第2話 踊り出す身体
カオマンガイを口に運ぶたびに、彼女の中の何かが変わっていくのを感じた。
美味しさが舌から全身へと伝わり、彼女の体を支配していく。気づけば、足がリズムを刻み、体が勝手に動き出していた。
「え、これ、私……踊ってる?」
彼女は驚きと戸惑いを抱えつつも、止まらない自分の体に圧倒されていた。座ったまま揺れる肩、上下する膝。店内の静かなタイの音楽が、彼女の動きに合わせて徐々に大きく響いてくるように感じる。
「カオマンガイの魔法ね……」
誰にともなく呟いたその言葉が、自分自身への宣言のように思えた。
ついに彼女は立ち上がった。
体が動くままに身を任せると、まるでカオマンガイそのものが音楽を奏で、彼女を踊りへと誘っているようだった。周囲の客が彼女を見つめる中、彼女の意識は完全に解放されていく。
手のひらを広げ、指先で空気を掴むような動きから始まり、次第に全身が波打つように動き出す。リズムに合わせて回転し、軽やかなステップを踏む彼女。店の床が舞台となり、彼女は一人の舞姫と化していた。
汗が額から頬へと伝い、彼女の体を濡らす。
「なんで……止まらない……!」
しかし、その表情は苦しみではなく歓喜に満ちていた。
周囲の視線や雑音など、すべてが消え去り、彼女の世界はカオマンガイだけになっていた。味覚、匂い、感覚すべてが繋がり、踊りが美味しさをさらに引き立てていく。
――その瞬間、店主が彼女の前に現れた。
「お客様、大丈夫ですか?」
穏やかな声に一瞬意識を取り戻すも、彼女の体は動きを止めなかった。ただ、笑みを浮かべながら言った。
「これが……カオマンガイの力なのね。」
そして、彼女の踊りはさらに激しくなった。周囲の客たちもつられるように拍手を始め、いつの間にか店内は一種の熱気に包まれていた。
汗が流れる音が聞こえるほどの激しい動きの中、彼女は心の中で確信していた。
「まだ足りない。この美味しさをもっと全身で表現したい。」
次回、彼女が辿り着く究極のクライマックスとは――。
(第3話に続く)
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