SCENE:5 『DUNGEON』
森のダンジョンの最奥に【オオヤマイヌ】の洞窟がある。
道中に何体かのをモンスターを退けて、【地下ダンジョン】と呼ばれる洞窟の前までやってきた。
「さてやってきたが、【地下ダンジョン】の説明をもう一度してもらってもいいか?」
『了解ですぅ。【地下ダンジョン】は現装備と所持しているアイテムを計画的に使用し目標階数まで潜っていくというスタンスのダンジョンです。稀に【行商人】に遭遇することもありますが、必ずしも有用なアイテムを売ってくれるとは限りません。【地図ダンジョン】よりもモンスターたちの強さも癖も違うので、今までよりも慎重に挑まなければなりません。もし強さに自信があればダンジョン内の階数毎に【全滅ボーナス】を獲得してみましょう。次の階数に対しランダムで【能力:上方補正】が加り、【全滅実績】と【経験値ボーナス】が追加で得られます。ですが、必ず全滅させることが吉と転がるわけではないので、自分の状況と相談して判断して進んでください。……長くなってしまいましたが、説明は以上です~』
「ちなみにこの洞窟の情報はあるか?」
『は~いっと~』
【イヴ】はカンニングペーパーらしき紙をゴスロリ服のポケットから取り出した。
『えっと、【オオヤマイヌの洞窟】。階数は四層。最後の階に目標の【オオヤマイヌ】がいるそうですね。推奨されているレベルは9程度。弱点傾向は炎。ダンジョン内補正は無し、罠の存在は【木の蔓による転倒:微量】。……これぐらいですねぇ』
「OKだ。まぁ俺たちには【ドラゴンスレイヤー】があるから大丈夫だよな」
チャラッと得意げに【ウェポンチェーン】につながれた龍の剣を【イヴ】に見せつける。
彼女は特に何も考えていないホンワカした表情で、ゆっくり頷いた。
「よっしゃ、いくぜぇ」
【オオヤマイヌの洞窟】に走って入った。
【地下ダンジョン】は思ったよりも攻略のスタンスが変わっていた。
【地図ダンジョン】とは部屋の構造が違い、狭い通路が多く、通路を抜けた先の各部屋につながっているが、場所を大きく使えないのでモンスター毎の行動パターンを今まで以上に読んで計算して行動しないと必要のないリスクも背負うことになる。
先ほどは【木の蔓による転倒:微量】と【イヴ】は言っていたが、それでも時々転んで足止めを喰らうのだ。
罠の種類は思い浮かべるだけでも沢山あるというのに……それらが大量に仕組んであるダンジョンは難易度は跳ね上がるだろうな。
確かに、内部は【ヤマイヌ】が多く徘徊していた。
攻撃寸前に側面にステップして攻撃してくるのでコチラが先読みで側面に攻撃すれば、攻撃は大体当たる。
しかし、【ヤマイヌ】以外にも【がいこつせんし】の姿が見えるのは何故だろうか?
「あの【がいこつせんし】の持ってる武器が【槍型:錆びたピッチフォーク】だもんな。まさか村の農民じゃないよな……」
『モンスターの配置によって物語の考察がはかどるのもRPGならではですよね~。もしかしたら自分で何とかしようと思った方だったんでしょうか……悲しいですねぇ』
ピッチフォークによりリーチのちょっと長くなった【がいこつせんし】の攻撃を躱して、剣を一振り。
一瞬で粉々にその場を後にする。
洞窟二層目もささっと通過し、三層目にてその元凶となっているを見つけた。
『どうやらこの洞窟には【下等ネクロマンサー】が入り込んでいたようですねぇ』
【ネクロマンサー】は死者の魂を扱うモンスターだ。
成仏できずに彷徨う魂を自分の支配に置いて、駒にするという神に背いた魔術師の事を言う。
「それで【がいこつせんし(農具)】が存在していたのか……。さっさと倒そう」
と追いかけると、こちらの存在に気付いた矢先に【下等ネクロマンサー】が逃げ出した。
「くそ、向こうも逃げやがる。仕様なのか追い付けないし……【イヴ】、どうすりゃいい?」
『その場合はジャケット右胸についているバッヂを使ってみてはいかがでしょ?』
そういえばすっかり存在を忘れていた胸についているバッヂ。これも只のアクセサリーじゃなかったんだな。
『この世界では【スキルサイン】と言って、必殺技、魔法、アビリティのいずれかのバッヂをコスト制限内で三つ迄を組み合わせてセットすることができます』
「今俺がセットしてるのは?」
『現在は【オメガブラスター】。前方広範囲を吹き飛ばす光線を放つ技。
【プラズマストーム】。周囲全体に壁貫通の強力な嵐を発生させるする技。
最後が【マイティ・マキシマム】。全回復に全状態異常回復。一定時間(長):攻撃力と防御力と俊敏値を格段に上昇だそうです』
……すべてオーバースペックな性能と言わざる得ない。
たかだか一体の【下等ネクロマンサー】ごときに広範囲攻撃はもったいないような気がするのだが。
「それじゃ……【オメガブラスター】で遠距離攻撃しようか」
『では【スキルサイン】に手をかざして、名を叫んでください』
「え、叫ぶのか?」
『精神力が魔力の源なんですよ? 精神力が魔力に変換され【スキルサイン】を通じてスキルや魔法に変化するんですから!』
説得力ある設定だ。 そこまでの代物であるなら一回でも使ってみる価値はあるかも知れない。
「わかったよ……見てろッ!」
【オメガブラスター】に手をかざすと、魔法のイメージが頭の中に流れてくる。
使用意思がバッヂに伝わったのか、左手が青い光を纏う。
物凄い魔力の脈動を感じる。
青い光が徐々に威力を圧縮していく。……そして
「【オメガブラスター】ァァァァ!!!」
青い光を纏った左手を突き出す。
ゴオオオオオォォォォォ!!!
