第2話 旅の始まり
彼女の提案に乗ってみたはいいものの、本当に大丈夫なんだろうか……
(お腹痛いな……)
「ちょっとトイレいってもいいですか?」
「いいわよ」
僕はトイレに駆け込む。
あぁ、これだ。ストレスがかかるとだいたい、お腹にくる。
「ごめんなさい、でもこれからどうあがいてみようかと不安になって……」
僕は不安気に言う。汗びっしょり。
結局あの後、僕と彼女はカフェに異動した。個室タイプの静かな空間。人混みや人の会話がガヤガヤと気になるというか、それもまたドキドキしてしまうから……
でも、中には締め切られた空間がストレスに感じる方もいて、これも難しいなぁと頭でぐるぐる考えていた。
(今思い返せば、他人の目に過敏になってたのかな?)
「私のことは気にしなくていいわよ。あんなこと言ったけど、何も浮かばないもの……」
彼女のその言葉に、僕はうーんと考えながらも返すことはできなかった。いや、僕から言ったらまた突き放されるかもしれないという恐怖感からかもしれない。
無言の空間。お店のホールを歩く誰かの足音が響いてくるだけ。
彼女はうつむいて、時々どこかを見つめていた。
何か飲む?って言えれば良かったのに──
「あ、これ……」
しか出てこなかった。たった2文字。
しかも、メニューを渡すのでせいいっぱい。
「ありがとう。濃い味があればいいのだけど」
彼女はしばらくメニューをみて、テーブルに備え付けのタブレットに打ち込む。
タブレットでもメニューは見れたはずなんだけど、無言の空間を作りたくなくて。
そのツールが紙のメニューだった。
彼女が選んだのは苦さMAXのコーヒー。
「これくらいじゃないと、わかんないんだ。味。ここまで感じられないって何か切ないね」
(ちょっと口調が変わったような… 気にしすぎかな……)
また考えてしまった。
彼女はコーヒーを一口飲んだ後に
「私はまず、粉々になってしまった何かを拾い集めることから、したいなって思うの。その何かって分からないんだけどね……」と呟いた。
僕は一呼吸置いて
「まずはここで話すことから始めませんか?何でもいいので」と言った。
ドキドキだった。
「はい」
表情を変えないから、本当のところは分からないけど、彼女はそう答えた。
「じゃあ、次も会えるように連絡先交換しないとね」
「うん…!」
彼女からのその言葉に、きっと嬉しかったのだろう。僕は涙を流した。
だって、また次があると思えたから。
また涙出てるね──
そうして僕たちは連絡先を交換した。
「怜くんって呼ぶね。よろしくね」
「よろしくお願いします…!のぞみさんでいいですか?」
「いいよ」
僕たちは店を出た。
「じゃあ……」
バイバイも何も言わない、そんな別れだった。
彼女はまた来てくれるだろうか、どうかなと僕は再びぐるぐる考える。
あがいてみる──
それは、僕たちの中で壊れた何かを拾い集めることなのかもしれない。
話すという一見してみたら、何でもない当たり前のことが、2人にとってはこの先始まる長い旅のはじまりであった。
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