第13話
???「どうしてこんなことに……」
???「うぅ……責任はアタシが取るわ」
ここは、昔、雨花が「独野黒花」だった頃に兎白と一緒に努めていた修行場である。ここで頭を悩ませているのは、「不山橙」と「桃時」である。そして……
???「わああああん、ママ!!ママ!!」
泣いているのは、「紫雲雨花」である。━━━━━ただし、幼女の姿になった雨花であるが……
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時は少し遡り、ここは、冥府。雫から貰った桃時の好きなお菓子を食べながら、桃時は雨花に頼み事をしていた。
桃時「あんたたちがむかひつかってたしきょうばをつかわせてほひいの(もぐもぐ)」
雨花「別に良いけど何に使うの?」
桃時「そふぇは……」
橙「あなたよく桃時さんと会話できますね……食べ終わってから話してください」
桃時「ん"ん"、ごくん。だから修行場を借して欲しいって話をしてるの」
雨花「OKだよ!でも今あそこ雫さんのお弟子さんがまだ使ってるし、ちゃんと借りるにはお師匠様の許可が必要だし、桃時ちゃん、男の子に囲まれて修行するの嫌でしょ?なら貸し切らなきゃだし。神様の修行場には他の神様を同席しないといけないからわたしも付いていくよ!でもどうしてあんなに修行嫌がってたのに修行場に行くの?」
桃時「しばらく力を使ってないから、力試ししたくて。自分の現在の力の値をちゃんと把握しておかないとでしょ。」
橙「あなたがそんなこと考えるなんて……明日は雨ですかね……?」
橙「わたしは雪が良い!!」
桃時「あんたたちはっ倒すわよ」
桃時は、紅茶をゴクリの飲む。
桃時「上司に言われてんのよ。力が暴発したりしないように確かめておけって」
橙「なるほど。あなたがそんなこと言い出すなんておかしいって思ったんですよ。」
雨花「ちぇっ、雪降って欲しかったなぁ」
桃時「あんたたちぶん殴るわよ」
ということで、雨花一行は雫に許可を貰いに行った。
雫「修行場を借して欲しい?別に構わないよ。今丁度弟子たちの休暇期間だし、今の時間なら好きなだけ使ってくれて構わない。」
桃時「やった!ありがと。雫さん。」
雨花「休暇期間なんてあったんだ。」
橙「何であなた雫さんの弟子なのに知らないんですか……」
雫「雨花にも伝えたはずだけど、それをきく余裕すらなかったんだろうね。」
桃時「全くあんたと来たら……はぁ……」
雨花「ほら!早く行こう!」
雫「ちょっと待った。君たち私があげたお菓子食べたかい?」
橙「え?えぇ……さっき桃時さんが頂きましたが……」
桃時「それが何ですか?」
雫「……いや何でもない。日持ちしないから早く食べて欲しかっただけだよ。」
橙「はぁ…………?」
雫「ほら、雨花はもう行ってしまったよ?行きなさい」
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桃時「よし!早速やるわよ……!」
橙「頑張ってください!!」
雨花「頑張れ!!でも無理しないで!!」
こうして桃時は、まず自身の一番得意な【神通力・時雨】を使うことにした。
桃時「まずは、時を戻す力をあの打ち込み台に……ってあれ??」
橙「ん?どうしましたk……ってあぁぁぁ!!!」
雨花「!」
桃時が神通力を使う際は、桃の花の文様が浮かび上がり使用できるのだが、いつもの何倍も大きく、そしてその文様から出る光が凄まじく、桃時は力を制御できなかった。そして……
桃時「うわぁぁぁ!あんたたちの方に行っちゃう!?!?避けて!!!!」
橙「避けるってそんな急に無茶な……ああ!!」
雨花「!橙ちゃん危ない!!」
そして、桃時の力は雨花に思いっきり掛かったのだった。
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そして、今に至る。
雨花「うぅぅぅ、マぁマぁ……ひっく……うぅ」
桃時「どうしてアタシの神通力暴走したのよ……」
橙「多分、雫さんです。」
桃時「どういうこと?」
橙「雫さんから貰ったお菓子から本当に少しだけほんのり雫さんの力の痕跡が残ってました。あのお菓子は力を一時的に増幅できるものだったんです。でも雫さん本人から貰ったものですし、付くのは不自然じゃなかったので気にしていなかったのですが……さっきわざわざ食べたのを確認したのはこうなるのを見越して言ったのでは……?」
桃時「で、でも、どうして雨花を子供にしたかったのかしら」