手の中で圧縮された魔力が波動となりレーザー砲の様に放たれる。
溢れ出る余波が洞窟内の気流を乱し、制御が難しくなる。
放たれた魔力の波動が益々強くなり前方全てを飲み込む。
そして魔力の波動が徐々に収まったかと思うと、前方には【下等ネクロマンサー】の姿はとっくに消え失せ、ちょこんと置かれたゴールド袋とドロップした杖だけが残されていた。
「はぁ……はぁ……」
『凄いですねぇ……【オメガブラスター】。初めて見ました……』
「ハァ……なぁ、もう少し手頃な魔法無いか? もしくは疲れない技とか」
放つ魔法の魔力云々よりも放った後の制御に大きく精神力を持っていかれたような気がする。
もうこんな大魔法は懲り懲りだ。
【オオヤマイヌの洞窟】の最深部にようやくたどり着いた。
大した苦労はなかったが、精神的には猛烈に疲れた。
この世界にはマジックポイント等はないらしく、【スキルサイン】はターン数によって装填されるという。
さきの【オメガブラスター】はあの演出のカロリーで、再装填が早いらしい。
【イヴ】に演出の押さえた【スキルサイン】を提案したのだが、どうやら持っていないとのことだったので、しばらくは使用しないと自分の意思を固くするしかなかった。
その調子でこの先にいるであろう【オオヤマイヌ】と対峙することにした。
最深部には一際大きな空間が広がっていた。
そして言われなくとも今まで見てきた【ヤマイヌ】よりも明らかに大きいサイズの【オオヤマイヌ】が寝床で横になっていた。
こちらにの気配に気づいたのか、目を開け体を起こした。
前足で目の上を掻いたかと思えば……
キィシャァァァ!!
立ち上がり臨戦態勢をとる。
一瞬ボスにふさわしい圧巻の演出に身を竦めたが、深呼吸をして剣を構える。
「【イヴ】、このボスは【ヤマイヌ】と挙動が違ったりするか?」
『歴戦の個体っていう設定なので一工夫あるかも知れないですね』
「わかった。やってやるッ!」
【オオヤマイヌ】が気迫の満ちた眼で突っ込む。
しかしこちらの【ドラゴンスレイヤー】ならば一撃で倒せる。
種族特性の[攻撃の直前に側面に回り込む]という攻撃パターンを読めば……
「ここだッ!」
と右側に剣を振り……
ガブりガブり!
まさかの直線的な二連攻撃。
それならと真正面に剣を振るう。
しかし、ここでグリッと【オオヤマイヌ】は背後に回り込んだ。
ガブリガブリッ!
