世界最強タンクは隠居したい〜シャイすぎるタンクの冒険譚〜

@ikkyu33

プロローグ



 かつて、異世界の冒険者たちの間で語り継がれた伝説のタンクキャラがいた。名は片桐悠(かたぎり ゆう)。どんな強敵の攻撃も受け止め、どんなに絶望的な状況でも味方を守り抜く彼のスキル「絶対守護」は、誰もが認める最強だった。


 しかし、冒険者としての輝かしい日々が続く中で、悠はふと思った。


「俺、戦いたくてこの世界に来たわけじゃないんだよな……。」


 戦いの連続、注目の的となる日々、そしてどこへ行っても休む間もなく求められる責任――。悠は知らないうちに、平穏な日々を夢見るようになっていた。


 そして、ある日、ひっそりと冒険者ギルドから姿を消した。


 現在、悠は辺境の小さな村で「悠人(はると)」という偽名を名乗り、鍛冶屋を営んでいる。のどかな田舎の風景、村人たちとの些細なやりとり、そしてたまに作るシンプルな料理――これこそが彼が望んでいた生活だった。


「これだよ、俺が求めてたのは。この静けさ、この平穏。」


 彼は鍛冶場でせっせと村人の農具を修理しながら、充実感を感じていた。自分のスキルを駆使するのはもううんざりだ、と心から思っていた。


 だが、その平穏は長くは続かなかった。


 ある日、村に突然現れた魔物の群れが、静かな生活を脅かす。村人たちが必死に逃げ惑う中、悠は唸る農具を手に取り、ただ静かに立ち上がった。


「俺は隠居したいんだけどな……。でも、村がやられるのは困るんだよ。」


 そう呟く彼の目には、かつての冒険者としての鋭い輝きが戻っていた。


 そして、村人たちの知らないところで、魔物たちは一瞬にして消え去る。悠がほんの少しだけスキルを使ったことを誰も気づくことはなかった。ただ、彼の鍛冶場の周囲にあった木々が不自然に薙ぎ倒されていたことを除けば――。


「これ以上目立つのはゴメンだ。もう二度とこんなことはしない……多分な。」


 そう誓った悠だったが、この事件を皮切りに、彼の平穏な隠居生活は再び騒がしいものへと変わっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る