何者にもなれない私

子供の頃は、何かになれると信じていた。特に根拠もなく、漠然とそう思っていた。

しかし、成人になってから、私は何者にもなれないと気付いてしまったのである。


母親に、結婚して子供を作れと言われたけれど、私はアセクシャルだから無理だった。

一人前の大人として働かなくてはならないと主治医に言われたけれど、うつ病の私には無理だった。


お前は、本当に魔女になれたのか?

世界を滅ぼすマッドサイエンティストにも、真実に辿り着く名探偵にもなれなかった。

世界の観測者として、不老不死になりたいという夢は叶うのか?

それは、夢物語だと分かっていた。


年齢だけは大人になってしまった私。

幼稚園児だった頃には、もう分かっていたのかもしれない。まともにはなれないのだと。

小学生の頃、将来の夢というテーマで作文を書かされた時に、「私は、普通でいいです」と記した。自分が“普通”になれないと分かっていたのかもしれない。


私は、現実を見つめた。そして、もう現実逃避するしかないと思った。

そんな折、アニメの「進撃の巨人」にドハマりし、原作も既刊分を全て読み、ジャン・キルシュタインを好きになる。

その頃に私は、初めて個人サイトを作り、男主夢小説を書いて世に出した。

なんやかんやで、夢小説書きになって、2024年には11年選手である。


夢小説書きから少し遅れて、オリジナル小説もインターネットに出すようになった。

夢小説では、好意的な反応をもらえることもあったが、一次創作小説への反応は皆無だった。


夢小説は、本当に素晴らしいもので、私は、なんにでもなれるし、どこへでも行けた。

女にも男にも、それ以外にも。動物でも、無機物でも。私は、なれる。

好きな作品の中に入り、自由に歩き回れる。


ところで私は、アイドルマスターのオタクである。アイマスの秋月律子から入り、SideMで本格的にプロデューサーになった。

SideMの凄いところは、プロデューサー(プレイヤーキャラ)の性別が男性に固定されていないことである。

私は、自分で選んで、男性Pをキャラメイクして小説を書いた。

アイドルは、私をプロデューサーにしてくれたし、私は、彼らをアイドルにした。そのことを、お互いに、“見付けてくれて、ありがとう”と思っている関係だと考えている。


物語は、私を何者かにしてくれた。

私の生存戦略は、ちゃんと私を生きながらえさせた。

それから、私に同人誌を出させたし、オンラインイベントにサークル参加させたし、夢カプのアクリルスタンドを作らせたりもした。


いつの間にか私は、夢創作に帰属意識を持つオタクになっていた。

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