ギフト
「これはぜんぶ、わたしの花なの」
少女はプランターに咲き誇る花弁をぷつりと千切りながら、せせら笑うように言った。少年はその様を見ながら
「どういう意味」
と尋ねる。見つめた少女の目玉からは、紫色をした百合のような花が咲き誇っていて、その境目はおどろおどろしかった。
「わかるでしょう、ここにある花はぜんぶ、わたしの目玉を養分にして咲いた花なの。ある程度育ったら目からこぼれ落ちるから、土に植えてやる。そうしてたらこんなにたくさん育っちゃった」
おぞましいよね、と少女の自嘲気味な笑み。確かに、少女の目玉は枯れたようにしわしわと、しかし水分を含んでじゅくじゅくと、いつ眼孔からずり落ちてもおかしくないような見目をしている。それでも落ちるのはそこから生える花だけだというのだから不思議なものだ。
もっとも、何故目玉から花が生えるのか、それは少年は愚か少女自身にすらわかっていないのだが。
「わたしの花は高く売れるのよ。わたしやきみが一生働いたって手に入らないような金額を、たった数本で稼げてしまう。ね、気持ち悪いよね、こんな得体の知れない花なんて買ってなにがいいんだろうね」
少女は身震いするように二の腕をさすり、今生えている紫の花弁を撫でた。
「ねぇ、触ってみる? これでも神経が通っているから、触られるとわかるんだよ」
少年は迷いなく手を伸ばして、花に触れた。花粉が指紋に沿って付着して、指がもさもさした。つまむように触れると少女はくすぐったがった。目玉の一部に触れているのだと思うと少し気味が悪かったけど、少女の一部なのだからそれも平気だった。
「私の目玉を苗床にして、花は無限に生えてくるの。摘み取ったらこの温室を埋め尽くすくらいたくさんね。これでも売り払ったから減った方だけれど」
少女の瞬きは花に邪魔されて上手くいかないらしい。
「ねぇ、わたしね、花が生えるようになってから泣けなくなったの。たぶん、ぜんぶ花に持っていかれてる。貴重な水分なのかな。わたし、今だってこんなに惨めな気分なのに、ひとつも泣けやしないのよ。こんなの、おかしいと思わない」
少年は肯首すべきか悩んで、しなかった。安易に同調するのも嫌だったからだ。ただ、右の人差し指と親指を擦り合わせて、花粉がずりずり死んでいくのを感じるしかしなかった。
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