第6話:最終決戦

翔太と直樹が校庭の隅を駆け抜けていた。

「おい直樹!こっちだ!遊具の方へ逃げろ!」

翔太が叫ぶが、直樹は焦りのあまり反応が遅れる。


その瞬間、背後から迫る重い足音が2人の耳に届く。


「捕まるぞ!」

翔太が振り返ると、そこには笑みを浮かべた先生の姿があった。


「君たち、ここで終わりだな。」


先生は無駄のない動きで距離を詰め、一気に直樹の肩を掴む。


「捕まえた!」

直樹は振り返り、苦笑しながら言った。

「先生、やりすぎっすよ……本気すぎ!」


「当然だろ?ゲームは本気でやるものだ。」

先生はそのまま直樹を牢屋に向かわせる。


(直樹が捕まった……くそっ、次は俺かよ!)

翔太は悔しそうに顔を歪めながら全力で駆け出す。


校庭中央では、大地と隼人が正面から向き合っていた。


「ここで終わりだ、隼人。」

大地が自信に満ちた声で言い放つ。


「どうかな?俺たちの勝負は簡単には終わらないさ。」

隼人は不敵な笑みを浮かべると同時に駆け出した。


大地もその動きにすぐ反応し、圧倒的なスピードで隼人を追い詰める。


「逃げられると思うなよ!」

大地の声が響き、隼人は遊具を縫うように走り抜ける。


(やっぱり速い。でも、俺には時間を作る必要がある――。)


隼人はフェイントを繰り返しながら、大地の動きを慎重に観察していた。


校庭の端では、美咲が息を切らしながら茂みの陰を利用して逃げていた。だが、その後ろを奈々美が執拗に追いかける。


「もう逃げ場はないわよ、美咲!」

奈々美の冷静な声が背後から飛ぶ。


「……まだ捕まらない!」

美咲は必死に足を動かし続けた。


(隼人が私を信じてる……だから私は逃げる!)


奈々美はわずかな距離を詰めながら、美咲に問いかけるように言った。

「どうしてそこまで必死になれるの?隼人のため?」


美咲は息を切らしながら振り返ることなく答えた。

「そうよ。隼人が頑張ってるんだから、私も負けない!」


その言葉に、奈々美の目が鋭く光る。


「だったら、私も負けられないわ。大地のために!」


校庭の反対側では、翔太が必死に逃げ続けていた。


「先生、来るなって!」


「そう簡単に逃がすか。」

先生は翔太の動きを見ながら、冷静に先回りする。


翔太は遊具を縫うように逃げ続けたが、先生の足音がどんどん近づいてくる。


(くそっ、どこまで追ってくるんだよ!)


次の瞬間、翔太の逃げ道が塞がれる。


「君の逃げはここまでだ。」

先生の手が翔太の肩に触れた。


「……マジかよ。」

翔太は悔しそうに唇を噛みしめながら、牢屋へと連れて行かれた。


茂みの陰から抜け出そうとしたその時、美咲の足が小さな石につまずいた。


「……っ!」


バランスを崩し、地面に倒れ込む美咲。その瞬間、奈々美が駆け寄り、美咲の肩に触れた。


「捕まえた。」


美咲は肩で息をしながら、奈々美を見上げて言った。

「……あなた、やっぱり強いね。」


奈々美は静かに答える。

「当然よ。だって、大地のために負けられないもの。」


チャイムまであと数分。校庭は緊迫感に包まれていた。


泥棒チームは次々と捕まり、牢屋には直樹、翔太、花音、そして美咲が閉じ込められている。唯一自由に動ける隼人は、たった一人で警察チームの包囲網を抜け、最後の逆転を狙っていた。


(全員を救うのはもう無理だ……。ならば、このまま大地を抑え込む!)


隼人は深呼吸をし、視線を前方に集中させる。そこには校庭の中央で仁王立ちする大地の姿があった。


「隼人、ここで決着をつけようぜ。」


「望むところだ、大地。」


二人の目が交差した瞬間、空気がさらに張り詰める。


隼人が一歩踏み出すと、大地も同時に動き出した。


隼人は遊具の間を縫うように走り、大地は直線的にそれを追いかける。


「どうした?足が止まってるぞ!」

大地が挑発するように叫ぶが、隼人は振り向かず、全力で走り続ける。


(追わせるんじゃない。追わせているんだ。)


隼人は遊具を盾にしながら、大地のスピードを徐々に削っていく。


だが、大地は鋭い目で隼人の動きを読み取り、少しずつ距離を詰めていく。


「その程度か、隼人!」


「速さだけじゃ勝てないぞ、大地!」


隼人はフェイントをかけ、突然方向を変えた。大地もそれに即座に対応し、一直線に追いかける。二人の距離がどんどん縮まっていく。


校庭の隅、ジャングルジムを抜けたところで隼人は一瞬動きを止めた。


(ここだ……大地のスピードを利用する!)


