真実の先



 ヴァルノスが消え去った後、悠たちはしばらくその場で静まり返っていた。セリナは疲れ切っていたが、何とか立ち上がろうとする。


「ちょっと…私、倒れるかも…」

 セリナはふらふらと揺れる足取りで、悠の肩を借りながらも言った。しかし、その瞬間、彼女の目に何か異変を感じ取った。


「なんだ…?」

 セリナが眼を細めて周囲を見渡すと、地面がひび割れ、暗い霧が立ち込め始めた。まるでその場が異次元のように歪み、何か巨大な力が集まっているのを感じる。


「なんだこれは…?」

 悠も警戒を強め、周囲を見回した。リリアも緊張し、何かが近づいている感覚に目を凝らす。


 そして、その時、空が一変した。漆黒の雲が立ち込め、まるで天が崩れ落ちるような音が響いた。


「異世界の扉が開いた…?」

 悠の目に映ったのは、天から降りてくる光景だった。だが、それは全く異なる光景。天空から降りてきたのは…巨大なトラクターのような形をしたものだった。


「な、何だこれ?」

 リリアも目を見張る。セリナがそれを見て驚きながらも、言葉を失った。


 そして、その不気味な物体からは、ものすごい轟音と共に「ガチャガチャ」と動く音が響いた。巨大なトラクターが降り立ち、どこからともなく聞こえる声が響く。


「お前たち、久しぶりだな。」

 その声に反応して、悠は振り返る。その声の主は、思いもよらぬ人物だった。


「まさか…お前、シェリー!?」

 悠が驚愕の声を上げたのは、その声の主がかつて一度だけ顔を合わせた、あのシェリーだったからだ。


「久しぶりね、悠。リリア、セリナ。元気そうでなにより。」

 シェリーはトラクターのような巨大な機械の中から、満面の笑みで手を振っていた。その姿は、悠が知っていたシェリーとはまったく異なり、完全にサイボーグのように機械的な部分が強化されていた。


「お前、どうしてこんなことに…?」

 セリナが目を見開いて尋ねると、シェリーは肩をすくめて答えた。


「そうね…実は、あれからちょっとした転職をしたのよ。今は魔法の研究所で新しい実験をしてて、ついでにこの世界を統合しようと思ったの。」

 シェリーの言葉に、悠とリリアは呆然とする。しかし、シェリーは続けた。


「本当はちょっとした秘密があったんだけど、まあ言っちゃうと…私、実はこの世界の管理者の一部だったのよ。」

 その言葉に、悠たちは完全に凍りついた。


「管理者…?」

 リリアが口を開け、セリナも言葉を失った。


「そう。私はこの世界が最初に作られた時に関与していたの。でも、途中でちょっとしたトラブルがあって、私はちょっとした実験を始めたんだよね。」

 シェリーはのんきに話しながらも、その目には冷徹な光が宿っていた。


「つまり、お前がこの世界を作ったってことか?」

 悠は眉をひそめて質問した。シェリーはにっこりと笑って答える。


「ま、そんな感じ。実際、ヴァルノスみたいな小物はすぐに消せたんだけどね。面倒くさいから放っておいたの。」

 その軽口に、悠は腹の底から驚きが湧き上がる。


「じゃあ…私たちの戦いは…?」

 リリアが声を震わせて尋ねると、シェリーは肩をすくめて言った。


「うん、全部演出よ。つまり、私のテストの一部ってわけ。」

 その言葉に、悠とセリナ、リリアは完全に言葉を失った。


「そんな…嘘だろ…」

 悠が呆然と呟くと、シェリーは手をぱちんと鳴らして、周囲の景色を一変させた。突然、彼らはどこかの広間に移動していた。そこには、無数のモニターやコンピューターが並んでおり、まるでゲームの管理者が操作する部屋のような空間だった。


「さて、そろそろ本番のテストを始めようか。」

 シェリーがそう言うと、部屋の中で無数の扉が開き、未知の魔物や異世界の住人が次々と現れた。


「え、これ…?」

 セリナが驚く間もなく、シェリーはその手を振って、悠たちに言った。


「さあ、君たちもテストを受けてみてよ。私は一応、君たちがどれだけの力を持っているかを知りたくてね。」

 シェリーの言葉に、悠は冷や汗をかきながらも、どこかで納得する部分があった。


「つまり、私たちもお前の…実験の一部ってことか?」

 悠が冷ややかな目でシェリーを見つめると、シェリーは嬉しそうに頷いた。


「その通り。さあ、準備して。君たちがどれだけ進化したのか、見せてもらおうじゃない。」

 シェリーが言い終わると、巨大な魔物たちが次々に襲いかかってきた。


「さあ、テスト開始だ!」

 シェリーの声が響き渡る中、悠たちはこの予想を超える事態に立ち向かわざるを得なかった。



次回予告:「シェリーの真の目的とは?」

新たな試練と衝撃の事実が明かされる…果たして、悠たちは無事にこの異次元の実験を乗り越えることができるのか?

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