モフモフのリーダー



 悠の前に立ちはだかる魔物のリーダー。その姿はどこか人間に似ていたが、背中から生えた黒い翼と赤く輝く瞳が、ただ者ではないことを示していた。


「俺の名はヴォルグ。こんな田舎で、これほど厄介な力に出会うとはな。」


 ヴォルグは悠を見据え、不敵に笑みを浮かべる。その視線に悠は内心で冷や汗をかいた。


(強そうだな……いや、俺は戦う気なんてないんだけどな!)


 リリアが一歩前に出て剣を構えた。

「悠さん、私が盾になります!リーダーの相手は任せてください!」


「いや、盾は俺の役割だって……!」

 悠はリリアを制止しようとするが、ヴォルグが一瞬で間合いを詰める。


「ほう、お前たちで俺に挑む気か。ならば遠慮なく――」


 ヴォルグが手を振り上げる瞬間、悠は咄嗟に盾を構えた。


「待て!とりあえずこいつに触ってみろ!」



 ヴォルグの鋭い爪がモフモフの盾に触れると、眩い光が放たれた。そして――


「……ぬ、なんだこの感触は……?」


 ヴォルグはその場で硬直し、次の瞬間、地面に崩れ落ちた。表情が急に柔らかくなり、目はとろーんと潤む。


「モフモフ……なんて温かくて柔らかいんだ……。こんなものがこの世に存在するとは……!」


 ヴォルグは盾に顔をうずめ、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


「いや、喉鳴らすとか猫かよ!」

 悠は目を見開いて突っ込むが、ヴォルグは全く動じない。


「モフモフ……永遠に触れていたい……。」


 周囲の魔物たちも様子を見ていたが、リーダーがそんな姿になったことで次々と戦意を喪失し、その場に座り込んでしまった。



 リリアが剣を収め、困惑しながらヴォルグを見つめる。

「……これ、本当に大丈夫なんですか?」


「俺が聞きたいんだけど……。」

 悠は頭を抱えながら答えた。


 そんな中、幻獣王が誇らしげに言葉を投げかける。

「どうだ、俺の盾の力の真髄が見えただろう!敵対する者さえも癒し、平和をもたらす究極の力だ!」


「いや、癒しすぎて敵をただの愛玩動物にするのはどうなんだよ……。」

 悠がぼやく中、ヴォルグが急に顔を上げた。


「俺を……お前の弟子にしてくれ!」


「はあ!?」

 悠もリリアも同時に驚きの声を上げた。



 ヴォルグは真剣な目で悠を見つめた。

「お前の盾の力は俺が今まで求めていたものだ。力で支配するのではなく、平和をもたらす力……それを学びたい!」


 悠は呆然としながら盾を見つめた。

「いやいや、俺は別に平和とか大それたことを考えてるわけじゃないんだ。ただの隠居したいタンクで……。」


 リリアは微笑みながら口を挟む。

「でも悠さん、この盾の力を使えば、戦わずして解決できる場面が増えるかもしれませんよ?」


「それはそうかもしれないけど……!」

 悠が返事をためらっている間に、ヴォルグは土下座のような体勢を取った。


「お願いします!俺を弟子にして、モフモフの極意を教えてください!」


 その場の空気が完全に異様な方向に流れていく中、幻獣王が悠の肩を叩いた。

「どうする、悠。弟子にするのも悪くないんじゃないか?」


「お前、簡単に言うけどな……!」



次回予告:「モフモフ道の始まり」

まさかの展開で魔物のリーダー・ヴォルグが悠の弟子入り!?隠居を目指す悠の生活はさらに波乱万丈なものに!次回、モフモフ道を極めるべく修行が始まる――!?

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