とある田舎の村での出来事
ああ、あの家がい?
久しぶりにその話聞いたねぇ。まだあの家、残っとるんかいな。こんな田舎の村だっぺよ、そりゃ誰でも知っとるわな。
え?
あの家の話が聞きてぇってか?
あんたも変わった人だねぇ、ほんとに。
別に変なことなんかねぇどよ。今じゃ若ぇ衆が冗談半分で寄りついとるらしいけんど。
ほれ、この間も警察が来とったべ?あんた見たろ?なんか悪さでもしたんだっぺなぁ。ほんと、困ったもんだわよ。
ああ、あの家にどんな人が住んどったかってが?そうだねぇ、もういつ頃の話だったか忘れちまったど。
当時な、あそこには若ぇ娘が住んどったんだよ。それから、通いで親が様子見に来てたべな。毎日のように顔出してたっけよ。よっぽど大事な娘だったんだべなぁ。
なんかね、その娘、体の具合が悪かったんじゃねぇかと思うけど、あたしゃ詳しいことは知らねぇんだわ。でも、きっとそんなんで通っとったんだろうよ。
ああ、そりゃ会えば話くらいはするっぺよ。娘のほうはいつも家に篭りっぱなしだったけどさ。母親のほうだな、よく心配そうな顔してたわ。
確か夫婦で学校の先生してたっつってたかな?授業の合間にわざわざ来てたみたいだなぁ。
え?ああ、お札のことかい?そういや、そんなんあったねぇ。母親のほうが貼ってたべよ。
その時な、村に変な男が来てたんだよ。なんて言うんだっぺ、あれ。お札配って歩いてる妙な男でさ、村の人にお札渡して回ってたんだわ。霊験あらたかなお札だっつってなぁ。
どんな不幸も守ってくれるとか、幸せが舞い込むとか、健康祈願にいいとか。まぁなんでもかんでも言ってたっけよ。
ま、タダでもらえるんなら、そりゃみんな貰うべなぁ。当時うちにもあったど。あたしゃ信じてたわけじゃねぇけんどな。
でもよぉ、その母親がどっぷりハマっちまったんだわ。もうさ、その札撒きの男にべったりでさ。しょっちゅう一緒におったっけよ。
札もらっては帰って貼り付けて、またもらいに行ってって、そんな感じだったなぁ。
そうこうしてるうちに、父親のほうの姿も見えなくなったんだわ。なんか母親もどんどんやつれていっとったしよ。
逆に不幸になっとるように見えたけんどなぁ。でも、信じとる人に向かってそんなこと言えるわけねぇべよ。
あの家もな、中のことはよく知らんけど、そのうち家の壁にも貼り出し始めたんだっけよ。玄関なんてもうびっしりだったわよ。
あぁ、こりゃ頭おかしくなっちまったんだべって、思ったもんだわ。あれじゃ、誰も近寄らんよなぁ。まぁ、もともと訪ねてくる人なんていなかったけんどよ。
それでよぉ、村の連中もさすがに見るに見かねて、その札撒きの男に文句言いに行ったんだわ。あんまりあの母親を構うなってな。
可哀想だっぺよ。信じて、札貼って、それでやつれていくなんてさぁ。
そしたら、その札撒きが言うんだよ。この護符がなけりゃ、アレはもうとっくにダメになってるとかな。私はあんたらとは違う。徳が高いとか、そんなことばっか言いやがんだわ。
そんなこと言われて、もう村の連中もカンカンだっぺよ。こんな奴、ここに置いとけるかって、追い出したんだわ。もう、あんなのがここに居座ったら、村がダメになっちまうってなぁ。
いくら徳が高ぇったってよ、しょせん人との縁も結べねぇような奴じゃな、ここじゃやってけねぇわなぁ。徳なんて言っても何の役にも立たんど。
したらよ、次の日にな、村の真ん中でな。なんかわけわからんけど、そいつが藁を積み上げて火つけおるんだわ。
ぶつぶつなんか呪文みたいなの唱えながらさ。あたしらの村でそんな好き勝手やられたら、そりゃ気持ちいいもんじゃねぇべよ。
だからよ、わしらも勝手なことすんなって文句言ったんだわ。んだば、そいつがよ、わしら指さして「お前らは罪深い」とか言いよるんだわ。
人の苦しみが理解できんなら救いなどない、だの、徳がねぇ奴らだ、だの、偉そうなことばっか言うんだよ。
さっさと出てけ言うてな、村人総出ですぐに追い出したよ。そいつが配った札はまとめて燃やしちまったよ。それっきり、その札撒きの男はどっか行っちまったっけよ。
ああ、それからだな。
そのあとすぐにな、娘と父親のほうは死んじまったんだわ。
村の連中からしたらよ、あの札は呪いの札だっぺよ。ほら見たことかって、村中その話でもちきりだったなぁ。
ああ、母親のほうはな、そのあとどっか行っちまったみたいだど。あたしゃそれっきり見とらんねぇ。どこ行ったんだか、さっぱりわからんよ。
それからあの家は残ったままだよ。もう誰も触んねえよ。
え?ああ、流行病?そういやそうだったかな。確かに流行ってたかも分からん。娘も父親もそれだったかもしれんな。
え?ああ、その後あの家でなんか怪談話があるんかって?なんだ、あんた、聞きたいのはそれだったんかい。
そうさなぁ、そいや、村の若ぇ衆が酔っ払ってな、あの家に忍び込んだことがあったんだわ。
ほんでな、家ん中にびっしり貼られた札がよ、そりゃもう揺れたんだと。
風なんて吹いてねぇのによ、そんでよ、まるで生き物みてぇに動いてたんだとさ。
そんでな、それ見て若ぇ衆のひとりがよ、変な声出し始めてな、わけわからんこと言い始めたんだと。
他の連中が引っ張って家から出したんだけんどな、そいつはそっからずっとおかしくなっちまってよ、結局村から出ていったんだわ。
なんかよ、あの札の文字が頭から離れねぇとか言っとったなぁ。読めねぇはずの文字がわかるだの、意味が浮かんでくるだのって。
正直、気味悪くて誰もそいつに近寄れんかったわ。
あの家にな、それから誰も入ろうとしなくなったんだ。あんたもよ、興味本位で行くんじゃねぇぞ。あれは良くねぇもんだど。
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