世界の仕組み
悠は地面に座り込み、肩で息をしていた。周囲にはドラゴンの巨大な爪痕が刻まれ、焦げた地面からは未だに煙が立ち上る。
「ひぃ…ひぃ…なんとか…やった…?」 悠は顔を上げ、震える声でつぶやく。
リリアが彼のそばに駆け寄り、疲れ切った顔でため息をつく。「まったく、よくここまで持ちこたえたわね。次はもう無理かと思ったわ。」
「私もです…でも、なんとか間に合ってよかったです。」セリナは杖を持つ手を震わせながら回復魔法を唱える。
その光景を見下ろしていたシェリーが、ドラゴンの頭に腰を掛けながら口を開いた。「ふぅ、ようやく終わりね。君たち、本当によく頑張ったわ。」
悠は息を整えながら、険しい顔でシェリーを睨む。「よく頑張った、じゃないだろ! こんな大変な目に遭わせて、何なんだよ!?」
シェリーは肩をすくめる。「まあまあ、怒らないの。これも必要なプロセスだったのよ。」
「必要な…プロセス?」 リリアが眉をひそめながら問いかける。
「そう。私はね、この世界の『管理者候補』なの。簡単に言えば、ゲームの運営を見守る側の立場よ。君たちプレイヤーがどれだけ成長して、秩序を乱さずにこの世界を楽しめるか、それを確認するのが私の仕事みたいなもの。」
悠が驚きの顔でシェリーを見上げた。「ちょっと待て。この世界がゲームって…どういうことだよ?」
シェリーはドラゴンの頭から軽々と飛び降り、悠たちの前に立つ。「この世界はね、現実じゃなくて仮想現実。いわゆる、高度にプログラムされたシミュレーションなのよ。君たちがここで生きて、戦って、成長しているのも、全部その一部ってわけ。」
セリナが混乱した表情で口を開く。「そんな…でも、私たちの記憶や感情は…?」
「当然、全部リアルに感じるように設計されてるもの。だって、その方がゲームとして成立するでしょ? ただし、単なる娯楽のためのものじゃない。この世界は、君たちが“どれだけ秩序を保ちながら進化できるか”を測るために作られているの。」
リリアが目を細める。「それで、私たちを試すような真似をしていたってわけね。」
「その通り。」シェリーは笑みを浮かべてうなずく。「君たちが一人ひとり強くなるのはもちろんだけど、それ以上に重要なのは“協力”よ。この世界では、協力が秩序を保つ鍵になる。そして、私はその協力がちゃんと機能しているかを見極める役割を担ってるってわけ。」
「管理者候補とか言ってたけど、あんたもこのゲームの一部ってことか?」 悠がまだ疑念を拭えない様子で尋ねる。
「まあね。私は運営側の一員として設けられた存在。でも、実は私もまだ訓練中なのよ。本物の管理者になるために、こうして君たちを観察しながら、自分の役割を学んでるの。」
「つまり…俺たちはあんたのテストみたいなもんだったってことか?」 悠が不満げに言う。
シェリーは軽く手を振った。「そんなに大げさに考えないで。むしろ、君たちが成長すれば、この世界はもっと楽しく、もっと秩序ある場所になる。それに、今回の試練を乗り越えたことで、君たち自身がこの世界のバランスを保つ重要な存在になるのよ。」
「重要な存在…?」 リリアが首をかしげる。
「そう。例えば、このドラゴンみたいな存在は本来、暴走しやすいから管理が必要。でも、君たちがその力を抑え、制御する役割を果たせるようになることで、より良い世界が作られるの。君たちがプレイヤーでありながら、この世界の秩序を守る“共同管理者”になれるってことよ。」
悠はしばらく考え込んだ後、ため息をついた。「なんだか、大きな話になっちゃったな。でも…まあ、やるしかないか。」
「その意気よ!」 シェリーは笑みを浮かべながらドラゴンの背を軽く叩いた。「さて、君たちもここで休んでる暇はないわよ。まだまだ学ぶことは山ほどあるんだから。」
悠たちは戸惑いながらも、その言葉にうなずき、次の冒険に向けて立ち上がった。
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