていこう!」

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