第11話

「あれ? おかしいな・・・・・・」


トオルくんが後方のズボンのポケットに手を突っ込んで、必死で何かを探していた。

すると、突然背後から。


「今、そこで拾ったんだけど」

「げっ ユ ユウコ・・・・・・!」


いつの間に取り上げたのか、ユウコがトオルくんのアドレス帳を目の前で、ちらちらと見せつけていた。


「あ・・・ そそれはっ! いつの間に・・・・・・!?」

「これ、捨てちゃおっかな~」

「か 返せよ!」

だ。 アタシと『デート』する気があるなら、返してあげる」

「くそ~~~ お前は・・・ 詐欺の常習犯か」



それから数分間‥―――。

2人の激しい言い争い。

さすが、年季が入ってる~。



そのとき 突然、強い風が吹いてきたかと思うと。

ユウコの手に持っていたトオルくんのアドレス帳が・・・・・・宙に舞った。

そして、そのまま窓の外へ真っ逆さまに落ちていった。


「あ・・・ ごめん! ・・・手が滑っちゃった」

「お前・・・ 誰かに拾われたらどうする気だ!!」

「アタシ、知~らない」


ユウコは、そう言って素知らぬフリをする。


「くそ! 取りに行ってくるっ!!」

トオルくんは、あおい顔をして教室から飛び出して行った。


ちょうどそのとき、リョウちゃんがトオルくんと入れ替わりに、教室に入ってきた。


「早く帰ろうぜ」

「う、うん」


ユウコは、さっきトオルくんのアドレス帳が落ちていった窓の外に目を向けていた。


「ん? どうした?」

「トオルくんのアドレス帳が・・・・・・」

「は?」


今まで起きた状況を何も知らないリョウちゃん。

当然、キョトンとした顔をしていた。


ユウコを教室に残して外へ出ると、アドレス帳を探しているトオルくんの姿が見えた。


「あ・・・ トオルくん」

「ホントだ」


こっちには全く気付かないトオルくんに、リョウちゃんがニヤッとした笑みを浮かべると、大声で呼びかけた。


「トオル~! アドレス帳あったか~?」

「馬鹿っ! 声がでかいよ」

「もう、誰かに拾われちゃった?」

「早く、帰れよ・・・・・・」


悪戯っぽい笑みを浮かべてからかうリョウちゃんにトオルくんは、相変わらず ご機嫌斜め。

いつもは、クールで女子生徒からも憧れの存在のトオルくんが、今日は必至でアドレス帳を探している。

その光景が可笑しくて、思わず「ぷっ!」と吹き出した。

トオルくんには申し訳ないけど、笑いを堪えることが出来なかった。


ごめんね。

トオルくん・・・・・・。

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