第4話

 誰にもバレることなく街に入ることに成功した俺は、適当な路地裏に入り、スキルを解除した。

 そして、何食わぬ顔をしてそのまま裏路地を後にし、表通りに出た。


 少し歩いただけでも、ロップ伯爵の治める街は血縁上の父だった人の街よりも活気があるな。

 ……決めつけるのは良くないってことくらい分かってるけど、アイツと仲が良いいはずなのに、ちょっと意外だ。

 いや、アイツの街も別に栄えてなかった訳では無いけど、住民の活気があったか? と聞かれると微妙だ。


 まぁいい。

 それより、今は宝石を売却できる場所でも探そうかな。

 いや、探すまでもないか。

 商人ギルドに直接持っていけばギルドかギルドに居合わせた商人が買い取ってくれるだろ。

 よし、商人ギルドに行くか。

 商人ギルドも冒険者ギルドも大体大通りに行けばあるし、この街でもそれは例外じゃないだろう。


 そうして大通りに出て商人ギルドを探し始めること数分、直ぐに商人ギルドは見つかった。

 ついでに冒険者ギルドも見つかったけど、今そっちに用件は無いし、冒険者ギルドの方を気にする事はなく、俺はそのまま商人ギルドの中に入った。


「これ、売りたいんですけど」


 そして、俺に価値があるかを確かめるために視線を向けてくる中にいた商人達を無視して、受付の前に立った俺はそう言った。

 ポケット自体がそういう道具なんだと認識されて奪うために襲われでもしたら嫌だし、念の為宝石はちゃんとここに来る途中に盗賊のアジトから奪った適当な袋に入れてあるから、その袋を受付の人間の目の前に置きながら。


「はい、中身を確認させてもらいますね」


 周りの商人に見えないように、そして顔にも出さないように、受付の人間は中の宝石たちを確認してくれた。

 まぁ、顔に出なかったのは宝石なんて見なれてるだけかもしれないけど。

 

「別室へどうぞ」


 袋を返され、受付にいた人間とは別のギルドの人間に奥の部屋へと案内をされた。

 そして、改めて部屋の中で俺は宝石を見てもらった。


「金貨34枚で買い取らせて頂きます。それでよろしい場合は、身分を証明出来るものをお見せ下さい」


「どうぞ」


 俺の……セフェリノとしての身分証を取り出し、それに偽装のスキルを掛けながら、身分証を見せた。


「リノ様ですね。確認致しました」


 本来、身分証は絶対に偽装出来ないようになっているものだからこそ、まさか本物の身分証に細工をして偽装をしてくるって発想は無かったんだろうな。

 あっさりと細工をした身分証を返してくれた。

 ……俺も流石にこの偽装スキルに関してはびっくりしてるよ。

 手に入れた瞬間、スキルの効果があるのは物限定だから、自分に使って他人になりきるなんてことは出来ないけど、身分証にも使うことが出来るって理解することが出来たんだからな。そりゃびっくりする。

 これがこの世界に来て直後に手に入れていたのだとしたら、何も思わなかっただろうけど、俺はこの世界の常識……絶対に身分証を偽装することは出来ないっていうことを知っているからな。


「では、金貨34枚です。お確かめ下さい」


「確かに」


「またのご利用、お待ちしております」


 そして、ギルドを後にした。

 ギルドを出る時は商人達に視線を向けられることは無かった。

 価値のない男と判断されたようだ。


 それじゃあ、金も手に入ったし、適当に飯でも食いながら、夜になるまで待つか。

 夜になったら、酒場に行こう。

 酒場なんて酒さえ奢ってやれば口が軽いヤツばっかだろうし、情報を集めるならやっぱり酒場だろうからな。

 ……フードの付いた服も用意しておくか。

 なんか、酒場で情報を聞こうとするやつってそういうイメージだし。




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