第32話
???「ん?何これ」
ここは雨花の家。雨花の家のポストに手紙が入っていた。その手紙を「紫雲雨花」が開けようとしている。
雨花「わたしに手紙だなんて珍しい……どれどれ……」
その手紙には……
『あいつは何かに作られたもの。あいつのことを知りたければここに来い。」
雨花「…………」
手紙にはご丁寧に地図が書いており、このことは内密にと記されていた。しかし、
雨花「うん。無視しよ。」
雨花は手紙だけ鞄の中に入れ、約束の場所には行かず、仕事に出向いた。
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???「雨花さん」
雨花「ん?どったの?橙ちゃん」
ここは冥府。雨花と「不山橙」は仕事をしていたが、出口の方で何やら騒ぎ声がする。
橙「雨花さんにお客さんですよ?」
雨花「わたしに?」
橙「どうします?」
雨花「まぁいいか。通して良いよ〜」
するとその騒ぎ声は止まり、チョコレートのような茶色の髪を持つ女の子が立っていた。耳は三毛猫の猫耳でしっぽは二つに分かれていた。いわゆる猫又である。
???「!」
雨花「?」
雨花をみた瞬間、しばらく目を見開いていたが話をし出した。
???「お前。どうして来なかった。」
雨花「どうして……?あっ」
雨花はさっきの手紙を想い出す。
雨花「あぁ……あの手紙の。妖怪だったんだね。どうして来なかったって言われても。あなたは見ず知らずの人からよく分からないこと言われてその人の言う通りにする?わたしは無理だよ。」
???「なるほどさすがの用心深さだな。」
橙「あの。あなたは誰なんですか?」
橙の質問は無視してその女の子は話を続ける。
???「私はお前らの知りたがっている情報を知っている。」
雨花「わたしたちの話も聴いて欲しいんだけどなぁ……」
???「「雫」という神についてだ。」
雨花・橙「!」
雨花と橙は顔色を変えてその猫又の少女の話を聴く体勢になった。
橙「雫さんについて……?どういうことですか?」
雨花「お師匠様の秘密について何か知ってるの?」
「ふん」と猫又の少女は言うと、空中に座る。
???「お前らは「雫」のことを何も知らない。妖怪の間では有名な話だ。「雫」は……」
猫又の少女はこう言い放った。
「あいつは「神」じゃない」
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辺りの空気が凍りつく。橙は持っていた資料を全て落とし、雨花はただ黙っていた。
「より正確に言うと……」と猫又の少女は話を続ける。
???「あいつは、「神」でも「人間」でもない。あいつは名前が付けられない。「何か」だ。」
雨花「その話を信じられるものはあるの?」
すると、猫又の少女はあるものを取り出す。それは……
橙「雫さんの家にあった日記……!」
雨花「でもあの時と分厚さが違う。もっと厚かったはず……」
???「へぇ。そこまで馬鹿ではないんだな。お前。これはあいつの日記をコピーし、読了した部分をまとめたもの。しかし、私たちが読めたのはあいつが「神」でも「人間」でもないという部分だけ。それ以外はとても強い神通力がかかっていて読めなかった。妖術に神通力が効かないように。神通力にも妖術は効かない。……天使の力を借りて何とかここまで読めたがこれ以上は読めなかった。」
猫又の少女は、その日記を広げながら話を続けていた。
橙は、前に天使に襲われた時のことを想い出す。
《私に妖術は効かないぞ?なんてたって我々は妖怪と契約しているのだから!!》
橙「そうですか……」
???「そこで提案だ。お前ら私たちの仲間にならないか?」
橙「は?」
雨花「…………」
猫又の少女は、契約書を取り出す。
???「私たちの仲間になれ。お前らの力は他の雑魚神や雑魚人間とは違う。一人は妖術を。もう一人は神通力に特化している。お前の力が合わさればここは私たちの土地になる。その代わりお前らに雫の秘密を全て隠さず見つけ出すと誓おう。さぁ契約しろ!!」
辺りに地響きが起こる。橙は頭痛で立っていられなくなる。
橙「(こ、こんなの恐喝じゃないですか……!)」
猫又の少女は、相変わらず地響きを起こす。しかし、雨花は全くたじろぎもせず、猫又の少女に近づく。
雨花「契約書貸して」
橙「あ、あ……め…………か……さん」
???「はいどうぞ」
雨花は契約書を読み終えた。そして━━━━
ビリッ
???「!」
雨花「相手が知って欲しくないこと。それを無理やり聞き出してどうするの?相手が話すまで待つことが大切なの。そんな方法で知ったって全然お互いのためにならない。無理やり知ろうとしたら相手の心を傷つけることになる。もしその秘密が人に言えないような。とても許されるようなことじゃないとしても、待つと決めたならそれを受け入れる覚悟をしなくちゃいけない。私たちはあの夜誓ったの。お師匠様が言うまで待ち続けるって。」
橙「!」
あの日、雫の家に忍び込んだ時の事。
