第5話

 辺りも暗くなってきた頃、フードを深く被りながら、俺は酒場に来ていた。


「ちょっといいか?」


「あ? ……おう、なんだ?」


 男三人でテーブルを囲み酒を飲んでいた奴らに向かって三杯程酒の入った瓶を置きながら、俺は声をかけた。

 

「いや、なに、この街の領主、ロップ伯爵について聞きたくてな」


「ロップ伯爵? 別に普通の領主なんじゃないか? 可もなく不可もなくって感じだ。なぁ?」


「あぁ、良くも悪くも普通って感じだよな」


「まぁ、そうだな。あ、でも……」


 最後の男が意味深な感じを出してくる。

 何か知ってる……と言うか、やっぱりロップ伯爵には何かあるのか?


「でも?」


「あー、確実な情報じゃないんだが、大丈夫か?」


「あぁ、もちろん大丈夫だ」


「なら話すが、俺の友達の姉はロップ伯爵の屋敷でメイドとして働いてるんだよ」


 女性関係の話しか? ……俺、無理やり女性を​……みたいな話は一番嫌いなんだが?

 そう思いつつも、顔には出さずにその男の話を促す。


「で、その姉ちゃんが見たらしい……あくまでらしいってレベルの話なんだが、ロップ伯爵の屋敷には地下室があって、そこには女の子が閉じ込められてるんだってよ。……その友達の姉ちゃんも声を聞いただけだから、聞き間違いかもしれないって言ってたし、結局のところ真相なんて俺たちみたいな一般人には分からないけどな」


 ……確信がある話じゃないって言うのは念を入れられているから分かってるけど、少し前まで血縁上は俺の父親だったやつと仲が良かったようなやつだし、どうしても怪しく感じてしまうな。


「わざわざどうも」


「気にすんな」


 一言言って、俺は酒場を出た。

 他の奴らにも酒を奢り、話を聞いても良かったんだけど、もしもさっきの話が本当だった場合、今もその女の子はロップ伯爵の屋敷の地下で怖い思いをしているかもしれない。

 少しでもそう考えてしまうと、ロップ伯爵の街に向かっている俺の足が止まることは無かった。

 これでロップ伯爵の屋敷に何も後ろめたいことが無かった場合、俺はロップ伯爵の屋敷に忍び込んだだけの犯罪者になってしまうわけだけど、それは今更だ。

 義賊を目指している……と言うか義賊になった時点で普通に犯罪者だしな。






 隠密スキルを発動させた俺はロップ伯爵の屋敷の前に立っていた。

 この街の領主の家だから、ロップ伯爵の家は目立つし、直ぐに辿り着くことが出来た。

 もう夜だし、早速忍び込むか。

 そう思い、家を守っているであろう騎士達の横をゆっくりと足音を立てないように通り抜け、取り敢えず屋敷の敷地内に入ることには成功した。


 パッとここからでも見る限り、扉はもちろんとして、窓も全て閉まっている様子だ。

 貴族の屋敷ともなれば警備も厳重だし、普通なら忍び込むことなんて出来ないんだろうけど、俺には解錠スキルがあるからな。

 人気が無い部屋の窓からさっさと入ってしまおう。

 ……例の地下室への入口が屋敷の中にあるのかは分からないけど、探すのならやっぱり中からだろ。外にあるとはあんまり想像しにくいし。


 良し、侵入成功。

 地下室が本当にあるんだとしたら、使用人やメイド達にも隠してるっぽいし、まずはロップ伯爵の部屋にでも行ってみるか。

 ロップ伯爵の部屋なんて当然知らないけど、大体こういう屋敷っていうのは構造的に一番偉いやつの部屋の場所なんて決まってるようなものだし、直ぐに見つかるだろう。

 

 そう思い、ロップ伯爵の部屋を探し出すこと三分程。

 俺の目の前には他の部屋とは比べ物にならないほどに豪華な扉の前に立っていた。

 どう考えても、ここだろう。


 ゆっくりと音を立てないように扉に耳を当てる。

 中から音はしない。

 ……居ない? それとも、眠ってるのか? ……仮に眠ってるんだとしたら、かなり寝相はいいことになるな。……それに関してはどうでもいいけど。


 そんなことを思いつつ、音が聞こえないからと扉をゆっくりと開けようとしたところで、扉に鍵が掛かっていることに気がついた。

 ……これだけで怪しいと決めつけるのは違うか。

 ただ鍵が掛かってるだけだしな。


 施錠スキルを使い、鍵を開けた。

 そして今度こそ、部屋の中にゆっくり入ると、部屋の中にロップ伯爵の姿は見当たらなかった。……が、初めて見る部屋でも分かるくらいにベッドの位置がずらされており、そこには地下室へ繋がっているであろう階段が見えていた。

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