橙「分かりません……でも今はとりあえず……!」
「「この可愛すぎる
雨花さんを何とかしないと!!」」
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雨花「ひっく……うぅぅぅ……」
橙「雨花さん……じゃないですね。この姿なら……黒花さん。落ち着いて下さい。大丈夫ですから」
桃時「そうよ。あんたみたいなガキを襲うほどアタシたちは腐ってないわ。」
雨花「うぅぅぅ、ママは?」
橙「お母さんは残念ながら今はいません。でも私たちが付いているので大丈夫ですよ。」
桃時「そうそう、安心しなさい。大丈夫だから。」
雨花「お姉ちゃんたちは誰ですか?」
橙「私は不山橙です。あの偉そうなお姉さんは桃時さんですよ」
桃時「誰が偉そうよ。」
雨花「ひっひひ。」
橙「ふふ、笑ってくれて嬉しいです」
桃時「とりあえずもう修行どころじゃないわね。暴走した力を浴びせちゃったからいつ元に戻るか分からないし……」
橙「そうですね……雫さんにみせに行きましょう」
雨花「な、なんかごめんなさい。私のせいですか?」
橙「!そんなことないですよ」
橙は、雨花の涙を拭って頭をポンポンした。
橙「雨k……黒花さんは何も悪くありません。安心して大丈夫ですよ。でも知らない世界に来て、簡単に安心なんてできませんよね。私たちのことを無理して信用しなくて大丈夫です。でも今はとりあえず一緒に居ましょう。ね?」
雨花「!、うん!!」
桃時「(なんかこの頃の雨花。純粋の塊ね。すぐさまお母さんを頼ることからすると、この頃はお母さんと仲良くやっていたのかしら。でも……雨花は自分の意思であの世に来た。絶対何かあったはず。それを確かめるいいチャn)」
桃時「あっ」
橙「ん?どうしましたか?」
桃時「……いや何でもないわ」
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橙「えっいない!?」
ここは、神々が住んでいる住宅地で、雫の家に着いたのだが、残念ながら雫はいなかった。
雨花「…………どうしたんですか?」
橙「いえ、大丈夫ですよ。」
桃時「仕方ないわね。雫さんに連絡をって……あの人携帯持ってないのよねぇ……とりあえずアタシの家に連れてく?橙の家でも良いけど。」
橙「私の家は、神様以外の者を入れる際は許可証が必要で、結構めんどくさいんです。桃時さんの家の方がよろしいかと。」
あの世で人間が暮らす際は、専用のマンションに住むことが決まっている。一人暮らし用や同棲用、家族用など様々なマンションが用意されている。しかし、神様など信用のできる者以外の者とのトラブルを防ぐため、他の人間を招く際は、管理人による許可証が必要なのだ。(と言っても神様が完全に信用できるとは限らないが)
こうして、桃時の家に移動することにした。
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桃時「で、家に着いた訳だけど……」
橙「やっぱりまだ緊張しているみたいですね……」
雨花は、固まって正座のまま動かずにいた。
橙「どうしましょうか……?」
桃時「うーん、ねぇあんた。服好き?」
雨花「服?普通。」
桃時「普通ねぇ。女の子なんだからもっとおしゃれしても良いんじゃない?折角だしファッションショーしましょうよ!」
雨花「ファッションショー?楽しそうですね!!やりたいです!!」
桃時「あんたは審査役ね」
橙「えっ私もやるんですか?」
桃時「やるに決まってるでしょ?」
雨花「やりたい!!」
雨花は、目をキラキラさせた。
雨花「うわぁぁぁ!!こんなに沢山!!可愛い服がある!!」
桃時「そりゃあそうよ。アタシの服なんだから。可愛いに決まってるわ!」
雨花「でも、わたしのサイズに合うかなぁ……」
橙「さっきから元々来てた服を引きづって歩いてましたし、何か見繕ってあげた方が良いのでは?」
桃時「はぁ仕方ないわね。この中から好きなだけ選んで、一番気に入った服をあんたにあげるわ。サイズは橙が調整するから」
雨花「本当に良いんですか?」
橙・桃時「もちろん!」
雨花「じゃあ……」
こうしてファッションショーが始まった。
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橙「良い服が貰えて良かったですね。」
桃時「あんたセンスあるじゃない。」
雨花「ありがとうございます!!」
