第26話
今回は時間を遡り、「紫雲雨花」が「独野黒花」だった頃のお話。
???「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
???「…………」
闇夜に駆けていく姿が二人。一人は大きな白い翼を持っている天使。だが、その翼の片翼には大きな銃痕が残って穴が空いている。
そして、もう一人は……
天使「はぁはぁもうやめてくれ……もう俺は降参だ降参。な?翼がこんなじゃもう力なんて出せない。もうやめてくれ」
???「…………あなた「堕天」の一員でしょ?ボスの場所を教えて」
天使「だからそれは知らないんだって!」
???「じゃああなたは用済みだね。さよなら。」
天使「ふ、ふさげんな!俺に手を出したらボスが黙ってないぞ!」
天使は壁際に追い詰められ、それと同時に、どんどん天使を壁の方に追いやっていく影がある。
???「死人に口なしって知らないの?」
天使「ひぃ」
???「あなた一人死んだところであなたのボスは痛くも痒くもない。あなたのボスはそういう奴。」
「「あなたたちは死ねば良いんだよ」」
天使「た、助け……」
そう何も映っていない目で、冷徹に言い放すと、銃声が響き、赤い血が流れ出た。
天使「…………く、苦しい……」
???「じゃあトドメを刺してあげるよ。そうすれば楽になれる。」
そういうと、天使に向かって何度も発砲した。何度も何度も。そこら中に血が飛び散る。
???「…………あはは……!」
???「もうやめろ。黒花」
そういうと、天使を殺した、「黒花」と言われた者の武器を弾き飛ばした。
黒花「兎白くん……来たんだ。要請された神様の手伝いに繰り出されたのはわたしだけのはずだけど……」
兎白「雫さんに頼まれたんだよ。お前は天使を嫌ってるからやりすぎちゃうんじゃないかってな。この様子だと雫さんの読みは当たったらしい。」
そこら中に天使の血が撒き散らされ、滴っている。
兎白「今回の天使は討伐が目的とされているほどの厄介な奴だが、だからといって何度も発砲するのはダメだ。」
黒花「こんなやつ死ねば良いんだよ」
兎白「……はぁ……とにかく帰るぞ」
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???「全くダメじゃないか。黒花。どんな相手でも無駄打ちするのは絶対しちゃいけない。遺体というのはその者が死ぬまで寄り添ってきたものだ。なのにそれを傷つけるのは絶対しちゃいけないんだよ。」
ここは、黒花と兎白の修行場。黒花を叱っているのは雫である。
黒花「……はぁ……そうですか……」
雫「まぁ君はきっと天使にはとことん牙を向けるだろうけれど。君が一番嫌いなタイプの生き物だからね」
天使はあらゆる生き物の魂に無許可で干渉ができ、浄化ができる。しかし、「浄化」というのもとても繊細な作業で、浄化しすぎると人格が変わって、実質廃人になる。
「堕天」はその力を悪用して、彼岸の神様を倒し、彼岸を自分たちの土地にしようとしている天使の組織。天使は自分たちのやっていることが正しいと信じ込んでいる。「浄化」という作業ができることが神聖化されていて、無自覚に自分たちの力は素晴らしいものだと思い込んでいる。自分たちが正しいと心の底から信じ切っているところがたまらなく黒花は許せなくて、大嫌いなのだ。
なぜ嫌いなのか?
さぁ……何故でしょう……
兎白「雫さん。黒花が殺した遺体。無事に冥府に移動させました。」
雫「あぁ、ありがとう。兎白お疲れ様。それからまたお願いがあるんだが良いだろうか?」
兎白「はい!雫さんの頼みなら!」
雫「黒花を今日一日見張っといてくれないかい?」
黒花・兎白「!」
雫は、話を続ける。
雫「ここ一週間。「堕天」の者たちの動きが激しかったのは二人とも知っているね?」
兎白「はい。もちろん知ってますが……」
黒花「…………」
雫「もう少しで天使たちが西洋に移動するという情報が入ったんだ。天使たちは本来西洋の彼岸の生き物。今回も日本の彼岸には被害を与えられなかったからね。だから一度自分たちの本拠地に帰るんだろう。それまであと一日かかる。このまま黒花をほっといたらまた天使狩りをさせてしまうだろう。だからちゃんと見張っておいて欲しいんだ。頼めるかい?」
兎白「……はい!もちろんです!」
雫「……もう行ってしまったけれどね……ふふっ」
兎白「えっ!?あ、本当だ!あいつ……!」
兎白は急いで黒花を追いかけた。
雫「……黒花……」
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兎白「おい!はぁ……はぁ……黒花!はぁ……はぁ……」
黒花「何?」
兎白「お前……何でそんな早いんだ?まさか……」
黒花「瞬間移動した」
兎白「やっぱりか……!?お前もうそんな神通力手に入れたのか!?」
黒花「…………」
