第12話 氷花と焔、宿る賭け

暗夜にて

月明かりがほのかに差し込む闇の中、間諜・穆蒼岳ムソウガクは蓮に低い声で報告した。


「慕家は暗殺の失敗を知り、凛音様が都を離れられたこの機会を狙い、途中で襲撃を計画しているようです。」

蓮は微かに笑みを浮かべながらも、その目には冷静さが宿っていた。「それも承知の上だ。」と応え、背後の李禹に振り返った。

「今回、お前も凛音に同行し、川沿いの道を進むように。道中、目立たぬよう木に葉の印を刻んでおけ。」


李禹は蓮の前に進み出て、深く頭を垂れた。「承知いたしました。」

李家は代々王家に仕える家柄であり、幼い頃から蓮の側に仕え、無言の忠誠を抱いてきた彼は、蓮が凛音への想いを抱いていることも知っていた。

「殿下、途中に印を刻むのは、殿下ご自身も後からいらっしゃるためですか?凛音様は、あまりお望みでないかと存じますが……」

蓮はかすかに微笑を浮かべながらも、静かに答えた。「気にするな。私には私の計画がある。」


彼は続けて言った。「もし今回、雪蓮を見つけることができたら、一つ摘んで持ち帰ってくれ。草木の霊は天地の力を宿すと聞く。雪蓮は冷気の中に生まれながら、性は温かく、陰の中の陽とされる。蒼岳の弟にとっても、良い効果が期待できるかもしれん。」

李禹は指令を受けて、「仰せのままに。」と一礼した。


その時、蓮は鋭い目で蒼岳に向き直り、言葉を告げた。「もしお前が刺客側に回ることになったとしても、必ず彼女を守れ。」

月光の下、蓮の表情は普段の飄々とした様子から一変し、まるで別人のようだ。


翌日


商隊と合流することに決めた凛音に対し、李禹は低い声で「気をつけてください」と警告を漏らした。そして、誰にも気づかれぬよう、左手で木にそっと印を刻み込む。

(心の中で小さくつぶやく。「葉っぱの形か…難しいな。」)


凛音は、商隊の頭領が腰に下げる一振りの精巧な短剣に一瞬だけ視線を止めた。その短剣には見覚えがあるような気がしたが、それについて深く考え込むことは避け、心に留めるだけにしておいた。


夜になり、商隊が小高い丘に陣を張って休憩を始めた。焚き火の周りでは男たちが酒を注ぎ合い、にぎやかに旅の疲れを癒している。頭領は手招きで凛音と李禹を呼び寄せ、酒を勧めてきた。

「さあ、若旦那方も一杯いかがか?寒さも和らぎ、旅の疲れも少しは取れるでしょう。」

凛音は杯を受け取り、周囲の男たちの様子を静かに観察した。彼らの目つきにはどこか監視するような鋭さが混じり、ただの商人には見えない気配を漂わせている。


沈黙が流れる中、頭領が親しげに微笑みながら口を開いた。「お若い方々、その装いといい、品のあるご様子だ。まさか、王城から来られたのでは?」

「ご冗談を。私たちはただの旅人に過ぎませんよ。」凛音は冷静に答え、相手の質問を巧みにかわした。

「ほう、そうか。しかし、さぞかし色々なものをご覧になっていることでしょうな。」頭領は意味深な視線を向けながら、手元の荷物から小箱を取り出した。そして中から一対の美しい耳飾りを取り出し、凛音の前に掲げてみせた。

「こちらは、雪華国の宝飾品だ。見るのは初めてだろう?」

凛音の目がわずかに動いたが、すぐに平静を取り戻し、冷静な声で応じた。「確かに、美しい品ですね。」


雪華国の宝飾品は純白の色調を基調とし、雪のように澄んだ美しさと繊細な細工が特徴だ。この耳飾りも例外ではなく、普通の銀ではなく、寒晶で彫刻された雪花をモチーフにしており、銀の氷晶が雪の結晶のような形に彫られているようだった。それに込められた技術や美しさは、見る者にまるで雪が舞い降りてくる瞬間を想像させるような逸品である。


「雪華国の品は珍しく、手に入れるのも一苦労だ。この道を通ると、思わぬ品に出会うこともあるんだよ。」頭領は不敵な笑みを浮かべ、凛音を試すような目で見つめた。

凛音は微笑を浮かべたまま、軽く問いかけた。「どうやって手に入れたのか、少し興味がありますね。」

「さて、どうだったかな……そこは、商人の秘訣ってやつだ。」頭領は曖昧に微笑み、凛音の探りを避けるように答えた。


その時、頭領が意地の悪い笑みを浮かべて提案した。「ところで、若旦那。ここは一つ、酒で勝負といこうじゃないか。もしそちらが勝てば、この品の出どころを教えてやってもいい。」

凛音は少し考えた後、冷静に頷き、杯を手に取りながら「その勝負、受けましょう」と静かに応じた。


その一言に、男たちが一斉に歓声を上げ、焚き火の炎が揺れる中、杯がぶつかり合う音が響いた。商隊の男たちは次々と凛音に挑発的な視線を送り、「若旦那、どうだ、俺の酒にも付き合ってもらえませんか?」と冗談めかして声を掛けてきた。


凛音は笑みを浮かべながら、彼らの視線を一つ一つ見返した。

「いいわ。望むところよ、皆の勝負、すべて受けて立つ。」

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