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……
雨花「…………」
橙「お腹空いたんですね笑」
桃時「アタシ料理しないから家には何にもないわよ」
橙「では、私が買い物に行きますよ。」
雨花「わたしも行きます!お世話になってますし……」
橙「気にしなくて大丈夫ですよ?」
雨花「でも行かなきゃ」
桃時「あんた、歳の割に礼儀正しいわね。」
雨花「そんなことないですよ。でもお母さんが目上の人には敬語を使わなきゃダメだって言ってました!」
桃時「(またお母さん……)」
橙「じゃあみんなで行きましょう。」
桃時「…………そうね。」
雨花「分かりました!」
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ここは、商店街。八百屋さんやお肉屋さんなど新鮮な食べ物を置いているお店が数多く配置されているあの世でも有名な商店街である。
橙「何が食べたいですか?」
雨花「何でも大丈夫ですよ」
桃時「じゃあこれとか……」
???「やっぱここはいっすね!美味しいものが沢山ある!」
???「これで最後だな。」
桃時「ん?この声は?」
この声の正体は、死神組組長「兎白」と第一部隊隊長「瑠璃人」である。
瑠璃人「よぉ!奇遇だな。お前らに会うなんて!」
兎白「おい。お前、早く帰らないといけないんだぞ。みんなが昼飯を待ってr……ん!?その子は……!?」
兎白は、雨花をみて驚いた。無理もない。自分の同期の神が幼児化しているのだから。
兎白「あ、雨花……」
瑠璃人「えっどこに……って、まさかこの子供!?!?」
雨花「?」
雨花は、幼児化しているため、意味がよく分からなかった。
橙「はい、この方は雨花さんです。訳あって今は幼児化してますが……」
雨花「こんにちは。」
雨花がお辞儀する。
兎白「俺は兎白だ。そっちは瑠璃人。よろしくな。黒花」
瑠璃人「よろしく!!」
「(それにしても……)」と兎白は想った。
兎白「(雨花がこんな簡単に幼児化する神通力なんて浴びるか……?幼児化なんてしたら自分の隠したいことがバレるかもしれないのに……」)
そう兎白が考えるのを察したのか橙と桃時は、説明した。
橙「雨花さんがこうなったのは私たちに責任があります。」
桃時「私の神通力が暴走して、制御出来なくて橙に当たりそうだったんだけどそれを雨花が庇ったの。」
兎白「なるほどな。……雨花らしい。」
向こうで、瑠璃人と遊んでいる雨花を三人は微笑んだような、でも哀しいような目でみていた。
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兎白「じゃあ俺たちはそろそろ本拠地に戻らないと。……じゃあな。」
瑠璃人「じゃあな!黒花も!」
そうだ、……と兎白が黒花の頭に手を置いて言った。
兎白「(こんなことを言っても何の意味も無いし、何かが変わる訳じゃないが……でも言っておかないと気が済まない。)」
雨花「?」
兎白「いいか、黒花。お前は偉いぞ。本当に偉い。この先どれだけ人を傷つけたとしても、自分だけは自分を許してやって欲しい。周りはお前を許さず、お前が自分を許すことを許してくれなくても、お前は許して良いんだ。絶対に。お前はこんなにも良い子なんだから。」
雨花「……ん?どういう……」
そういうと、兎白は瑠璃人を連れて本拠地へ戻って行った。
桃時「全くあのセリフだけ言っても分かるわけないじゃない。まぁあいつらしいか。」
橙「ふふ、では私たちも戻りましょう」
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桃時の家に戻った三人は橙の作ったご飯を食べていた。
橙「お味はどうですか?」
雨花「美味しいです!」
桃時「ま、橙の料理は美味しいわよね」
橙「残しても大丈夫ですからね」
雨花「はぁーい。なんか橙お姉ちゃんお母さんみたいですね!」
桃時「そういえばあんたのお母さんはどんな人なの?」
雨花「どんな人……」
橙「…………無理して答えなくて大丈夫ですよ。」
雨花「うーん、優しい人!」
橙・桃時「…………」
桃時「(この時雨花は、3歳ぐらい。この時点ではお母さんに複雑な気持ちはなかったみたいね。でも……)」
桃時「じゃあお父さんは?」
その瞬間、雨花の様子が変わった。まるで何かを隠すようなそんな様子に。
橙「ごめんなさい。もう言わなくて大丈夫ですよ。」
雨花「いや、……そういう事じゃなくて……」
