第37話

???「おい、雨花」

???「あら、めっずらしい……こんなところに翡翠ちゃんが来るなんて!」

???「あの、ここ冥府に入るには通常関係者の神様の許可証が必要なんですが……」


ここは冥府。「紫雲雨花」と「不山橙」の元に西洋の何でも屋の店主「翡翠」がやって来た。


翡翠「許可なんてつまらない段取りは無用だ。それに結局雨花と話さないといけないんだからその時許可なんて貰えば良いだろ。」

橙「いやそもそも入ること自体に許可が必要なのであって……」

雨花「はい翡翠ちゃん。許可証。首から下げてね。」

翡翠「あぁありがとう」

橙「いや聴いて下さい」


翡翠は雨花に首から許可証を下げて貰った。


橙「はぁ……まぁ良いでしょう。何か御用ですか?」


翡翠は雨花の膝に乗って座り、喋り出す。


翡翠「お前らに命令だ。今夜あたしを寝かしつけろ」

橙「……え?」


橙は複雑な顔になっているが、雨花は翡翠が膝に乗ってくれたことで嬉しすぎて頭がいっぱいで翡翠の言っていることがほとんど頭に入っていない。


橙「私たちが翡翠さんを寝かしつける?」

翡翠「左様」

橙「あの……私たちにも仕事が……」

翡翠「仕事から帰ってきたあとで良い。明日あたしは西洋に戻る。だから今夜だけで良い。いつものあたしの店に来い。あたしは日本に出張に行く時は店のものを守るために店の中で寝るようにしている。しかし、今回の出張にはあたしの父君が作って下さったエメラルドちゃんを持ってき忘れてしまったんだ。私はあれを抱いてないと眠れない。」

橙「あぁ、ぬいぐるみか何かですか?」

翡翠「違う。大砲だ。」

橙「……え?」

翡翠「大砲」

橙「なんでそんな物騒なものと一緒に寝てるんですか?!?!」

翡翠「だから言ってるだろう。店を守るためだ。」

橙「だからといって許可なく大砲なんて所持しちゃダメですよ!」

翡翠「大丈夫だ。あたしの父君が作ってくれた大砲は怪我をさせたりなどしない。」

橙「怪我をさせないって……どんな大砲なんですか?」

翡翠「シュールストレミング」

橙「…………もう私は何も突っ込みませんよ」


※シュールストレミングとは?