背後からの攻撃は強制[直撃判定]によりダメージが二倍になり……
「え、」
身体の反応がなくなり、
目の前が真っ赤になって倒れてしまった……
『【アダムズ】さぁぁぁぁん!!』
そういえば忘れていた。
武器は最強でも、基礎レベルや防御力は通常プレイのまま……
攻撃が当たらなければ最強の剣も普通の剣も関係ない……。
薄れていく意識の中、そう思った。
ハッと気が付けば、視界のほとんどはゴスロリ服とピンクのフワフワの髪に占められていた。
その僅かな隙間から悲し気な瞳が垣間見えた。
「【アダムズ】様……大丈夫ですか?」
視界の後方から柔らく温かい感触が伝わる。
「【イヴ】! 何が起こった?」
『あの、申し上げにくいんですが……そのぅ、[GAMEOVER]になってしまいまして……』
と【イヴ】の膝枕から頭を離して立ち上がろうとして、この世の全てから解き放たれたような体の軽さを感じ……
『身体が……消滅してしまいまして……』
『ええーーーーーー!!!』
【イヴ】がサッと鏡を取り出してこちらを映す。
その鏡には派手な服装の少年はなく、只の青い光の球が浮いているだけだった。
『おい……これ……』
全身の体温が持っていかれ、顔が青ざめる。
……ような錯覚を覚える。
『落ち着いてください!』
と【イヴ】が叫ぶ。
『【冒険を続けますか?】!?』
【イヴ】から謎の選択を迫られる。
しかし答えは一つしかない。
『[はい]だ!』
すると球の身体が徐々に大きくなり、人の身体として輪郭が形成されていく。
そして青い光が落ち着いていくのと共に、【アダムズ】としての身体が[再構築]された。
『これが[コンティニュー]です。復活できると知ってもむやみやたらに行動しないでくださいね!』
「お、おお。そうだな」
思考が混乱しっぱなしで頷くしかになかった。
再び洞窟内へ入り、最深部まで一直線に駆け抜ける。
大量にうろついている【ヤマイヌ】も彷徨っている【がいこつせんし(農民)】も蹴散らし、再び最深部へと足を踏み入れた。
先と同じく【オオヤマイヌ】は高らかに吠えて臨戦態勢をとる。
先のような観光気分で油断してやられるのなら、先手必勝でさっさと倒してしまおうと【スキルサイン】に手をかけて叫んだ。
「【プラズマストォォォム】!!!」
呼応された魔力が輝くと、周囲の大気を掌握。空気の流れを一定の方向に急加速させる。
気体を構成する分子が電離し、激しい量のプラズマを発生させながら、瞬く間に極限にまで気流を暴走させ、全てを磨り潰す竜巻となる!
竜巻が洞窟内の壁を引っ掻く音も超威力が飲み込み、【オオヤマイヌ】の存在すら磨り潰す。
その空間はまさしく混沌となった。
次第に空気の流れが落ち着き、バチバチと発生したプラズマは徐々に運動を止め、消える。
魔力による周囲の空気の掌握を解いたため、空気の層も解かれ、徐々に通常の空気の流れ
も収束した。
【オオヤマイヌ】は既にゴールド袋と化し、それとは別にアイテムがドロップしていた。
『【プラズマストーム】。これも凄まじい威力ですねぇ…』
「ゴホッ ゴホッ……息できなかった……」
『大丈夫ですかぁ?』
ようやく整ってきた呼吸に、酸素不足でグラグラしていた視界も治まる。
『[レベル]に釣り合わない【スキルサイン】はこういう副作用があるんでしょうか?』
「副作用? レベル以上の【スキルサイン】?」
そういえばずっとずっと疑問だったことを【イヴ】にぶつけてみるのにいいタイミングだ。
「どうして最初から持ってる武器が最強の剣【ドラゴンスレイヤー】なんだ? あと【スキルサイン】もだ。レベルやコストの概念があるって話なら、いま持ってる【スキルサイン】も始めたてのレベルで持っているはずないよな」
すると【イヴ】の口からと世界観に合わない単語が出てきた。
『……それらは全部、[コンソールコマンド]から引き出したものです~。散歩という名目上ストレスを感じていただきたくなくて用意させていただきましたぁ』
「[コンソールコマンド]? 」
『【アダムズ】様は薄々気付いているかと思われますが、【エデンズ・ブック】というゲームソフトの世界の中に搭載されている最強の武器と【スキルサイン】は私の権限で使用可能な状態でお渡ししているので、その副作用がもしかしたら【アダムズ】様に大きな負担が生じているのかもしれないですね』
「……」
『こんなに無理を強いてしまって申し訳ございません』
「なんで今それを?」
『多分、もうすぐわかると思います』
【イヴ】はドロップした【オオヤマイヌの牙】を手に取った。
『これはキーアイテムの【オオヤマイヌ】を倒したことを証明する品ですねぇ』
キーアイテムを手にしたことで大広間のど真ん中に青く光る魔法陣が浮かび上がった。
『これは一方通行型の【ワープポータル】ですね。道中に取り残しのアイテムがない限りこの【ワープポータル】に乗り込む方が楽ですよぉ』
「別に何か取り逃す要素って?」
『道中に別の【キーアイテム】が残されている場合や、ボスが思ったよりもあっけなくて探索の余裕が生まれたりする時、はたまた【全滅実績】の開放の為だったりするときは階段を使って帰るという選択ができますね』
「なるほど。やることないしさっさと帰ろうか」
ささっと【ワープポータル】に乗り込むと、ポータルの紋章が光り、足元に一枚の紋章が浮かび上がる。
紋章は頭上まで到達するとすぐに折り返し降下する。
紋章が足元に戻る頃には、【オオヤマイヌの洞窟】の入り口の目の前に転移していた。
役目を終えた【ワープポータル】の紋章は消え失せた。
『それでは村に報告に行きましょう!』
SCENE:5 『DUNGEON』 END...
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