村の英雄は名乗りたくない
翌朝、悠は鍛冶場でいつも通り村人の農具を修理していた。昨日の魔物騒ぎのせいか、村全体が少しざわついているが、悠はできるだけ関わらないようにしていた。
「おい悠人、昨日の魔物の件、聞いたか?」
常連の農夫、ガルドが鍛冶場にやってきて声をかける。手には曲がった鍬が握られている。
「ああ、なんか大変だったみたいだな。でも俺は鍛冶屋だし、詳しいことは知らないよ。」
「そうか……でもな、妙な噂が広まってるんだ。昨夜、村の近くに何者かが現れて魔物を一掃したって。」
悠は手元の作業に集中するふりをして、内心冷や汗をかいた。
「へぇ、そんなことがあったのか。それなら村も助かったな。」
「お前も見ただろ?村の外れの森が根こそぎ倒されてたんだ。あれ、普通の人間じゃできないぜ。」
ガルドは何かを期待するように悠を見つめるが、悠は表情を変えずに鍬を修理し続けた。
「俺には関係ない話だな。それより、この鍬の修理代は銀貨1枚でいいか?」
「お、おう……。」
話をうまくかわし、悠はガルドを追い返したが、村人たちの間で英雄の噂が広まっていることに気づいていた。
* * *
その日の午後、村の広場には村人たちが集まり、村長のフリードが話し始めた。
「皆の者、昨夜の魔物の一件は我々にとって幸運だった。だが、この村を守ってくれた英雄が誰なのか、未だわからない。心当たりがある者は、名乗り出てほしい。」
悠は遠巻きに様子を伺いながら、心の中で溜め息をついた。
(名乗るわけないだろ……。せっかく静かに暮らしてるのに、これで正体がバレたら平穏が終わる。)
村人たちはざわざわと話し合いながら、誰がその英雄かを推測している。そんな中、一人の少女が手を挙げて言った。
「私、昨夜に見たんです!村外れで光る盾みたいなのが現れて、それが魔物を全部追い払ったって!」
悠の背中に冷たい汗が流れる。確かに昨夜、スキル「絶対守護」を発動した際、光のバリアが一瞬だけ見えた。
「その光の盾って、まさか……冒険者のスキルじゃないか?」
「でもこの村に冒険者なんていないだろ?」
村人たちの間で議論が巻き起こる中、村長が静かに言った。
「誰であれ、村を守ってくれたことに感謝する。だが、正体がわからない以上、この村をこれからも守る手段を考えねばならん。」
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