悠の選択



 闘いの幕が降りた鍛冶場。瓦礫の山と、戦いの激しさを物語る焼け焦げた床が目に入る中、悠は盾を静かに地面に下ろした。


「ふぅ……これで片付いたか。」

 いつも通り淡々とした口調だが、その肩には少しだけ疲れが滲んでいた。


 その時、瓦礫の向こうから駆け寄る足音が聞こえる。


「悠人さん!」

 リリアが息を切らせながら彼の元へ駆け寄った。その顔には安心と少しの怒りが混じっている。


「どうして一人で危険な目に遭うんですか!何かあったらどうするつもりだったんですか!」

 涙混じりの声で詰め寄るリリアに、悠は一瞬、驚いた表情を見せたものの、すぐに気まずそうに視線を逸らした。


「いや、その……大したことないと思ったからさ。」

 悠は頬をかきながら、恥ずかしそうに答えた。その仕草は、普段の冷静沈着な姿とはまるで別人のようだった。



 リリアは溜息をつき、拳をぎゅっと握りしめると、もう一歩前に出た。


「悠人さん……あなたは、ただの鍛冶屋でいられる人じゃない。今日の戦いを見て、私、改めて思いました。あなたは本当に強い。でも、それ以上に、人を守る力がある。」


 彼女の言葉は真っ直ぐで、悠の胸に静かに響いた。


「私、村のみんなも、悠人さんに守られてるんです。それがどれだけ安心できることか……どうか分かってほしいです。」


 悠はリリアの言葉を聞きながら、どこか遠い記憶を思い出していた。仲間たちと旅をしていた日々。自分の力で守り抜いた笑顔。それが自分にとって何よりも誇らしかったことを。



 悠は深く息を吐き出すと、リリアの目をしっかりと見据えた。


「……俺は、守る力があるだけで、英雄でもなんでもない。ただ、目の前の人たちが困ってるなら、何かしてやりたいと思うだけだ。」


 その言葉にリリアは少し微笑みながら、涙を拭った。


「それで十分です。それが悠人さんの良さなんですから。」


 そう言って彼女が手を差し出すと、悠は戸惑いながらもその手を取った。



 村は戦いの後、少しずつ日常を取り戻しつつあった。村人たちは鍛冶場の修復を手伝いながら、悠に感謝の言葉を伝え続けていた。


「本当にありがとうな、悠人さん!」

「やっぱりあんたがいると安心するよ。」


 そう言われるたびに、悠は気恥ずかしそうに頭を掻きながら「大したことしてないよ」と答えるのが常だった。


 その一方で、村の外では何かが静かに動き始めていた。今回の戦いで失敗を喫した者たちが、新たな策略を練るために暗躍し始めていたのだ。



次回予告:「羊の訪問」

村に平穏が戻る一方で、新たなる訪問者が訪れる。悠の隠居生活は続けられるのか、それとも再び戦いの渦に巻き込まれるのか――。このあとのモフモフな展開に注目!

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