第2話

「こんなもんかな」


 隠しているつもりだったであろう金庫を解錠スキルで開けた俺は、その中から金貨や宝石を半分ほど頂き、金庫を閉めた。

 全部奪わなかったのは良心が働いた……とかでは当然ながら無い。

 ロクな教育はされないだろうけど、弟がいるからな。……もう手遅れな以上、特に何かをする気は無いから、これが最初で最後の気遣い? ってやつだ。

 

 圧縮スキルで奪った金貨と宝石を一纏めにした俺は、それをポケットに適当に突っ込み、そのまま屋敷を後にした。

 特に思い入れのあるものは無いし、金は奪ったから、荷物は特に何も無く、だ。


 歩きながら、俺は思う。

 話には聞いていたけど、スキルってほんと不思議だよな。

 発現するまでは全くスキルについての知識なんて無かったのに、発現した瞬間、使い方とか全部理解できるんだもんな。




「すみませーん」


 言い方は悪くなるが、手入れのされていない……というより、明らかに手入れが行き届いていない孤児院の前に俺はやってきていた。


「はい……何か、家に御用でしょうか?」


 中から古い服を着た老婆が恐る恐るといった感じで孤児院から出てきた。

 一応15年はこの街で育ってきたんだ。

 多分、俺のことも知っているんだろうな。

 さっきまではこの街の領主の息子だったし。


「寄付をしに来ました。これ、子供たちのために使ってください」


「え? あ、あの​──」


 困惑している老婆に無理やり金庫から奪った宝石……は足が付いたりしてこの孤児院にとって不味いことになるかもしれないから、金貨を何枚か無理やり受け取らせて、俺はその場から去った。


 さて、街を出ることは確定として、どこに行こうかな。

 ここから近い街で血縁上の俺の父親と仲良くしていたロップ伯爵の街にでも行ってみようかな。

 正直俺はあんまり知らないけど、あの父親と仲良くしていたくらいだから普通にクズだろうし、そういう意味でもちょうどいいか。

 まぁ、もちろん偏見でしかないし、行けばちゃんと調べるつもりだし、もしもまともな奴だった場合は普通に観光でもしようか。

 次に盗みをする場所のことを調べながらにはなるだろうけど、宝石も売りたいしな。




「足が欲しいな」


 街を出て数分、ロップ伯爵の治める街に向かって歩いている俺はそんなことを呟いた。

 はぁ。乗合馬車とかに乗れたら良かったんだが、そっちはもうあの父親のことだ。どうせ手は回してあるだろうし、そっちには行けなかったんだよ。だから、歩いてる。


 ……馬を持ってる盗賊とか居ないかな。

 盗賊って部分的に見たら今の俺にとっては仲間なのかもだけど、俺、義賊だし、気にしなくていいよな。

 探すか、盗賊。どうせ馬を持ってなくたって、溜め込んでいるであろう宝を奪うのは悪くないしな。


 そう思い、街道を外れて森の中に入った。

 さっき奪った宝石でも服に装飾品として付けて街道を歩いた方が盗賊が釣れて早く見つかるのかもしれないけど、正面からの戦闘はちょっとな。

 ……俺のスキルってあくまで義賊がやりやすいだけのスキルであって戦闘能力はちょっと微妙なんだよ。

 その辺のチンピラに負けるとは思わないけど、数が多いとどうなるかは分からない。逃げることくらいはできるだろうけど、逃げたところでって感じだしな。

 一旦逃げたように見せかけてから後をつけてアジトの場所を探るって方法もあるかもだけど、その後すぐにアジトに帰るとは限らないし、盗賊を釣るような真似はしない。……つかしたくない。


 アジトさえ分かれば、バレることなく宝を盗み出すことくらい出来るし、安全に行こう。

 盗賊なんて人にとって害でしかないし、本当は始末するか街の兵士か騎士団にでも引き渡しておきたいんだけど、戦闘能力的に無理だからな。

 悪いけど、その辺は別のやつに任せよう。

 ……これからのことを考えると、一人くらい戦闘能力に長けた仲間がいてもいいのかもな。

 いくら俺が義賊を名乗ろうが世間的に見たら普通に盗賊だし、俺の仲間になってくれる真っ当な人がいるのかは分からないけど。……俺自身が真っ当とは言い難い……と言うか、真っ当じゃないと思うし。

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