第4話 月下の誓い
蓮は、そんな顔をするんだ。
どうして蓮があそこにいるの?どこまで話を聞いていたんだろう。
私が林家に連れ戻された時、最初に会ったのは蓮だった。
彼は剣術を教わるためによくお父様のもとに通っていたらしい。
その時、私は五歳で、蓮は七歳だった。
「お前が凛音ちゃんか。俺は蓮だ、よろしくね。」
蓮はいつもチャラチャラして、たくさん笑って、たくさん私を笑わせてくれた。
勉学も武術も、王位のことさえもあまり興味がないみたいで、自分の世界に夢中だった。
いつも何か変なものを持ってきて、「ね、凛凛、見てよ」と言っていた。
そう、あの人は、あの頃から、ずっと変わらずに私を笑わせてくれたっけ。
「凛音、まだ起きているのか?」
父の声が聞こえ、凛音の思いは途切れた。
「はい、お父様。どうなさいましたか?」
凛音はすぐに扉を開けた。
「凛音、この子は蓮殿下から預かった。お前が助けようとした子だろう。若いが、そばに置いて侍女として仕えさせるのはどうだろうか?」
父の意図を、凛音はその顔からすぐに察した。
「ありがとうございます。」凛音は礼を込めて深く頭を下げた。
父が去った後、凛音は急いで翠羽の様子を確認した。「体は大丈夫ですか?」
目の前のお姉さんは、まぶしいほど美しかった。
さっきの冷たい雰囲気とは全然違うが、どこか同じ安心感があった。
そして、朝に会ったお兄さんにも似ている。ふんわりと、同じ香りがした。
翠羽は思わずそう感じた。
「はい、大丈夫です。」
翠羽が答えると、凛音は少し微笑んだ。
「ごめんなさい。驚かせてしまったわね。」
「いいえ、お嬢様は私のために…」
「そんなふうに思わないで。あれは私自身のためよ。あなたが背負うことではないわ。」
凛音は続けて言った。
「でも、もうあんなことを味わいたくなければ、強くなることよ。自分を守れるように。」
凛音は穏やかに微笑んだ。「翠羽、これからよろしくね。」
翠羽は、しばらく深く礼をした後、静かに部屋を後にした。
残された凛音は、ようやく一日の終わりを感じ、深い息をついた。 夜の静寂が、凛音を包み込んでいた。 窓の外に目をやると、満月が空に浮かび、庭を静かに照らしている。
どうして慕正義は、私の正体を知っていたのだろう。何か裏に、大きな陰謀があるのか。
林家に来てから、凛音はずっと昔を忘れようとしてきた。 父上やお父様のためにも、過去を捨て、敵国で新たに生きる覚悟をしたのだ。 しかし、あの夜の光景が何度も脳裏に蘇る。もし裏に陰謀があるなら……
深い息をつき、冷たい夜風を感じながら、凛音はそっと窓を開けた。 その瞬間、どこからか白い鳥がふわりと舞い降り、静かに窓辺にとまった。凛音が驚きながら鳥を見つめると、鳥の足元に小さな香囊が結ばれているのが目に入った。中からふわりと穏やかな香りが漂ってきた。
それはまるで見知らぬ誰かが寄り添い、安らぎを届けてくれるかのような、温もりを感じる香りだった。誰が届けたものかはわからないが、心が不思議と静まっていく。
凛音はそっと目を閉じ、心の中で誓いを立てた。
必ず、真実を突き止めてみせる――
やがて白い鳥は羽ばたき、夜の闇に溶け込むように飛び去っていった。凛音はその姿を静かに見送り、心に刻まれた新たな決意とともに、夜の静けさに包まれた。
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