台無し
「一緒に埋めるって約束したじゃん」
わたしの一言に、きみはぴゅっと肩を縮ませた。そして、非難するような目でわたしを見る。
「だって」
「だってもなにもないよ」
「だって、あなたまで犯罪者になることないもの」
きみは泣きそうになっている。っていうか、目尻に涙が滲んでいる。わたしはそれを無視して言葉を続ける。
「だから何度も言ってるじゃん。絶対バレないんだからだいじょうぶだ、って。ひとりで抱え込むことないんだから、わたしが絶対一緒だから」
「でも」
「きみが約束を破ったなんて、信じられない」
きみは叱られた子どものように俯く。土まみれの手が震えていた。
きみがひとを殺したと教えてくれたのは一昨日のことだった。階段でいきなり男に襲われ、運良く振り払えたもののその弾みで男が階段を転がり落ち、頭を打って動かなくなった、と。正当防衛だよ、とわたしがいくら言ってもきみは聞かなかった。だから、埋めようと言った。死体を埋めて、ぜんぶ隠蔽。そもそも犯罪者なんだから慈悲なんていらないって言った。きみは渋々そちらを呑んだ。明日の夜に山に埋めに行く約束だった。
約束だった、のに。
わたしは鍵をポケットに入れる。
「今から掘り返しに行くよ」
「やだ、やめてよ」
きみの手がわたしの服を掴む。
「やめて」
「行くから」
「やめてってば」
「どうしてよ」
きみは玄関でずるずると座り込む。
「あなたまで巻き込みたくない……」
座り込むきみの頭を見ている。抜毛症で禿げかけた頭頂部が哀れだった。ストレスの多いきみ。可哀想なきみ。
「……台無しだね」
本気で、救ってあげたかったのに。
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