兎白「(でもここですぐ天使のところに瞬間移動しないってことはデバフがかかってるんだな。俺がこれから目を離さないでいれば……)」
兎白「それにしてもお前。妖怪も狩って、天使も狩るってますます「黒い彼岸花」っていう名前が周りにさらに轟くぞ。」
黒花「そんなのどうでもいい」
兎白「はぁ……とりあえず甘味処にでも行くか?お腹空いただろ?」
黒花「空いてない」
兎白「嘘つかなくて良い。俺は知ってるんだぞ?昨日からお前修行やり続けてご飯ろくに食べてないんだろ?いいから行くぞ」
こうして二人は甘味処のある商店街に行くことにした。
黒花「…………」
兎白「ん〜美味い!この抹茶も桜餅も美味いぞ」
黒花「桜餅……」
兎白「もしかして嫌いだったか?でもお前が何でも良いって言うから……」
黒花「いや、別に大丈夫。」
兎白「いや明らかに複雑そうな顔してるぞ?何かあったのか?」
黒花「…………昔、お母さんが好きだったの。和菓子。」
兎白「!、そうなのか。お前のお母さんはどんな人だったんだ?良かったら聴かせてくれないか?」
黒花「…………」
黒花はしばらく黙ったが、口を開いた。
黒花「すごく……本当にすごく弱い人。」
兎白「弱い人?」
黒花「うん。弱いからいつも余裕が生まれてなくてそれで……傷つけちゃう人。他人も自分のことも。」
「それだけだよ」と告げると、抹茶を全て飲み干し、瞬間移動した。
兎白「!?、まずい!?黒花がどこかへ行ってしまった!早く探さないと!おじさん美味かったご馳走様!」
兎白は、黒花の気配を頼りに走り出した。
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バァァァァン!!!!ドッゴッンー!!!!
天使たちの巣窟に黒い影が走った。天使たちの命綱である天使の輪を無理やり引きちぎり、翼に銃を打ち込み、天使たちを襲撃した。その黒い影の正体は黒花だった。
黒花「…………」
天使たちがどんどん攻撃してくるが、それを全部かわして天使たちを傘に収納された銃で打っていく。
そして、兎白が行き着く頃には天使は皆殺しにされていた。
黒花「…………」
兎白「お前!あれほど雫さんに大人しくしてろって言われたのに!!!!」
「おい、お前……」と兎白が話を続けようとすると、驚くことが起きていた。
黒花「…………」
黒花が静かに涙を流していた。
兎白「お、お前……」
黒花は、兎白にみせないように後ろを向いて涙を隠した。
黒花「………………」
兎白「!、で、でも泣いて許されることじゃない。一緒に雫さんのとこ行くぞ。良いな?」
兎白は、黒花を連れて雫の元に行った。
雫「…………黒花。どうして黒花は自身を危ない渦の中に入れてしまうんだ……。君がしたことは私でも抑えきれないことなんだ。君はこれから天使に目をつけられるだろう。その覚悟をしておきなさい。そして黒花は自分をちゃんと守り抜きなさい。もう危ない渦中に入っていかないようにしなさい。」
黒花「…………はい」
雫は、「(これは絶対言うことを聴かないね)」と想った。
雫は、ひとつため息を落とす。
雫「黒花。自分を危険な檻の中に自ら入れるなんてしちゃダメなんだ。何度も言ってるだろう?自分を大切にしろと。……それとも黒花。君はまだ自分を許せないのかな。」
黒花「…………」
雫「自分を罰してくれる人がいないなら自分で自分を罰するしかない。「自戒なんて自分が後々楽になるだけの自分がほんの少しマシなやつになれてるって馬鹿すぎる勘違いするだけの自己満足」君は前にそう想っていると言っていたね。でも、それでも、絶対自分を罰さないといけない。罰せられるべき奴なんだ。なんなら罰せられるのも許されない。そう想っている。……もう充分じゃないか。君の生前の記憶は全て読んだ。君はもう苦しんだんだよ。充分頑張った。もう自分を許してあげて欲しい。どうだい?」
黒花「ダメです。わたしは絶対にどんな魂になろうとたとえ魂が消えても懲罰を受け続けなくちゃいけないんです。本来なら罰を与えられて自分を楽にさせることすらも許されない。でも、わたしにはそれぐらいしかできない。自分に罰を下し続けるのとひたすら謝り続けることしかできない。わたしにはそんなことぐらいしかできないんです。こんなことしてもわたしが傷つけてしまった人たちの傷も傷をつけてしまった事実も消えませんが、それぐらいの方法しか……」
黒花の目から徐々に涙が出てきた。
黒花「想いつかないんです…………!」
雫「…………」
雫は黒花を抱きしめた。
その様子をじっとみていた白髪の少年━━━━兎白は、こう想った。
「もっといい加減に生きれば良かったのに……黒花は……馬鹿だな……」
空には月はなく、真っ白なキャンバスに真っ黒な絵の具をベタ塗りしたかのような闇夜が広がっていた。
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