第22話 2024年アニメ映画評21・「i☆Ris the Movie Full Energy!!」
声優アイドル・i☆Risを主役としたファンムービーで、デビュー10周年記念プロジェクトの一環。ちなみにデビューは2012年で、2022年から数年かけて企画をやっていたらしい。予想はついていたが、圧倒的な一見さんお断り作品で、新規ファンを増やそうというものではなく、i☆Risについて多少でも齧ってなければ然程楽しめない。筆者はこのグループについて全く知らなかった上、予習が間に合わないまま観たので、へえ、って感じだった。まっさらの状態で観たら5点くらい。一応、芹澤優は知っていたが、それもだいぶ前に「犬とハサミは使いよう」の変な作家役で耳にした程度である。
デビュー十周年記念ライブを控えたi☆Risは、ある時、白いリスの手で異界に飛ばされる。そこは願いがなんでも叶う魔法の世界だったが、音楽が盗まれたことで滅亡の危機に瀕していた。i☆Risらは白いリス・シロリス(ちょっと面白いネーミングである)と音楽を取り戻す冒険に出かける……。
映画にしてはやや映像クオリティが低いけれど、まあ別に観れないものではない。ただ、見せ場であるライブシーンが凡庸だなあと感じた。そこくらいは金をかけてほしい。また、冒頭の、なりたい自分に変身するシーンは展開・演出の変化に乏しい。もう少し工夫がないと、観てて退屈する。
話はハチャメチャで、「アイカツ」シリーズの劇中劇を彷彿とさせる奇態振り。まあ、「アイカツ」の方が頭のネジは飛んでいる(アイドル宇宙戦記とか)が。ただ、その素っ頓狂振りも最初三分の一ぐらいに収まっており、それ以後は順当な筋で先が読めるため少々辟易。「アイカツ」の方がラストまで乱痴気ムードを貫いてくれて楽しかった。
異世界では何でも願いが叶うため、転移したばかりのメンバー達は思い思いのコスプレをし、ユートピアを作って楽しむ。このシーンはメンバーの簡便な紹介にもなっているが、直前の楽屋シーンで出た情報とやや被っていてちょっと飽き飽きした。一方、いざ冒険が始まると集団行動優先で各人の個性が殺されてしまい、キャラが掴めなくなる。結果、ラストの成長があまりピンと来ない。勿論、ファンなら各人の性格を把握しているわけだから情報量が少なくても問題ない。そういう意味でもファンムービーなのである。
デビュー十周年を迎えての不安とその解消がテーマの一つだが、その解決法はあまりよく分からなかった。一応、ファンと歩いてきた道程を回顧し、これからも皆のために音楽を届けたい、みたいな感じで終っていたが、それで不安はなくなったのか? と思った。元々、どういうことが不安の根元か分からず、漠然としていたので、どんな解答でもある程度整合性が取れると言える。提起→解決をネタにするならば、例えば、売り上げが立たないとか、ファンの数が年々減っているとか、そういう生の現実と苦悩を関連させた方が良く、そうしない場合、解決法は気の持ちようになってしまう。本作に関してはそれでもいい、i☆Risのセラピーでも問題ないという判断なのだろう。まあ、無我夢中でやっている時にふと立ち止まると、何でここにいるんだっけ? と健忘症に陥ることがあるから、それと似たようなものか。そういう時は自身の立ち位置を確認したくなるものよな。
しかし、悪役の音楽の独占理由が、同担拒否だったのはちょっと面白かった。あと、何にでもなれる世界なんだから、わざわざ歩かずとも鳥に変身して山を登ればよかったのでは?
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