第12話

???「また上の神様から通達がありました。」

???「えぇぇぇ……また?」


ここは冥府。話し合いをしているのは、「不山橙」と「紫雲雨花」である。


橙「神様というものは行事が好きなんですね。この世で「運動会」というものがあるのを前々から知っていたようで、あの世でもやろうと考えたそうです。」

雨花「でも、その準備やら企画とかを考えるのはわたしたちでしょ?閻魔だって亡者の裁判とかあって大変なのに、下っ端とは言わずとも………何というか……はぁ……」


閻魔は、裁判のみを行いその後の亡者への罪状通りにする仕事の方が優遇されており、閻魔は言ってしまえば舐められているのである。


雨花「裁判だって大変なのになぁ……」

橙「昔からの偏見のようですね……諦めるしかなさそうです。」

雨花「まぁいいや。それで?何やるの?またわたしは役決めかな?」

橙「いえ、今回雨花さんには選手として運動会に出てもらいます。」

雨花「…………え?」


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雨花「いやいや冗談だよね?わたしが選手?絶対嫌だよ!!わたしはあんまり自分の力周りに出したくないんだけど!?」

橙「各々の下の神様の代表が出場するそうですよ?この運動会は、周りの神様の力向上も目的としているみたいです。……まぁこれはついでのように言われていましたが。」

雨花「はぁ……力を引け散らかすようなことしたくないのに……」

橙「でも負けるかもしれませんよ?」


橙がそういうと、雨花の目からハイライトが無くなった。そして不敵に笑った。


雨花「………それはどうだろうね?」


橙は、一つため息を落とす。


橙「……まぁあなたに勝てる人はそういないでしょうね。……波乱の予感がしますね……はぁ…………」


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雨花「それで運動会の内容はどんな感じなの?」

橙「簡単ですよ。歩いても走っても泳いでも神通力や妖術を使ってもいいから地獄から天国まで行くこと。」

雨花「…………」


「「いやどこが簡単なの!?!?」」


橙「ナイスツッコミですね。」

雨花「いやいや、それって金斗雲に乗るのは?」


天国に行くには、神様の許可を得て金斗雲に乗って行かなければならないのだ。


橙「乗っても良いですが、乗って天国に行くまでに様々な試練が待ち構えているようですよ?雷に打たれたり、地獄産の大岩が降ってきたり、溶岩が流れ出たり、炎が噴射されたり……などですね。」

雨花「運動会だよね?」

橙「あの世ですよ?」


雨花は、その一言で半分納得した。


雨花「じゃあ瞬間移動は?金斗雲に乗らずそのまんま天国まで行っちゃう……とか?」

橙「それも別に良いらしいですが、様々な罠が仕掛けられていて、上の神様たちが完全に包囲しているみたいですね。」

雨花「運動会だよね?」

橙「あの世ですよ?」


雨花は、その一言で完全に納得した。


雨花「あぁ……大変だな……」

橙「…………」


橙は想った。この運動会が雨花にとって脅威になんてならないのではないかと。


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運動会当日、様々な神々が集められ、スタート地点で準備運動をしている者。緊張してガクガク震えている者。魂が抜けているかのように脱力している者。━━━━そして、ただ何もせず、スタートを待っている者。


???「はぁ嫌だ嫌だ。くだらないこんな行事。めんどくさいし、最悪なんだけど。」

???「まぁまぁたまには良いんじゃない?わたしも自分の力を周りに知らせるの好きじゃないけど。」


でもね……と、スタート地点でまるで日常の会話のように話しているのは、雨花と桃時である。


「あの二人、何であんなに落ち着いてるんだ?」「これからどんな目に遭うのか分かってないんじゃないか?」「あんなひ弱そうな神のくせに舐めてるのか?」「高みの見物といきましょうか」


周りは悪口のオンパレード。しかし、それが聴こえているのか聴こえていないのか分からないが、二人は相変わらず話を続けている。


???「皆さん、これから第一回あの世運動会を始めます。……悪口はその辺で程々に。」


運動会の実況を任されているのは、橙だった。そして、雨花と桃時の悪口をこれ以上言わせないように注意を促したのであった。


橙「それでは選手のチームを発表します。阿鼻地獄からやってきた獄卒チーム。天国から舞い降りた天使チーム。時間操作はお手のものチーム。人生の判り事チーム。以上四チームで行います!それぞれの代表の方、ご準備を!」


