第25話 2024年アニメ映画評24・「クラメルカガリ」
6月最初のアニメ映画は塚原重義監督・成田良悟原案のスチームパンク。大正時代を彷彿とさせる意匠だが、設定は近未来。スコアは7点くらい。Wiki曰く甲鉄傳紀(なぜ、鉄が新字体なのかは謎)なるシリーズの一つだが、どうやら世界観を共有している程度で繋がりは希薄らしい。同月には「クラユカバ」という、これまた甲鉄傳紀関連の作品が上映された。
泰平工業傘下、零細採掘業者がひしめく炭砿町、通称・箱庭。クラッシュ・アンド・ビルドが絶えないその町では、一定期間経つと地図は用を成さなくなる。地図屋の少女・カガリは、幼馴染の同業者・ユウヤと昨今頻発する陥没事故を調査し始める。紆余曲折あって、採掘業者・石猿一家が、シマを争う商人組合・狛犬市場を追い落とすために仕組んでいたものと判明、両者の抗争にカガリも巻き込まれる。
絵柄は個性的でメカのアクションも凝っている。世界設定含め、美術や被服など造型は非常にいい。絵を見るだけでも満足できるだろう。ただ、昨今の日本アニメ的画風ではないため得手不得手が別れるかも。
話は悪くないが、人にお勧めするかと言われると、うーんと首を傾いでしまう。なんだか三部作の一本目を観た感じ。最近のMUCみたく、終わり? あっ、続き作るんだ、へえ、まあ消化不良な設定あったしね、といった雰囲気。ただ、この作品は「クラユカバ」の派生らしいから、締まらないところがあるのは仕方なかろう。
物語は三つのプロットが同時進行し、主となるのはカガリとユウヤによる街の冒険と陰謀の調査である。主人公のカガリは地図屋に誇りを持つ職人気質で、かなり保守的性向。対比される幼馴染のユウヤはカガリに惚れており、彼女と一緒に街の外で新生活を始めたいと思っている。主人公はかなりフワフワした気質で、子供だから仕方ないとはいえ、先々をどうしたいのかまるで分からない。伊勢屋に良くしてもらっていると思っているが、傍から見ると、搾取されているようにしか見えない(逆にユウヤは待遇に不満を抱いている)。話の流れ的に箱庭にずっといたいんだろうが、それは親もなく生きてきて、この街しか知らないからだと思われる。典型的な貧困による視野狭窄だ。一方のユウヤは街の搾取構造に気づいているが、新天地なら良い暮らしができると何故か確信しており、渡米する若者みたいな無謀さがある。二人の欠点は幼さに起因するものだが、それに気づかせる大人はいない上、大人達も搾取から抜け出せない。従って本作の世界観は全体に暗鬱で過酷。それこそ大正時代の鉱山労働である。話のオチは抗争で壊れた暮らしを建て直そうというものだが、劣悪な労働環境にメスを入れず、元の暮らしを肯定するので、人間のホメオスタシスが持つ愚かな一面を描いてる。
裏の筋は諜報機関の工作員・シイナが街の陥没事故を調査するものだが、主線と合流することなく、平行のまま終わってしまう。正直、シイナのストーリーはなくてよく、一連の陰謀に対して枠の外を調べるだけなので影が薄い。せめて石猿一家の逮捕くらいしてくれよ。鏡花「歌行燈」みたいに離れていた物語がグイっと縒り合される様が見たかったな。
三つ目のプロットは朽縄絡みで、この人は、かつて泰平工業で自立機関なる自動制御ロボットの研究をしており、技術の軍事利用に失望して野に下った。作中では自身の開発した技術が抗争に使われたことを知り、過去を清算するため兵器を破壊する。科学者の苦悩を体現したキャラで、まあよくある設定である。「ゴジラ」の芹沢にちょっと似てるかも。いや、どっちかというと「アトム」に出てくる諸々の科学者かなあ。
それはそれとして、陥没事故の下手人は、割と順当というか、最初に容疑者となる人(組織)が犯人だった。ユウヤの裏切りには驚いたけど、まあこれも中盤くらいで気づく。あと、ネットだと伊勢屋や栄和島が割と人気らしいが、児童労働をさせている人間だし、近代的価値観からすると、いくら顔がよくても、って感じだ。世界観を加味しても伊勢屋は危険な現場に子供を行かせてるしなあ(一応、本人が行きたいからとエクスキューズされている)。
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2024年アニメ映画評 @Kan_Itoga
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