桃時「はぁ……あんた。まだこんな小さいのにもう周りの様子を探ることを覚えてるの?」
橙「ちょっと桃時さん……!」
良いから、……と桃時は続けた。
桃時「大体、我慢とか気を使うとかそんなの外に出たらいくらでも使わなきゃいけないのに、家族のことにまで気を使うとか本当にきついと想う。……それは私も知ってるつもり。」
そう言いながら、桃時は自分の背中の右側を触る。
桃時「良い事。黒花。あんたはもったいない。自分の心を自分で推し潰そうとするなんて本当にダメよ。そんなことしたら……あんたは……あんた自身を……!」
「「無くすことになるわよ!!!!」」
桃時は、過去の自分の気持ちを押し潰して親の思うがままにされていた自分。雫に引き取られてもなお親の呪縛から放たれたなかった自分。そんな自分をそっとそばで守って、寄り添ってくれた橙や兎白、瑠璃人、雫。そして、雨花のことを考えながら雨花に話していく。
桃時「私はあんたにもあんたの感じたことをなかったことにして生きて欲しくない。自分の心をどうか。守って欲しい。あんたの本当の味方はあんたしかいないのよ……!」
雨花「…………話すよ。わたし。お父さんのこと。」
橙・桃時「!」
橙「本当に良いんですか……無理してまで話さなくて良いですよ?」
雨花「大丈夫」
こうして、雨花が口を開いたその瞬間。
ドゴォォォォン!!!!!!!!!
橙・桃時「!!!!」
雷のような音と共に、煙幕がかかり、見渡すばかり煙だけだった。
???「あぁわたしやらかしちゃったかぁ……」
煙の中から裸の少女が出てきた。その正体は━━━━━「紫雲雨花」だった。
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???「わたし幼児化したんでしょ?何か言わなかった?」
質問しているのは幼児化から元に戻った雨花だった。
橙「…………」
桃時「…………はぁ……もう少しであんたの抱えてるもんが分かると想ったのに……」
項垂れているのは、橙と桃時である。
雨花「その様子だと……結構危なかったみたいだな……ギリギリセーフ!って奴だね!」
橙「はぁ……あなた本当に過去何があったんですか?」
だから何度も言ってるでしょ?、…………と雨花が今度は「何にも映っていない目」で言った。
雨花「「何にも無い」って。」
桃時「…………」
「(きっと雫さんはアタシたちに雨花の根っこにある何かとても繊細なことを雨花自身の口から言わせたかったんだろうな……)」
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雨花「ふぅ……今回は本当に危なかったなぁ……」
雨花は、自分の家に帰り、早速修行の準備を始める。
雨花「もっと激しく辛い修行にしないと。体に刻み込んで刻み続けて……深く深く……そうしないとわたしは「あの力」が手に入らない……そしてもう二度と幼児化なんてしないように気をつけないと。鍛錬がまだまだ全然足りない……もっとだ。もっともっと修行をし続けないと。」
部屋に月明かりが入ると、そこには部屋中に紙が貼ってあった。━━━「わたしはクズすぎるクズ」という言葉が綴られて。
雨花「わたしは「生きる」ことをしなかった。「生きる」上で必要なことが何一つしなかった。そのくせ取り返しがつかないことはやり続けて……今はもう死んでるから生きてるとも言えないし……ははっ」
雨花は想う。
わたしはこの世にあった間も生きなかった。
人も傷つけ続けるだけをし続けて。今も。
自分の意思で。
傷つけられた側には苦しく辛い意味が生まれるけど、傷つけてしまった側には意味も価値も微塵もない。0.001以下も無い。
だからわたしは「何にも無い」……って分かってないよな。あの人たち。
わたしは自分を戒め続ける。戒めてくれる人がいないなら。それぐらいと謝り続けることしかできない。本来なら罰を貰って楽になることも許されない。何もしなくても罪も変わらないなら、やっぱり何かしなくちゃいけない。何もせず罪をなかったかのように過ごすことは絶対に許されない。だからわたしは罰を下してくれる人がいないなら自分で罰を下すしかない。自戒なんて自分が後々楽になるだけのほんの少しだけマシな奴になれてるって馬鹿すぎる勘違いするだけの自己満足に過ぎないけど。
「あはは……」
消えたいな。
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