リリアの追求



村の静寂が戻る頃、鍛冶場の中には奇妙な緊張感が漂っていた。悠は工具をいじりながら、視線を彷徨わせている。一方で、リリアは腕を組んで悠をじっと見つめていた。


「悠人さん、先ほどのバリア、あれは普通の鍛冶屋が使えるものではありません。」

「いやいや、本当に普通だよ!最近の鍛冶屋は魔法技術も取り入れてるんだ。時代の流れってやつでさ!」


 悠は笑顔を作ってごまかそうとするが、リリアの目は鋭さを増すばかりだ。


「……嘘をついている顔をしていますね。」

「うっ!」


 痛いところを突かれ、悠はつい工具を落としてしまった。拾い上げながら、さらに挙動不審になっていく。


「どうして隠すんですか?村人たちを守れる力を持っているなら、もっと堂々とすべきです。」

「……いや、それは……」


 悠は言葉を詰まらせた。リリアの正論に反論する材料はない。しかし、悠にはどうしても隠しておきたい理由があった。


(堂々となんてできるわけないだろ……目立つのは嫌だし、人から期待されるのも苦手なんだ。それに……)


 悠は少し目を伏せ、心の中で過去の記憶を思い返した。冒険者として名を馳せていた頃、周囲の注目やプレッシャーに苦しんでいた日々――。それが彼を隠居生活へと追い込んだ原因だった。


「俺には……そんな責任を背負うのは無理なんだよ。」

「責任?」


 リリアは首を傾げる。その純粋な反応に、悠は焦って言い直す。


「いや、なんでもない!とにかく、俺は普通の鍛冶屋としてここでのんびり暮らしたいだけなんだ。それがダメっていうなら、もう話は終わりだよ!」


 そう言って、悠は話を打ち切ろうとした。しかしリリアは立ち上がり、真剣な表情で彼に向き直った。


「悠人さん、あなたがどんな理由でここにいるのかは分かりません。でも、私たち村人にとって、あの力は希望です。」

「希望なんて……俺には重すぎるよ。」


 悠は小さくつぶやき、目を伏せた。リリアはその言葉に一瞬驚いたが、すぐに微笑んで答えた。


「それなら、無理に背負う必要はありません。でも、私が助けを必要とする時だけ、力を貸してください。それだけで十分です。」


 その言葉に、悠は驚いて顔を上げた。リリアの瞳には、何の打算もない真っ直ぐな思いが映っていた。



 二人のやり取りが終わると同時に、鍛冶場の外から何かが近づく足音が聞こえてきた。


「……また魔物?」

「いや、この音は……」


 悠は何かを察し、工具を置いて立ち上がった。リリアも剣を手に取り、慎重に扉の方を向く。


 扉を開けた瞬間、そこに立っていたのは予想外の人物だった。全身を覆う黒いローブを纏った男が、不敵な笑みを浮かべて悠を見ていた。


「久しぶりだな、英雄守護の盾。」

「……誰だ、お前?」


 悠は眉をひそめながら答えたが、その声にはかすかな動揺が混じっていた。リリアもその言葉に驚きを隠せない。


「英雄……って、どういうことですか?」

「まさか……こんな場所で隠れているとはな。貴様を探すのには苦労したぞ。」


 ローブの男は悠をまっすぐに指差した。そして、彼の周囲から不気味な魔力が溢れ出す。


「だが、もう逃がさない。俺と貴様の因縁に決着をつける時が来た!」




次回:「過去の因縁」

悠の隠された過去が明らかに!?突如現れた男の正体とは――。

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