SCENE:2 『START』
いつの間にかPCの轟音が聞こえなくなり、光が収まっていることに気が付く。
「……ここは?」
うっすらと目を開けられるようになり、覆う腕をゆっくり落として改めて視界に意識を移すと、先程の空間とは景色が大いに違っていた。
大きく広がる青空。地平線まで伸びていく青い海。
悠々と流れる白い雲。暖かな日差しと気持ちがいい風。
足元に目をやると断崖絶壁に立たされていた。
「うわぁぁ!」
思わずバランスを崩し、尻餅をつく。
落ちる方面に倒れなくて本当に良かった。
ぶわっと冷や汗が噴き出る。
四つん這いの状態で崖の方に寄ってみる。
下の方はどうなっているんだ?
興味本位でのぞいてみようとすると、硬い感触が頭に当たる。
「ん?」
思いもしない感触にまたバランスを崩し、崖方につんのめってしまった。
本能で丸くなり身体を強張わせる。
「ああああああああああ!!!」
死んだ。
そう思ったのもつかの間、海側に倒れたにも関わらずに身体は自由落下せず、[見えない壁]に身体がもたれかかっていた。
混乱で頭が一杯になったが、[見えない壁]に身体を支え体勢を整えた。
改めて[見えない壁]に触れると強化ガラスのような硬い感触。
「向こう側に行けない様になっている……ってことか?」
この感触はどこまでの高さまであるのだろうと、観察していると
『あのぅ……こちらですよぉ』
おずおずとこちらを呼びかける声に視界を移す。
キラキラな桃色の瞳にピンクのフワフワとした髪。背に黒い天使の羽を生やし、黒基調のゴシックロリータの服に身を包んだ女の子が、宙に大きな雲のクッションに身を預けた姿勢でそこに存在していた。
『突然ごめんなさい~ こちらまで来ていただけませんかぁ』
彼女の声は先ほどの空間で聞いたのと同じだ。
漂う雰囲気は神秘的なれど悪意を持ってるとは思えない。
特に警戒せず女の子に近づいてみる。
「あの……今の見てた?」
『……。』
コクリと頷き、気まずい空気が流れた。
咳払いで場を改める。
「君は?」
自分が発する声を初めて聞いたが年相応の少年っぽく高い声だ。
『えっと…よいしょ』
と、その女の子は背後から大冊を取り出し、最初のページを開いた。
『【エデンズ・ブック】へようこそ! アナタにはこの世界の謎と【黒キ者】から世界を解き放つ旅に出てもらいます! 私の名前は【イヴ】。私はこの世界の案内人でございます。あなたの旅を全力でサポートいたしますので心配しないでくださいねっ!』
と、一連の台詞を朗読し彼女は大冊を背中にしまい込んだ。
『と……いうわけなんですけどぉ……』
沈黙が流れ、なんだか申し訳なさそうにしていた。
「えっ……でどうすれば?」
『ごめんなさい~、何しろ初めてですから~』
「初めて?」
『そうなんです~ この世界にいらした方は貴方様が初めてでして……』
「……まぁ俺も記憶が無くって、全部が初めてみたいなもんだから気にしなくていいんじゃないか?」
『貴方様の記憶が……お名前も?』
「ああ全く、思い出せないんだ。」
『そうですねぇ……』
と【イヴ】は後ろに振り返り、ポチポチとなにかを操作する。
『……では、思い出すまで【アダムズ】と名乗るのはいかがでしょう?』
「【アダムズ】? 」
当面の名前としては悪くないセンスだが……
「でもまたどうして?」
『あっ、[ランダムネーミング機能]を使ったら一番最初に出てきたので~』
それならいいかと納得して、次に気になっていた自分の今の姿について【イヴ】に聞く。
すると『その視点じゃぁ自分の事見れませんね! よっとぉ』
と何処からともなく大型の[鏡]を取り出して、地面に置いた。
その鏡に映し出された自分の姿。
服装は赤ジャケットに青ジーンズの短パン、燃えるような赤い髪が逆立っていた。そして曇りなき藍色の眼。
派手なファッションやアクセサリの事もあり、これじゃ本当に若気の塊だ。そうか、これが今の俺か……。
十分に自分の姿を確認し姿見から視界を外すと【イヴ】は姿見を背後のどこかにしまった。
「それで【イヴ】さ。俺の旅というもののまず最初にこの世界で俺はなにをしたらいいんだ?」
『そうですねぇ……まだこの世界に来たばかりなので、お散歩してみますか?』
「ここで立ち止まってても仕方ないし。そうだな、案内頼むよ」
『はい! では【イヴ】にお任せ下さい!』
俺と【イヴ】は長い立ち話を経て、ようやく一歩を歩みだした。
SCENE:2 『START』 END...
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