瀬戸内の空に登る煙は白

 十数年ぶりに瀬戸内の故郷に帰ってきたのは、祖父の葬式のためだった。夜行バスなどを乗り継いでやっと帰ってきた村、その片隅にある葬儀場。重い扉を開けると中で親族などがばたばたとひしめいていて、気が重い。

「ミタマ!」

 は、と顔を上げると、そこに女がいた。長い髪を揺らしながらこちらに手を振っている。その顔に、見覚えがあった。

「……モア?」

「そそ、よくわかったね」

「そっちこそ……」

 モアは幼馴染で、この様子だとまだ村にいるのだろう、彼女も喪服に身を包んでいた。友人の祖父の葬式に来るとはなんとマメなことだろうか。

「よく、わかったね。だって、わたし、帰ってきたの何年ぶりだと思ってるの」

「十と、三年?」

「数えてんのかよ……」

 ミタマは溜息みたいに吐き捨てて、モアに導かれながら中に身体を押し込めていった。久しぶりに顔を見た両親はやつれているようだったし、親族たちも気重そうだった。それもそうだ、身内が死んでいるのだから。

 葬式はつつがなく終わった。これは生者のための儀式だ、と自分に言い聞かせながら眠気を堪えた。

 バスに乗って火葬場まで運ばれることとなり、ミタマの隣にはたまたまなのかなんなのか、モアが座った。

 モアは手の中で数珠をじゃらじゃらさせている。

「ミタマのおじいちゃんって、優しかったよねぇ」

「そうだね」

「よくミタマんちに遊びに行ってさぁ、ふたりで左右に分かれて肩叩きしたよね。そしたら孫じゃないわたしにもお小遣いくれたの、今でも覚えてる」

「そうだっけ」

「そうだよ」

 モアはこの十三年の間にあったことを教えてくれた。ミタマにはもう関係の無いことだったから話半分に聞いていたが、相槌のたびにモアが嬉しそうにするので忍び無かった。

「ミタマは」

 急に名を呼ばれ、ふとモアを見る。じぃと見つめられるので、なに、と溢した。

「ミタマはさ、この村が嫌い?」

 モアのまっすぐな瞳。

「……嫌い。息が詰まるし、退屈だよ」

「そっか。ミタマらしいね」

「そうかな……」

 このあと祖父にさいごのお別れをして、身体を焼いている間親族で寄り集まって祖父の話などをしていた。ミタマは隅で弁当を食べながら、モアが話しかけてくるのをなんとなく聞いていた。おかげで親族に話しかけられずに済んだ。

 気晴らしに外に行こうと言ったのはモアだった。断る理由も無いので了承し、親族に頭を下げ下げ駐車場に向かった。コンクリートの上をこつこつ歩きながら、モアが深呼吸した。

「それにしても」

 くるり、と振り向いて、モアが笑う。

「ミタマ、喪服似合わないね」

 そこで今日初めて、ミタマも笑った。

「こんなもん、似合う女がいて堪るかよ」

 青空には、白い雲が立ち上っている。

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