生きてくしかない

 しばらく旅に出ます。探さないでください。

 ……なんて、ありきたりな文句で済ませようかと思ったんだけど、あなたにはちゃんとぜんぶを説明しないといけない気がしたんだ。

 改めて、この手紙を読む頃には、わたしはもうここにはいません。どこかぜんぜん違う場所にいます。今のわたしにも、どこにいるのかはわかりません。あなたを悪戯に心配させないために、これを書いています。

 わたし自身の気持ちの整理のために、少しあなたとのことを書くね。

 あなたとは、運命共同体のようだったよね。そう感じるのは、わたしだけかな? あなたも感じてたんじゃないかな? わたしとあなたは、そういう類の不思議な絆で結ばれていたよね。だから、わたしとあなたは、ここまで長くて深い縁があるんだよね。

 あなたと出会った時のことをよく覚えているようで、なにも覚えていないよう。あなたと出会ったのは遠い昔のようで、つい最近のよう。わたしとあなたはほんとうに不思議な関係。それが心地良くて、わたしはついにあなたとしか時間を過ごさなくなったよね。あなたにはたくさん迷惑をかけたと思う。

 そして、わたしとあなたがこんな風に惹かれあったのは、きっと、ふたりとも死にたがりだったからだよね。もし今のあなたがそうじゃなかったらごめんね。でも、わたしも、あなたも、会った時からほんとうは死にたくって、よく生死についての話をしたよね。漠然とした話しか出来ないから、いつも議論なんてものじゃなくて、先に進むことも前に戻ることもなく、時間潰しみたいに話していたっけ。

 わたしもあなたも、だけど、それでも生きてくしかなかったね。

 リストカットなんて馬鹿ってほどしたし、首を吊ろうとロープを買ったこともあった。でも、それでも生活は続いたよね。死にたいのにわたしはよくお手洗いに行ったし、死にたいのにあなたは自販機でコーラを買った。ふたりでいつもの三叉路でお別れした後、お互い思うままのご飯を食べた。わたしもあなたも、どうしても生きてくしかなかった。

 だけどさ、あなたと会うの、楽しかったし、すきだったよ。だから生きてけてたの。あなたにとっても、そうだったらいいな、わたしの存在で生き延びることが出来ていたなら、嬉しいな。

 わたしは、どこかで生きてるから、あなたも、そこで死なないでね。わたしは、あなたに死なないでほしいよ。あなたを観測し得ないところにわたしはこれから行くと思うけど、決して死にはしないから、ほんとうに、安心してほしい。

 どうしてそんなことをするかって、簡単に言えば、疲れたからです、ここでの生活に。わたしには、大都会は窮屈すぎる。それだけ。もっとひっそりと、どこか別の場所で、あるいは別の国で、はたまた別の世界で、わたしは生きていたい。そこにあなたがいないのは少しだけ寂しいけれど、きっとわたしもあなたもだいじょうぶ。もうわたしたちは、運命を共にしなくて良いと思う。わたしもあなたも、じゅうぶん大人になったから。

 たくさんたくさんありがとう。これからも、きちんと生活してね。きちんと生きてってね。わたしは、それだけを願っています。

 さようなら。

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