モフモフ道の始まり



 弟子志願のヴォルグに対し、悠は頭を抱えたまま地面に座り込んだ。


「いやさ、俺はただ隠居したいだけなんだよ?こんな騒ぎになるなんて想像もしてなかった……。」


 一方で、ヴォルグは真剣な表情を崩さず、悠を見つめている。

「お前のモフモフの力に触れて、俺の生き方が変わったんだ。俺はもう、かつての俺じゃない。ただ力を振るうだけの存在でいたくない!」


「そんな簡単に悟り開かれても困るんだけど……。」

 悠の返答に、リリアは横でくすくすと笑いながら、軽く肩をすくめた。


「悠さん、ここは引き受けてみてもいいんじゃないですか?隠居生活を目指すにしても、味方が増えるのは悪いことじゃありませんよ。」


「いや、こんな筋肉隆々の魔物が味方に加わるとか、ますます目立つだろ……!」

 悠がリリアに抗議するも、彼女は楽しそうに微笑んでいた。



 結局、悠はヴォルグの弟子入りを認めざるを得なくなった。理由は簡単で、ヴォルグが土下座のまま全く動かなくなり、根負けしたからだ。


「分かったよ。じゃあ、とりあえず……何を教えればいいんだ?」

 悠が渋々承諾すると、ヴォルグは勢いよく頭を上げた。


「まずは、モフモフの極意を教えてくれ!」


「いや、極意って言われてもな……。俺だって別にモフモフを使いこなしてるわけじゃなくて、盾に頼ってるだけで……。」


「その盾をどう使えば、あの感動的な癒しを再現できるのか。それを知りたいんだ!」


 悠はさらに困惑した表情を浮かべたが、リリアが小声で提案した。

「悠さん、この際ですから、ヴォルグさんに盾の使い方を教えるふりをして、自然と隠居生活に馴染ませるのはどうですか?」


「……それ、ありかもな。」



 悠はヴォルグを野原に連れて行き、周囲の草原を指さした。


「まずは、この草を集めてみろ。モフモフ感を作るには素材が重要なんだ。」


「素材……か。」

 ヴォルグは真剣な顔で草を刈り始める。筋骨隆々の魔物が草を丁寧に集めている姿は、どこか滑稽だったが、本人は至って真剣だった。


「次に、この草をクッションの形にまとめるんだ。丸く、柔らかく、手触りをよくすることが重要だ。」


「なるほど……こうか?」

 ヴォルグは不器用な手つきで草を丸め始めた。しかしそのたびに草が散らばり、全く形にならない。


 悠は頭を掻きながら助言する。

「力を入れすぎるな。優しく扱えよ。モフモフは力で作るんじゃなくて、愛情で作るんだ。」


「愛情……!」

 ヴォルグの瞳に新たな決意が宿った。



 その時、遠くの木々の間から、一人の影が現れた。背の高い男性で、鋭い目つきをしているが、その表情には穏やかな威厳があった。


「ほう、ここでモフモフの修行とは珍しい光景だな。」


 悠とリリアが振り向くと、その男性の姿に驚愕した。

「まさか……王国騎士団長のラグネル様!?」


 リリアが声を震わせる一方で、悠は内心でため息をついた。

(また目立つやつが来た……!俺の隠居計画がどんどん遠のいていく気がする……!)



次回予告:「騎士団長もモフモフの虜?」

突然現れた王国騎士団長ラグネル。彼の目的とは何なのか?そして、モフモフ修行は新たな段階へ――!?

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