第20話

???「宴?」

???「はい、そうなんです。」


ここは、冥府。閻魔大王である「紫雲雨花」と第一補佐官である「不山橙」が話し合いをしていた。


雨花「もうそんな時期かぁ〜舞を踊ったり、豪華なご飯食べたりしながら仕事の打ち上げをするんでしょ?したい人だけすれば良いのに……」

橙「私も正直、あまり好きじゃないです。上の神様に気を使わないといけないですし……上の神様は楽でしょうけど……」


「あ、それから……」と橙が付け加えた。


橙「それぞれ曲を提出しなくてはならないみたいですよ?」

雨花「……曲?どゆこと??」

橙「それぞれの感性や今までの人生への想いを歌にして提出して、盛り上がろうという目的だそうです。」

雨花「………へぇー」

橙「…………」


しばらくの間に沈黙が続いた。この二人にとって「人生への想い」というのがどれほど重い意味を持つのか……想像がつかない。


雨花「ねぇ。橙ちゃん。」

橙「何ですか?」

雨花「そもそも曲なんて作りたくないだろうけど、神様たちが言い出したことなんだし、自分の好きなように再現して良いんじゃないかな。無理やり宴に合わせようとして、自分の想いを捻じ曲げなくて良いと想うよ。」

橙「……そうですね。折角ですし、自分の想いを表現しようと想います。」

雨花「それで一つ提案があるんだけど?」

橙「提案?」

雨花「そうなの。あのね……」


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「ほほ、久しぶりだな。この宴は!」「この100年に1回の宴の顔ぶれも段々と慣れてきたみたいですわ」「みんなのそれぞれの曲。楽しみだなぁ!」「どんな曲なのかしら?明るい曲も暗い曲も大歓迎よ!!」「実は私、閻魔大王の曲が楽しみなのよね!」「確かにあの子ミステリアスな雰囲気があるものね!」「わしも楽しみだよ!」「少し恐いけれどね……笑」


とうとう宴当日。上の神様がそろそろみんなが提出する曲について話をし始めた。そして、雨花の話で盛り上がり始めた。


橙「ふぅぅ……緊張しますね……」

雨花「大丈夫だよ!橙ちゃんのことを再現した曲……!みんなに披露しよ!」


「では、これから八百万の神様の作った曲を発表していきたいと想います!!」


歓声があがり、拍手の音が辺りに響いた。


次から次へと神様が曲を披露していく。明るい曲もあれば暗い曲、明るい曲調だけど暗い曲、暗い曲調だけど明るい曲などなど十人十色だった。そして、とうとう橙の出番になった。


橙「初めて曲というのは作りましたが、頑張って作らせて頂きました。」


「あの子はとても優秀な子なのよ?」「あぁ私たちの間でもよく名前が挙がっているよ!」「どんな曲なのかしら?」「楽しみね!」


橙「それでは聴いて下さい!【模範】」


※ここからは少しの間歌詞です


歌詞

努めて 努めて やり続けて

どれぐらいし続けてきだろうか

模範囚のようにずっとやって

苦しさから解放されるのか

いつか報われる日を願って

「努力は報われるか分からないけど無駄にはならない」

「努力することには意味がある」

そんな言葉なんていらない

ただうるさいだけだ

僕にとって報われないと意味が無いんだから


頑張って 頑張って し続けて

もうどれほど時が経っただろうか

頑張れば頑張るほど苦しくなる

この小さい首輪からいつ自由になれるのか

いつか幸せになれる日を願って


やって、やって、やり続けて………


もうこのまま堕ちようか。


このまま堕ち続ければ良いのかな。

堕ちれるまで堕ちていけるところまで、


堕ちて、堕ちて、堕ち続けて、

もうどれくらい経っただろうか

もう何も苦しくない 頑張ることもない

小さい首輪も取れないまま慣れてしまって

幸せを願うことももうなくなって


あっダメにしちゃった。


「…………」


しばらくの間沈黙が続いたが、上の神様の一人が声を上げた。


「この歌詞は橙くんがかいたのかな?」

橙「は、はい!」


それを聴くと上の神様が、手を出しそっと橙の頭に乗せた。


「よく頑張ったね。偉いよ。たくさん頑張って本当に偉いね。そういうことがこの歌詞から感じ取れたよ。ありがとう。」

橙「!、ありがとうございます!」


そして、辺りから拍手喝采が飛んでいた。


橙「(ほっ、引かれなくて良かった……!)」


「では、次で最後ということは、次は雨花くんかな?」「そうですね!」「どんな曲なのかしら」「興味が湧くわね」


橙「あの……次は雨花さんじゃないですよ?」


「「「「え?」」」」


橙「実は……」


時は遡り、雨花の提案の話になる。


橙「作曲する?雨花さんが?」

雨花「うん!といってもAIの力も借りるけどね笑。今時はそういう手もあるみたいだよ?」

橙「じゃあ雨花さんご自身の曲は作らないんですか?それって今回の「宴」のガイドラインに反するんじゃ?」

雨花「ううん。このガイドラインに寄ると誰かの曲作りを手伝うという方法での参加も受理されるんだって!だから自分の曲作らなくても良いの!」

橙「……そんなに自分の想いを知られるの嫌ですか?」

雨花「………わたしは自分の想いなんて本来なら殺し続けなくちゃいけないんだよ。再現するなんて絶対ダメだし、絶対嫌だ。」

橙「…………」


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時は戻り、現在へ


橙「…………ということがあって、雨花さんに手伝って貰ったので雨花さんは自身の曲は作っていません。」


「「「「えぇぇぇぇ!?!?」」」」


「嘘!?そんなことガイドラインに書いてあった?」「本当だ!書いてある!」「部下に任せっきりにしてたのがよくなかったのか……」「雨花くんの曲聴きたかった……」


橙「すごく残念たがってますね……」


すると、雨花が声をかけた。


雨花「そもそも自分の想いを知られたくない人だっているだろうに勝手すぎるんだよ。」

橙「!、雨花さん……でも私も聴いてみたかったです。雨花さんの想いを綴った曲を。」

雨花「…………物好きだね」


こうして項垂れた上の神様たちと一緒に「宴」は終わったのだった。

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