SCENE:3 『BATTLE』

道なりに進んですぐに森の入口の前までやってきた。

のだが……


「なぁこれって本当に入り口か?」

『そうですよぉ』

「いやどう見ても、森の絵の壁じゃないか」

『いえいえー、足元をよく見てみてください。ここ、草が少し分かれているでしょう。これが目印です』


足元から壁に向けてほんの少し日々のような道が描かれている。


「こんな小さな分け目が入り口の目印!?」

『そうですよ! ささ、ここに一歩!』


某魔法学校が舞台の作品の主人公も駅の柱に飛び込むときはこんな気持ちだったのだろうか…

意を決し、ずいっと一歩を踏み込む。


ぐわっと視界全体を覆っていた森の絵が自動ドアの様に左右に分かれ、中に入ることに成功したらしい。


「これは……」

『最初の森のダンジョンですねぇ』


苔の生えた巨木が無数に鎮座している割に、そこそこの木漏れ日が差していて中は思ったよりも明るい。


森の中には獣道のような険しい道になっているかと思われたが、探索できる程度には場が広く設けられていた。


そして辺りを徘徊するあれは……


『【ヤマイヌ】ですねぇ。モンスターの視界に入るとすぐに戦闘が始まりますよ!』

「戦闘? どういう事だ?」

『ダンジョンに入った時点で生存戦略は始まってますから~』

「そっか……」


この世界についてもう少し詳しく聞いておけばよかったと後悔した。


腰を据えて話ができるところまで話を合わせてやろうか。


気を取り直し、ノリノリな【イヴ】のテンションに合わせる。

「それで武器とか何かないのか?」

『腰についてるチェーンを引っ張ってくださぃ』


ポケットからチェーンを引っ張ると、アクセサリーの金色の龍の剣が姿を現した。


「おい、まさかこれを振り回せっていうんじゃないだろうな」

『ちゃんと使い方がありますよ~、その剣を握りしめてください』


訝しみながら、龍の剣を握りしめる。


『そして具現化した姿を思い浮かべて念じてください~』


念じるだと? ここまで来たらヤケだ!

言われたとおりに、この剣の大きくなった姿を頭の中で念じる。


すると、握りしめた龍の剣が光に包まれ、変わる。


そして光から解き放たれたそれは、大きく、鋭く、輝く刀身に半透明の青い龍が纏わりついた剣がこの手に握られていた。


『【ドラゴンキラー】です! この武器は強いですよぉ! 基礎攻撃力も最強クラス! 全属性値が+100 全種族特攻値が+100でドラゴン属に対して攻撃力が二倍になって、魔法スキルの威力も常時1.5倍になるっていう特性を持つ剣ですよ!』


彼女はびっくりするくらい早口で握られている剣についての説明を行った。


「すまん、仕様を理解してないから何言ってるかわからないんだが……」

『簡単に言えば最強の剣です! さぁ【ヤマイヌ】に近づいて振ってください!』

「お、おう」

かわいらしいお顔立ちにものすごい剣幕で言われちゃ…そりゃ……な。


一歩ずつ近づくと、こちらを視認した【ヤマイヌ】の動きも体勢を低くし、着実に戦闘の雰囲気となる。


自分と【ヤマイヌ】の距離が徐々に近づき、剣を振るう!

「フンッ!」


何と小賢しいことに剣の間合いに入った瞬間、【ヤマイヌ】は自分の側面にステップ。


物理的に攻撃を避けられ、振り向き直した瞬間

ガブリッ!


「うわぁ!」


あまりにもリアルな攻撃を受け、のけ反る。


その隙を見逃さなかった【ヤマイヌ】の攻撃がもう一度繰り出される。

ガブッ!


「このぉ!!」


今度は即座に立ち上がり、踏み込んだ。


次はステップ先を予測して剣を奮う。


剣の軌道は【ヤマイヌ】に見事ヒットした。


【ドラゴンキラー】の一撃は【ヤマイヌ】の身体で受けるには余りある攻撃力だったのか一瞬で姿を消した。


『やりましたね! 初撃破と初ダメですねぇ!』

「ううっ なんか痛くねぇけど、精神的にくるなぁ」

『まぁ実際に怪我を負うわけではないですからねぇ。ですがちょっとこれを見てみてください』


左腕に触れ、いつの間に左手首に装着されている腕時計型の装置に指を差す。


G-SH〇CKによく似てる装置の画面には横バー式のゲージが表示されていた。


『これはステータス表示機ですねぇ、今少し減ってしまった上のゲージがHPで、下がEXPとなってますぅ』


何とまぁ細かく設定されているなぁ


『ちょうど【ヤマイヌ】をあと二体程度倒せばレベルも上がるはずです! 頑張りましょう!』

イヴはウキウキと説明してくれている。


「ずいぶん楽しそうだな?」

『え、そうですかぁ?』


黒い天使の羽はパタパタと忙しなく動き、顔はにやけが止まらないといった感じだ。


『なんだかとても楽しくてぇ』


「そうか」


目の前にいつの間にか小袋が置かれていた。

『これ、ゴールドですよ!』


その小袋はとても軽く、大した量が入っていないことがすぐ解る。

『5ゴールド。あと5ゴールドで回復草が買えますねぇ』


「草ってことは最低の回復量のやつだな」


セオリー通りのニュアンスは伝わる。


『さぁ張り切って次行きましょう!』


【ドラゴンキラー】を携え、ダンジョンを歩き回った。


【ヤマイヌ】の動きの癖に慣れ、それからはノーダメージで彼らを切り伏せて前へと進んでいった。


【ヤマイヌ】以外にも属性付きの攻撃でしか倒せない【スライム】や停滞する毒の霧を振りまくキノコ族の【マイコニッド】等のモンスターも徘徊していた。


【がいこつせんし】もボロボロの装備だが剣と盾を装備した戦士と動きが同じな為、人型との戦闘の予習担当のようなモンスターだ。攻撃力も低くはあるが柔軟な戦闘スタイルには油断大敵だ。


これが最初のダンジョンか。それにしてはなかなかボリュームのある敵配置だ。


数秒で終る戦闘のスタイルならこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。


敵の行動パターンを読みきりノーダメ通過も可能ならこちらの行動幅も広くなるだろう。


『村の方向はコチラですよぉ』

「うん? モンスターはまだ沢山いるみたいだが?」


『【地図ダンジョン】ではモンスターは無限に沸きますよ。此方の看板に書いてあるように村の方向に歩いていけば村にたどり着けますが、この周辺のモンスターは初期も初期なので獲得経験値もお金もドロップアイテムも渋いので、よっぽどの理由がなければ、先に村に進んでいった方がオススメですよぉ』


「つまり【地図ダンジョン】はワールドマップと同じ扱いって事か」


『認識の差異はあれど、それで間違いないですね。もう一つが【地下ダンジョン】。階数が決まっており、敵の殲滅が可能です。しかし、地図ダンジョンよりもモンスターが強いうえに癖もより強いので、準備は万端にですよ。村に行けば【地下ダンジョン】への案内やクエストも発生するので、やっぱり先にこっち行きましょう!』


「わかったわかったからジャケットを引っ張るなって……」



SCENE:3 『BATTLE』 END...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る