各々のチームが構える中、時間操作はお手のものチームと人生の判り事チーム……つまり、桃時と雨花は、まだ会話をしている。


橙「では、始めます。よーいスタート!」


その瞬間、桃時が神通力を発動させた。


桃時「神通力・【時雨】(しぐれ)」


すると、辺りが静まり返った。そう、桃時と雨花と橙以外時が止まったのである。


橙「はぁ……あなたたちがいると「運動会」として機能しませんね……」

桃時「別に良いじゃない。舐め腐ってた奴ら……馬鹿みたいね。ブヒャヒャヒャヒャ」

橙「まぁこうなるとは想ってましたよ。……あれ雨花さんはどこに……?」

桃時「えっ?……ってあそこにいるわよ。」


二人の視線の先には、先程悪口を言っていた者たちの顔に落書きをしている雨花がいた。といっても雨花が落書きしていたのは桃時の悪口を言っていた者の顔だけだが。


雨花「ヌフフフ、めちゃ面白い!笑笑」

桃時「ちょっと、私にもやらせないさいよ。私はあんたの悪口言ってた奴に落書きしてやるわ。」

雨花「えぇーそんな事しなくても良いよ〜!」

桃時「別に良いでしょ?私も腹立ったし。」

橙「って二人ともそんなことしてる場合じゃないですよ!!あまり長い間時を止めていると、世界線や時空に異常が発生するんですから早くゴールして下さい!」

雨花「そうだった!桃時ちゃん!行こう!わたしに掴まって!」

桃時「はいはい。」


こうして二人は、雨花の神通力を使って何事もなくゴールしたのである。


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橙「……ということで優勝は、時間操作はお手のものチームと人生の判り事チームです!!」


雨花と橙と桃時以外のものは、頭がちんぷんかんぷんだったが、橙が予め撮影していたビデオをみて、この二チームが優勝したことが証明され、見事優勝できたのだった。


「きゃあ!!わたくしの顔がめちゃくちゃだ!!」「誰がこんなことを!!」「屈辱だ!!」「くっそ。しかもあやつらが優勝したのも腹が立つ」


そう言いながら、悪口を言っていた神たちは文句を言って怒りながら運動会場から去っていった。



橙「雨花さん?」

雨花「ん?」

橙「今回雨花が使ったのは瞬間移動の神通力だけでしたが、雨花さんも短時間なら時を止めて自分だけゴールもできたのでは?なぜやらなかったんですか?」


すると、雨花は細く笑う。


雨花「桃時ちゃんは負けず嫌いだし、二人でゴールした方が良いかなって……!それに……」

橙「それに?」


雨花は何も映らない瞳になり、口に人差し指を立てこう言った。


飴花「ひ・み・つ」

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「「「「かんぱーい!!!!」」」」


ここは、あの世にある居酒屋である。雨花、橙、桃時はここで運動会の打ち上げをしていた。


橙「ひっく。だいたいいつも……ひっ……あなたたちは強いくせに子供っぽいことをするから……うぅぅぅ……ひっく…………舐められるんですよ……」

桃時「わぁ、こいつ相変わらずお酒弱いわね。まだ一杯目飲みきってないのに。」

雨花「でも、酔っ払ってる橙ちゃんも可愛いよ」

桃時「あんたはもう9杯目なのに何で酔っ払ってないのよ。ぜんっぜん顔も赤くないし。あんたは逆に強すぎ。」

雨花「桃時ちゃんは飲まないの?」

桃時「私はカクテルとかワインは好きだけど、居酒屋で飲むようなビールは苦手なの。」

雨花「オシャンティーだなぁ」

橙「ちょっと……きいて…………るんです……か?」

桃時「はいはい聴いてるわよ。あんたもう水かジュースだけにしときなさい。」

雨花「そうだね。橙ちゃん少し横になりな。ここ個室だから大丈夫だよ。」

橙「……ひっく…………雨花さん……」

雨花「ん?」

橙「消えちゃダメですよ……」


すると、雨花は少し押し黙ったがこう言った。


雨花「……大丈夫だよ。橙ちゃんは。」

桃時「はぁ……雨花。あんたが過去なにしたか知らないけど、そういうの全部丸ごと全部抱きしめようとしてくれる奴があんたの周りにはあんたが想ってる以上にいることを忘れちゃダメよ。」

雨花「…………そんな考えいずれ無くなるよ」

桃時「ん?何か言った?」

雨花「ううん何にも!そろそろお店出よっか。」


橙を雨花がおんぶして、雨花、橙、桃時はそれぞれの帰路に着いたのだった。独り、目に何も通さず、帰路に付いた者がいたことは誰も知らない。

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