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雨花「ねぇみんな。やっぱりさ。雫さんから言うのを待った方が良いんじゃないかな。」
瑠璃人「でもそれだとオレたち恩返しできないぜ?」
雨花「でも本人が知って欲しくないこと。無理やり聞き出すのは良くないと想うんだ。恩返ししたくてもそれはわたしたちのエゴでもあるし。それを押し付けるのは違うと想うし。お師匠様がわたしたちを頼ってきたらその時しっかり答えたり、意見したりを少しずつやれば、それでほんの少しかもしれないけど恩返しに繋がると想う。相手に自分の悔やんでることや消したい過去を知られたら、それが大切な人なら尚更辛いと想うんだ。わたしたちにできることってそれがどんなものでも受け止めて、頑張ったねって言うことなんじゃないかな。自分の胸につっかえてるものをそっと取り除かれると安心できるように。その人が抱えてる後悔とか絶望をちゃんとその人と一緒に抱きしめるべきだと想う。…………なんて綺麗事言ってるけど、これはわたしの願望でもあるんだけどね。まぁそんなことはどうでもよくて……」
雨花は話を元に戻す。
雨花「お師匠様の秘密がどんなものでも受け止める覚悟を今のうちにみんなでして置こう。」
瑠璃人「そうだな……オレが間違ってたよ」
雨花「いやいや!瑠璃くんのその恩返ししたいっていう気持ちはとても優しいものだよ!間違いじゃない!」
瑠璃人「ありがとうな。」
桃時「じゃあみんなで約束ね!」
兎白「そうだな。」
瑠璃人「約束!!」
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こうしてみんなで指切りをしたのだ。橙はそれを鮮明に想い出す。
雨花「……だからこの契約書は要らない。」
すると、地響きは鳴り止まった。猫又の少女が暴れると橙は想い、戦闘態勢になった。しかし、
???「…………くっくくく……」
猫又の少女は、立つと雨花に頬ずりした。
橙「な、何やってるんですか!?!?」
???「にやぁぁ……こういう奴だったのか!なるほど。道理で妖怪を千体以上も倒せる訳だ。ゴロゴロゴロゴロ」
猫又の少女は、雨花を気に入ったらしく喉を鳴らしてすごくご機嫌になった。
雨花「離れて」
???「にやぁぁにやぁぁ……冷たくするなよ〜雨花。お前のこととても気に入った。……絶対アタイのモノにする……くっくくく」
雨花「なんか今すっごい物騒なこと言わなかった……?」
猫又の少女から何とか離れることができた雨花は、どっと疲れた顔をした。
???「また来るからな〜!あ・め・か!」
こうしてにゃあという猫の鳴き声と共に空中に流れるように消えていった。そして、
???「それからアタイの名前は化茶(かちゃ)だ。よろしくな〜」
という声を残してどこかへ行った。
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雨花「もう体中毛まみれなんだけど……はぁ……」
橙「…………」
《…………なんて綺麗事言ってるけど、これはわたしの願望でもあるんだけどね。まぁそんなことはどうでもよくて……》
橙「雨花さん。」
雨花「ん?」
橙「雨花さんの過去も私たちは受け止めますよ。」
すると、雨花の目が「何も映っていない目」になった。そして満面の笑みで、
雨花「ありがとう!」
一言こう言うと、雨花は仕事に戻って行った。
橙「雨花さん……私たちは……」
橙は雨花の抱えてるものを知らない。でももしいつか知れたら、知ることができたら……
橙「雨花さん。大切なのは"今"なんですよ」
こう呟くと、橙も業務に戻って行った。
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化茶「帰ったぞ〜」
「どうだった。閻魔大王と閻魔大王の犬は……」
化茶「一筋縄ではいかないですね〜」
「それにしては楽しそうだな」
化茶「面白い奴を見つけたんですよ〜簡単にアタイの言う通りにしなかったし、それにあいつからは……」
「「雫と同じ匂いがしますしね…………!」」
化茶(かちゃ)
猫又の獣人のような姿をした少女。雨花のことをとても気に入っており、度々冥府に遊びに行っては、雨花の仕事の邪魔をする。(協定も破り、天使とも繋がりのある妖怪のため、雨花は無視を決め込んでいる。)
雫について調べているのは雫が日本の神様を代表している神様であるため、倒す目標の一つであるため、弱みを握るためなのと、雫からは「神様」でも「人間」でもない複雑な匂いがして、雫の家にあったあの日記から「神様」でも「人間」でもないことが発覚し面白いと個人的に想ったから。そしてそんな雫と匂いが似てる雨花のことを面白いと感じたらしく、雨花を手に入れて自分抜きじゃいられない心と体にしてやりたいと想っているらしい。
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