第31話

これは、まだ雨花も橙も桃時も瑠璃人も、そして、兎白もまだあの世にいなかった頃……兎白の両親についての話である。


「ねぇ……あんたまた押し付けられたの?」

???「仕方ないよ……みんなやることがあるから」

「いや、あいつあんたが綺麗だからって根に持ってんのよ!嫌ならはっきり嫌って言うべきよ!!」


「「虎月!」」


ここはあの世。女子の話し声がする方向には月色の髪を持つ「虎月」。つまり、後の兎白の母親が友だちと話していた。


「もっと自分の意思表示をした方が良いわよ!!」

虎月「……そうだねぇ………」


なぜこういう話をしているか、虎月の幼なじみに万能神さまの部下を父に持つ女子がいて、虎月の容姿端麗さに嫉妬して、こき使っているのだ。


「あんた大丈夫なの?なんなら私から言おうか?」

虎月「いや……大丈夫だよ!ありがとう!」


こうして虎月はその地域に住んでいる者たちによって行われているごみ捨てボランティアがあったため、本来なら先程言った幼なじみがやるはずの分担を虎月がやっていた。


虎月「はぁ……」


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虎月「ご、合コン?」

「そう。あんたなんかを誘いたくなかったけど。あんたを誘えって他の男から言われてんの。もう引き受けちゃったんだからいいわよね?」


「本当は引き立て役にしたかったのに……このクソ女」とボソッと虎月に意地悪をしている幼なじみが言った。


「で?返事は?まさか私に赤っ恥かかせないわよね?」

虎月「わ、分かった。行くよ。」


こうして二人は合コンに行くことになった。


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ここはあの世にあるカラオケ。もう既に男の人たちは入ってるようだ。


「あんたは何にも喋らないでよ。あんたが喋ったら私が目立たたないんだから」

虎月「……はい…………」


カラオケの中に入り、早速自己紹介を始める。


虎月「…………」

「えっ?どうしたの?もしかして緊張してる?」

「違うの!この子元々あんまり喋らない子なの!」

「あぁ〜そうなんだ。まぁ無口なのも可愛いけど!」


その瞬間、虎月はギリっと睨まれた。


虎月「あ、あの私少し抜けますね……」


虎月は、あまりにもその場にいるのが苦しくなり、外に出た。


???「…………」


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虎月「はぁ…………疲れた」


外に出ると辺りには雪が降りしきっている。ここは黄泉比良坂のかなり北の方にあるカラオケ。雪が降っているのもおかしくない。


虎月「もっとちゃんと嫌なことは嫌ってはっきり言えたら良いのに……」

???「じゃあ言えば良いんじゃない?」

虎月「え?」


目の前には白髪のとてもだるそうにしている男性がいた。


虎月「あなたはさっきの……」


この男性はさっき一緒に合コンをしていた人だった。


???「あなたも無理やり来られた口ですか?」

虎月「えぇまぁ……」

???「だけど断る勇気もなかった……と。」

虎月「そうなんです。情けないことに……」

???「情けなくないですよ。」

虎月「えっ?」


その男性は虎月に向き直る。


???「自分の意思を伝えたら悲しいことが起こるかもしれない。でも伝えないままずっと我慢していたら自分の心を殺すことになるかもしれない。でもそれはとても難しく勇気のいることなんです。それをほいそれと簡単に出来る人はそういません。でも……俺は伝えて欲しいです。俺はあなたを先程みたときから、あぁ自分の気持ちを蓋をしてるんだなと感じました。ずっと俯いていらっしゃいましたし。あなたに幸せになって欲しいです。……なんて初対面の奴に言われても気持ち悪いかもしれませんが……」

虎月「い、いえ!全然!気持ち悪くなんてないです!!寧ろありがとうございます!!……頑張って伝えてみようと想います。」


「あのう……」と虎月はその男性に聴く。


虎月「お、お名前を伺っても?」


すると、その男性は「ふはっ」笑う。


虎月「(わ、笑った……!)」

???「さっき自己紹介したの覚えてないんですか……ふふふっ」

虎月「え!?すみません……」

???「いや気にしないで。俺は龍雪。あなたの名前は?」

虎月「わ、私の名前は虎月です……!よろしくお願いします!その……とてもお話素敵だったので……また龍雪さんとお話したいんですが……良いですか?」

龍雪「!」


お互い心臓がとてもドキドキしている。体も熱くなり辺りの雪も溶けてしまうのではないかと想う程に。


龍雪「俺は今弟子たちを連れて修行してるんだ。良かったら俺の弟子たちをみてほしい」

虎月「はい!もちろんです!!」


さっきまでとてもしんどく重たかったのにまるで屋根に積もりに積もった雪を優しく太陽が溶かしていく雪晴れのようなそんな気持ちだった。


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「ちょっとあんた。私今日からうちの父さんに修行つけてもらうの。あんたのとこの家は大した実力もないんでしょ?良い気味……ぶっははは」

虎月「そういう言い方するのやめて頂けますか?本当に。」

「!、な、何よ。急に……」

虎月「どうしてそういう言い方するんですか?」

「あ、あんたがムカつくのよ。腹が立つの。ただ立ってるだけでみんなからちやほやされて……キモイんだよ!!」

虎月「そうですか……分かりました。でも私は知ってますよ。あなたが自分の容姿を綺麗するために努力なさってること。」

「!、は?」

虎月「よく自分の顔を鏡でチェックして、メイクを頑張ってるのも。」

「……」

虎月「あなたなりで良いんです。私からこんなこと言われても癪に障るかもしれませんが、あなたの努力で充分なんです。人を貶さくたってあなたは充分素敵です。」

「!、ぅぅぅぅぅぅ」


すると、相手の子は泣き出してしまった。


「ず、ずっと自分の容姿に自信がなかった。自信なんてどうしても持てなかった。私はこんなに頑張ってるのに……なのに……あんたは何にもしなくても性格も容姿も美人で……すごく妬ましかった……」


すると、相手の子はこう続けた。


「今までごめんなさい……」


すると虎月は、ニコッと微笑む。


虎月「もう良いですよ。もう大丈夫です」


そう言うと二人はお互いの手を繋いだ。


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「本当に行くのか?お父さんが教えても良いんだぞ?」

虎月「良いの。私はあの人の近くにいたいから。」

「まぁ虎月に好きな人が出来て良かったわ。うふふ。」

「うぅぅぅぅ……一人娘をなぜ娘の一回りも上の男なんぞにやられねばならんのだ」

虎月「ちょっと!お父さん!私別に嫁ぎに行く訳じゃなくて弟子の修行をしにいくんだよ?」

「まぁ行ってきなさい!無理だけはしないでね!」

虎月「うん!行ってきます!」


後にしんしんと雪が降る中、手を繋いでお互いのことを「お父さん」「お母さん」と呼びながら白髪の赤ちゃんを連れて夫婦が優しく微笑ながらお出かけしに行くのはもう少し後のお話。

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