Chapter 1
SCENE:1 『ENTER』
「……ん?」
意識が覚醒し、目を開けると知らない景色が広がっていた。
むくりと身体を起こして辺りを見渡す。
無音かつ空気の流れも感じられなければ、寒くもなく暑くもない。
壁や天井の境界が認識ができない程広いのか、空間の境界が曖昧で内か外かの判別すらつかない。
ただ唯一足元には格子状の模様が広がっていた。
「ここは……どこだ?」
おぼろげな思考が時間が経つに連れて鮮明になっていく。
考えてみると目覚める前の記憶はおろか自分の名前や出身地、経歴の記憶が全く無く、最後に意識を手放した場所や状況への記憶の欠如していた。
そもそも俺? 僕? 一人称は何だったかすらも思い出せない。
不快感に頭を掻く。
ふと掻いた右手を見る。そこから腕、肩に続き、自分の服装に視界が移る。
赤いジャケットに青ジーンズのショートパンツ、真っ赤なスニーカー。
ジャケットには右胸の辺りにやけにキラキラしたバッヂが三つ付いていて、ジーンズのポケットからゴツめのチェーンが付いていた。
パンツのベルトループから引かれているチェーンを引っ張ると
出てきたのは鍵ではなく、金色の龍の剣のアクセサリー。
これは、反抗期一歩手前の男の子のセンス……。
今の自分の姿が一体どうなっているのか想像すらできない。
自分が思っているよりも視界が低くて、身体が軽くてとても動きやすい。
この身体に馴染みがないのは恐らく自分のものではない。という事だけは確信できた。
しかし何もない空間で、なぜ自分だけこんな姿をしているのか……?
『あ、もう起きてらっしゃったんですね~』
何処からともなく幼い女の子の声が響い出して肩が跳ねる。
『あぁ~いきなりすみません~。音量下げますねぇ~』
一切なにもない空間でいきなり大音量の声が響いたらそりゃ驚くだろう。
『これでいかがですかぁ~』
最初よりも音量が下がり聞き取りやすくなった。
しかし空間を見渡してみても声の主らしき者は見つからない。
どのように声をかけていいものか悩むが……。
「最初よりは良くなった……」
『そうですかぁ ありがとうございます~。では少し歩いていただいてもよろしいでしょうか?』
言われたとおりに一歩二歩と歩みを進めるも、足元のマス目が動かない。非常に気になる。
『問題なく歩けているようですねぇ。もう結構ですよぉ。ちょっとしたテストですのでお気になさらないでください~』
「どこかで見ているのか?」
『はい。ですがすぐに対面できると思いますので、少々お待ちくださいね』
カタカタ タンッ
とキーボードか何か叩く音が響くと、突然目の前に光の塊が浮かび上がり、色と輪郭が顕わになる。
「これは……?」
『コンピューターですよ~。私の知っている一番の奴です~』
デスク一杯に積まれた大きなコンピューター一式。
だが、その形状を見るに相当古いバージョンと思われる。
巨大なハードディスクとブラウン管モニターのやつ。
全部の機器合わせても数十年ものの骨董品……かどうかは今の自分では判別付かないはずなのだが…?
『そのコンピューターに入っているソフトを起動してください。私も準備しますのでいったん失礼いたしますねぇ』
微かにプツッと接続が切れた音の後、再び静寂が訪れる。
とにかく、コンピューターとモニターの電源をつける。
この場に電気が通っているのかは甚だ疑問だが、なにも問題ないといわんばかりに正常にPCは起動した。
起動準備も完了し、モニターにはデスクトップ画面が開かれていた。
見たところ、ゴミ箱とマイコンピューターのアイコンと、唯一インストールされているソフト。
この三つが画面に表示されているが、先ほどの声の主はこのソフトの事を指しているのだろう。
…………。
ボール式の白いマウスを動かしてコンピューターの内部を漁ってみたものの、他に参考になるようなデータは見つからなかった。
怪しいが、今は従うほかなさそうだ。
「【エデンズ・ブック】? 」
PCゲームっぽいが、怪しいソフトではないよな?
おそるおそるアイコンにダブルクリック。
命令を承諾されたPCは突然甲高い音をたて始める。
搭載されているファンが全速で回りだし本体からは異常な熱が感じられる。……気がする。
おい、これって大丈夫なのか?
そんな心配をよそに突然、デスクトップのモニターが強い輝きを発した。
うお!眩しい!
その輝きは、辺り一面も見え無くなる程の光量だ。
やがて、腕で覆い目を瞑っても貫通する輝きは自分の意識までも白く塗りつぶしていったのだった。
SCENE:1 『ENTER』 END...
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