何もかも失った僕が世界を取り戻すまで。

あっちー

第1話 壊れた世界

 ばりん──

 何かが崩れる音がした。いや、割れたような…


「大丈夫ですか?」

 気がつけばそこは病院。そうだ、体調悪くなって救急車を呼んだんだった。

 精神的にはかなり限界だった。


「行かなきゃいけないので……」と僕は起き上がる。

「まさか会社行こうとしてる?今日は会社休まなきゃダメよ」

 看護師はとめる。

 でも行かなきゃいけなかった。だって頑張らないといけなかったから。


 結局、その日は会社を休んだ。

 散々行かなかったことを後悔した…はず。

 今思えばね。



 数日後──

 僕は会社を辞めさせられた。

 理由は、勤務成績が悪かったから。

 精神的に衰弱している僕をみて、あなたのことを思ってと付け加えられて。

 その日のうちに荷物をまとめて出ていった。


「あぁ…そうか……」

 ばりんと割れていた何かは完全に砕け散った。

 今なら確実に世界とおさらばできる。

 もう、何もかも失ったのだから。


「さようなら…僕の人生……」

 踏み出そうとした、その時。


「あなたも苦しいのね。私もよ」

 知らない、見たことない、というか人生であまり異性との関わりがない……

 同年代くらいかな。


「なんで分かるんだよ」

 出てきた言葉は初対面にしてはずいぶんと反抗的なものだった。

(やばい…こんなの最低じゃないか……!)


 涙がぽろぽろとあふれてきた。


「なんで泣いてるの?」

「だって…!辞めさせられたことを八つ当たりしたみたいになってるから…」

「やっぱり。私も辞めさせられたのよ。会社。だから同じね」


「私はあなたみたいに涙なんか出ない。怒りすらわかない。なんか感情がなくなったみたいね」

「あなたと私は。だけど

「心って難しいわよね……」


 何を言ってるのかさっぱり分からないけど、僕と同じく壊れちゃったんだというのはわかった。


「ねえ、壊れちゃった者同士、もう少しあがいてみましょうよ」

「え……?」


 まさかの提案だった。だって、死ぬことばかり考えていたから。


「いやならもう終わりにする?」

 彼女の発言に僕はブンブンと首を振った。


「いや…!やってみる!」

 あふれるばかりの涙を流しながら、僕は彼女の手を取った。


「涙流して…あなたは涙が先に出てくるのね」

 彼女は表情を変えないけど、しっかりと握り返してくれた。



 これが壊れた僕を。いや、壊れてしまったんだと思った世界を取り戻す、最初の小さな一歩になった。

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