それは、塩水漬けのニシンの缶詰。

そして……


「「世界一臭い食べ物と言われている」」


「シュールストレミング」と「大砲」の掛け合わせ。もう大体お察しは付くだろう。

そう……つまりエメラルドちゃんと言うのは……


翡翠「シュールストレミングをぶっぱなす大砲さえあればあたしの店は万全なんだ。しかしそれを持ってき忘れたせいで、店を守ることはできるが、寝付くことはできない。」


「ちなみに、あたしが使ってるシュールストレミングは、消費期限が切れてるやつだ。」と付け加える翡翠。


橙「私は持ってきてなくて良かったと想いましたよ……そして一体どこにエメラルドの要素があるんですか……」


「翡翠ちゃんの名前から取ったんじゃない?」とようやく話に入ってきたのは雨花だった。


雨花「あのでっかい大砲食らってた人めっちゃくちゃな顔してどっか行ってめっちゃ面白かった!あはははは!」

橙「雨花さんようやく翡翠さんによるルンルンワールドから出てきたみたいですね……はぁ……」

雨花「話は何となく聴いてたよ!寝かしつければ良いんだよね?わたしは全然良いよ!」

橙「まぁ私も良いですけど……」

翡翠「じゃああたしの店の前に今夜この時間で。よろしくな」


そういうと翡翠は出ていった。


橙「なんか嫌な予感がするんですけど……」


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翡翠「よし、時間ぴったりだな。」


雨花と橙は「何でも屋」の店に前に着いていた。翡翠はもう寝る気満々で既にパジャマ姿である。


翡翠「じゃあ今から店に入るからな。あたしが寝たあとは、すまんが瞬間移動で帰ってくれ。」

雨花「はぁーい!」

橙「…………」


橙「(正直どう寝かしつければ良いんだろう……翡翠さん大人っぽいようで子供っぽいですし、普通に子守唄と絵本しか持ってきてませんが……)」


翡翠「何してる橙。早く入れ。」

橙「あ、はい……」


店内は前回入った時とは違い、真っ暗でかなり不気味だった。


橙「なんか出ませんよね……この店……珍妙な物も売ってますし……」

雨花「まぁまぁ!大丈夫だよ!ほら翡翠ちゃんの寝床に着いたよ!」

橙「…………」


翡翠の寝床は木箱の中に適当に布を入れたとても粗末な物だった。


橙「こんな悲しい寝床あります!?!?」

翡翠「いい感じに体が刺激されるし、狭くて落ち着くんだ。悲しいとか言うな」

橙「えぇ……すみません……いやでも……さすがにこれは……」

雨花「本人が良いなら良いんじゃない?わたしも似たようなところで寝たことあるし!」

橙「あなたたちはなんというか自分に対する情緒がおかしいというか……なんというか……」

翡翠「ほら、早く寝かしつけろ」


翡翠は早速箱の中に入り、寝る気満々である。


橙「で、では私が持ってきた絵本から……」


十分後……


翡翠「話にならない。全く寝れん」

橙「そ、そうですか……でもまだまだ絵本はありますよ!」


一時間後……


翡翠「逆に目が冴えてしまった。お前ダメダメだな」

橙「うっ……ていうかあなた自身も寝る努力してるんですか?」

翡翠「してるとも。そのために暖かい飲み物を前もって飲んでおいた」

橙「そうなんですね。ちなみに何飲まれたんです?」

翡翠「普通のコーヒー」

橙「寝れるわけないでしょ!!!!思いっきりカフェイン摂取してるじゃないですか!!!!」

翡翠「最近寒いだろ?急にホットコーヒー飲みたくなったんだよ」

橙「ならせめてカフェインレスコーヒーにして下さいよ……はぁ……」

翡翠「もう他に寝かしつける方法はないのか?」

橙「コーヒーなんて飲んだら眠れるものも眠れませんよ……」


すると雨花が名乗り出た。


雨花「わたしに任せて橙ちゃん!良いものかっぱらってきたから!」

橙「雨花さん。全然声を出さないから何をするのかと想っていましたが……それはなんです?」


雨花が持ってきたのは、店内にあった大型スピーカーとマイクだった。


橙「ちょっとちょっと何をする気なんです……?」

雨花「さぁ!少年漫画に伝説を作った超名作の主題歌!ぶちかますぜ!」

橙「あ、雨花さn」

翡翠「?」


次の瞬間、響いた……いや轟いたのは……


「「その血の〇命〜〜〜〜〇ョ〜〜〜〜ジ〇」」


橙「いや寝れるか!!!!」

雨花「あぁ〜いつ歌ってもこの曲はいいね!でも今回は近所のことも考えて一番盛り上がるところだけ歌ったけどね!」

橙「一番盛り上がるところこそ歌っちゃいけないんですよ!!この名曲は特に!!」

雨花「つまり橙ちゃんはこの曲を夜中に歌うなってことね?なるほどねぇ……」

橙「…………」

雨花「だが断る!!!!」

橙「えぇ!!えぇ!!それを言いたいんだろうなと薄々想ってましたよ!!」

雨花「あはは!でも翡翠ちゃん寝てるよ?」

橙「え……嘘でしょ」


目の前にはゆったりとした顔ですやすや寝てる翡翠がいた。


橙「どうして眠れるんですか!?!?」

雨花「いや翡翠ちゃんが自分の寝床を紹介してた時「いい感じに体が刺激されるし」って言ってたでしょ?だから刺激を与えれば眠れるかなって!」

橙「この人たちは頭がおかしすぎる……」


「まぁでも……」と橙は微笑む。


橙「この寝顔がみれたのは嬉しいですね」

雨花「うん!そうだね!」


「じゃあ帰りますか……」と橙が言った次の瞬間……


雨花「うわっ!」

橙「どうしたんです?あm……!」


翡翠が手を伸ばして二人の首を掴み、そのまま鷲掴みにしてそのまま離さず寝ているのだ。


橙「あ、雨花さんこの状況どうするんです?」

雨花「いや……このまんま瞬間移動しても良いけどそれだと翡翠ちゃんも移動させちゃうから……」


「どうすることもできないね!」としれっと言う雨花。


橙「そんなダメですよ!明日も仕事あるのに!早くこの腕をどけて……ってぜっんぜん動かない!!」

雨花「翡翠ちゃん家って神通力と妖術は苦手なんだけど身体能力はずば抜けてるから……多分もう翡翠ちゃんが起きるのを待つしかないと想うよ。」

橙「そんなぁ……しかもこんな狭い場所で……」

雨花「もう諦めるしかないねぇ……あっ翡翠ちゃんの足がわたしの顔に!」

橙「こっちはお腹の上に足が乗っかってます……この人寝相悪すぎでは……?」


こうして、雨花と橙は、翡翠の店で、翡翠が起きるまでほぼ徹夜で過ごした。

翌朝、翡翠が目を覚ますと、ニコニコ笑いながら起きている雨花とげっそりしている橙がいて、「何でお前らまだここにいるんだ?」ときくと、「あなたの要望通りにした結果ですよ……」と嘆く者。「面白い夜だった!」と笑っている者。という対象的な一人の人間と一人の神がいたとか。

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