隼人は再び駆け出し、大地を狭い通路へと誘い込む。狭い道では大地の全速力が活かせず、隼人は障害物を利用して逃げ道を作る。


「逃げ切れると思うなよ!」


大地は障害物を強引に突破し、隼人を追い詰めようとする。


(大地の足は直線的。でも、それを逆手に取れば――!)


隼人は急停止し、大地の進行方向を完全に読み切ったタイミングで横に飛び込む。


「またその手か!」


大地は鋭く方向を変えるが、その一瞬のタイムロスで隼人との距離がわずかに開いた。


二人の息遣いが荒くなり、校庭の隅で再び向き合う。


「やるじゃないか、大地。でも、まだ俺は捕まらない。」


「なら、そのまま逃げ続ければいい。捕まえてやる!」


大地が再び全力で隼人を追い詰める。隼人は遊具の隙間を縫い、茂みを利用しながら走り抜けるが、大地はそのルートをすべて読み切っていた。


「もう終わりだ、隼人!」


背後から迫る大地の手が、ついに隼人の背中に触れた。その瞬間、隼人は体を大きくひねり、大地の手をかわす。


「なんだと……!」


隼人は一瞬で距離を取り、次の動きに移る。


最後の直線に入る。隼人は校庭の端、砂場に向かって一直線に駆け抜ける。大地はその背中を追いながら、全ての力を足に込めた。


「これで終わりだ!」


大地の足が砂場に踏み込んだ瞬間、隼人が突然止まる。


「なっ……!」


大地の勢い余った動きが隼人の隙を作り、隼人はすぐさま砂場を抜けて走り出す。


キーンコーンカーンコーン


時間切れを告げるチャイムが校庭に響き渡った。


「……勝った?」

美咲が不安そうに呟いたその瞬間、校庭に昼休み終了を告げるチャイムが響き渡る。


牢屋の中でじっと待機していた翔太が勢いよく立ち上がった。

「やったあ!これで泥棒チームの勝ちだろ!」


直樹は牢屋の中で手を叩きながら笑い出した。

「マジかよ、ギリギリじゃん!隼人、やっぱお前すげーわ!」


牢屋を抜けた美咲は隼人に駆け寄り、嬉しそうに言った。

「本当に……勝てたんだね!」


隼人は大きく息をつきながらも、静かに微笑んだ。

「ああ、最後は全員で粘ったおかげだな。」


花音が両手を挙げて喜びながら、翔太の肩を叩く。

「翔太、走り回って先生を引きつけたの、すごかったよ!」


「だろ?最後の俺、めちゃくちゃかっこよかったよな!」

翔太が得意げに笑うと、直樹が茶化しながら言った。

「でも捕まったよね?」


その場にいた全員が笑い、泥棒チームの勝利を実感していた。


一方、校庭の中央では、大地が悔しそうに拳を握りしめていた。

「くそ……あとちょっとだったのに。」


奈々美も肩を落としながら、大地に言った。

「私も……美咲を捕まえたけど、それじゃ全然意味なかった。」


「いや、奈々美はよくやったよ。」

大地は息を整えながら彼女を見て続けた。

「隼人のあの動き、俺たちに足りないのは冷静さだったかもな。」


その様子を見ていた先生が、ぽんと大地の肩を叩いた。

「悔しがるってことは、それだけ本気だった証拠だよ。よくやった。」


奈々美がふと美咲の方を見て呟く。

「次は負けないから……覚悟してね。」


勝利に湧いている泥棒チームの方へ、大地がゆっくりと歩み寄った。


「隼人。」

静かに呼びかけられ、隼人が振り返る。


「次は、絶対に勝つ。」

大地が手を差し出すと、隼人はその手をしっかりと握り返し、短く答えた。

「望むところだ。」


奈々美も美咲に歩み寄り、手を差し出した。

「おめでとう。でも次は勝てないわよ。」


美咲はその手を握り返し、小さく微笑んだ。

「その時はもっと全力で逃げ切ってみせる。」


先生が全員を見渡しながら、大きな声で言った。

「いい勝負だったな。次はもっと厳しいルールでやってみるか?」


直樹がすぐに反応する。

「マジっすか先生!でも、俺たちまた勝っちゃいますよ!」


翔太が笑いながら拳を握りしめた。

「次も走り回ってやるよ!」


全員が笑い合い、再戦への期待を胸に校庭を後にする。


(次はどんな勝負になるのか――。また熱い戦いが始まることを予感させる中、物語は幕を閉じる。)

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昼休みの闘走劇 @didi3

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