桐谷圭一郎の話 その2

 桐谷は泉名探偵事務所で虎元と話していた。


 「あまり進展はなくて申し訳ないのですが」

 虎元が口を開いた。


 桐谷がここを訪れてから一週間が経っていた。

 「小野さんの怪談をいくつか拝見しまして、妙な共通点がある、と思いまして」


 「共通点、ですか。確かに小野さんの話は独特なもので、他所で聞かないものですが」


 「そうです、廃病院など、よくあるシチュエーションもありますが、細かいディテールは何処にもないものです。そして、ここで語られる人々や、出てくる要素が別の話でも登場しているのです」


 「というと…?」


 「『デジタルプリント』に登場する、大柄な男、これは『或る廃病院にて』で語られる大柄な男の霊、というものと特徴が一致しています。


 おそらく同一人物がモチーフなのでしょう。そして、『迷い込んだ山小屋』に散らばる写真、これは『デジタルプリント』で印刷されたもの、なのではないでしょうか。そして、そこにいた低い声の男、身長こそわからないものの、これも大柄の男とどことなく特徴が似ている」


 「え、でも、小野さんが中学生の時の話ですよね、『デジタルプリント』に出てくる行方不明者はここ数年の話だと思ったのですが…」


 「ええ、時期は異なっている。でも例えば、小野さんが中学生の頃からずっと、今に至るまで写真の印刷が続いていたとしたらどうでしょう」


 「過去に経験した出来事の続編──ということでしょうか」


 「幼い頃の不思議な体験を追っていくと、別の不思議な話に辿り着いたのか、都市伝説を蒐集するうちに自分の体験と関係のある話に行き当たったのか。きっかけは分かりませんが。可能性はあります」


 「そういうことは──あるのでしょうか」


 「それだけではありません。

 『或る廃病院にて』で語られる青い服の集団、『SNSの投稿者』で投稿者の女性が最後に着ていた服装そのままですよね。


 それに、『デジタルプリント』に出てくる写真を受け取りに来る痩せた男、これは『SNSの投稿者』のよっしーという人物と、どことなく特徴が似ている気がするのです」


 「うーん、似ているといえば似ているか…」


 「語り手による印象もあると思いますがね。偶然の一致と片付けてしまうには引っかかるのです」


 「それでは…小野さんは何かを調べていた過程で、怪談話を発表していたのですか?」


 「そう思うのです。何か目的があって行動していた。そして、その調査の記録を怪談にしていた、そんな気がします」


 「『サトシ君』は共通点はなさそうですが」


 「ええ、まだ色々調べると共通点が見つかるかもしれません。もう少し小野さんの怪談を収集してみましょう」

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