第11話
???「……ということでみんなで劇をやりましょう」
???「はーい」
???「…………このメンバーでやるの?本気?大丈夫かしら……」
???「あそこにいる子たちはみんな良い子だから大丈夫だ。」
???「オレ、子供好きだぜ!やろやろ!」
ここは、死神組の本拠地。ここで何が行われてるか。少し時間を遡る。
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???「保育園?」
???「あぁ黄泉比良坂にある保育園に一時的に保育士として何か仕事を手伝って欲しいと通達があったんだ。」
話し合って、質問をしてるのが「不山橙」。そして応えてるのが死神組組長「兎白」である。
橙「どうして死神組が手伝うことになったんですか?死神組はあの世の取り締まりを行う機関ですよね?」
兎白「それが、保育園の保育園児の一人が死神組の噂を聴いたらしくて「死神組かっこいい」っていう話をしたらそこから広まって「死神組の隊員さんにぜひ保育士をやって欲しい」とのお達しが来たそうだ。」
橙「なるほど。でもそれならどうしてここへ?ここは冥府ですよ?」
二人が話し合っているのは、雨花と橙の働く「冥府」である。
兎白「それが死神組は男しかいなくて、中には男を怖がる園児もいるだろうから知り合いの女性を誘おうと想ってな。」
橙「わかりました。では私と雨花さんと桃時さんでどうでしょう?雨花さんは子供好きですし、桃時さんはなんだかんだ頼まれると断れない性分ですし」
兎白「お前から誘ってくれるのか。ありがとう。助かる」
こうして橙と兎白、そして雨花、桃時、瑠璃人たちは一時保育士になるのだった。
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雨花「おぉー!!子供たちのお世話!やりたい!やりたい!」
桃時「何でアタシまで……まぁ頼まれたんだしやるけど……」
瑠璃人「具体的に何をするんすか?」
雨花、桃時、瑠璃人を集め、保育士としての仕事内容を決めることになった。
兎白「保育園側からはオムツの着替えや園内の清掃。それから園児と一緒に遊ぶのと、園児たちに何かサプライズをして欲しいと言われている。」
雨花「サプライズ?何すれば良いの?」
桃時「それを今から決めるんでしょ?」
橙「どうしましょうか?」
瑠璃人「子どもが喜ぶもの……」
橙、桃時、瑠璃人は幼少期から辛い経験しており、子供の喜ぶものというものが上手く想像できないのだ。自分たちは体験していないから。
……雨花はどうかって?
さぁどうでしょうか。
兎白「それなら劇はどうだ?」
雨花・橙・桃時・瑠璃人「劇?」
兎白「あぁ、劇。昔俺の親がやってくれたんだ。その日は、俺が好きなアニメのヒーローショーがあったんだが、屋外でやるものだったから大雨が降って、中止になって、それで元気をなくした俺を励ますため、一生懸命キャラを演じて劇をやってくれたんだ。今でもよく覚えてる。……楽しかったな。」
桃時「……そう。良い想い出ね……」
桃時は、微笑ましく笑顔になった。他三名も優しく微笑んでいる。
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時は現在に戻る。
橙「問題は、劇の内容ですね。誰が考えますか?」
兎白「それなら俺が考えよう。俺は演技は苦手だ。演者には向いてない。チョイ役ならやっても大丈夫だが……」
桃時「アタシも。演技って自分を偽るとも言えるでしょ?アタシはそういうの嫌いだから。」
橙「…………分かりました。ではお二人に劇の内容を決めてもらい、兎白さんには少しだけ演者になってもらうということで良いでしょうか?」
雨花「異議なし!」
瑠璃人「…………まぁ良いけど」
どうして、橙と瑠璃人が渋っているのか。それは二人の好きな作品に、「ピンキーミルキーラビット」というイカr……大分不思議な作品があったため、嫌な予感がするからである。
「ピンキーミルキーラビット」については、「透明色の彼岸花⑤」をお読み下さるとより分かると想います。宣伝すみません_○/|_
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わいわいがやがや。
ここは黄泉比良坂にある保育園。園児と保育士が体育館に集まって、雨花一行の劇を待っている。
「橙お姉ちゃん可愛かった!すごく優しかったし!」「確かにあんま笑わないけどなんかかっこいい!」「雨花もすっごく優しかったよな!」「なんかちょっと恐いけど……笑」「桃時お姉ちゃんは最初は恐かったけどなんだかんだ頼れるお姉ちゃんって感じだった!」「桃時めちゃちっちゃくて可愛いかったな!」「兎白かっこいい!!」「兎白お兄ちゃんめちゃくちゃイケメン!!結婚したいなぁ!」「瑠璃人くんもチャラチャラしてるけどかっこよかった!」「瑠璃くんって言われてたよな笑」
園児たちがはしゃぐ中、劇の題名が緞帳が上がって出てきた。
【美女と野獣みたいなやつ】
園児たちが拍手をして、とうとう劇が始まった。
???「ワンス・アポン・ア・タイム。お城の中に王子が住んでいました。その王子は顔を彫刻のように整っていましたが、態度が悪く、とても自己中心的な性格の持ち主でした。」
これは劇中の案内人、ナレーションである。
???「ハッハッハッ!みんな俺の思うがままだな!どいつもこいつも骨のない奴らばかり……ハッハッハッ!!!!」
周りを馬鹿にしているのは王子である。
ナレーション「その王子の元に、薔薇の形をした宝石が飾られている首輪を付けた老婆がやって来ました。その時、お城の中では舞踏会が行われており、その老婆はこう言いました。」
???「この薔薇を買い取って欲しい。」
ナレーション「その瞬間、舞踏会場はざわめき始めました。王子は老婆に舞踏会を邪魔されたと感じ、老婆を笑いものにし、老婆の買い取って欲しい薔薇を踏みつけました。」
王子「こんなみすぼらしい薔薇なんて誰が買うんだ!誰かこいつを追い出せ!!」
ナレーション「王子が怒号をあげた時です。老婆が光り出しました。そして……」
???「この薔薇の花びらが全て落ちるまでにあなたが何かを愛し、その何かから愛されればこの魔法は解けます。」
ナレーション「そう告げると、老婆は消えていき、残ったのは魔法をかけられ、食器や掃除道具になったメイドや執事や家臣たち。そして、恐ろしい獣になった王子でした。」
王子「そ、そんな……あ、ああああああああぁぁぁ……」
ナレーション「そして、王子は誰も寄せ付けなくなり、王子はこんな姿では誰からも愛して貰えないと嘆き、城に籠り、城の明かりは消えていきお城は孤城と化しました。それから何年の時が過ぎたでしょう。ある村にとても美しい娘が父親と二人で住んでいました。」
娘「お父さん、今日もお仕事へ行くのね。あんまり無理してはいけないわよ?」
父親「あぁ、大丈夫だよ。お前が養子に来てくれて本当に嬉しいんだ。お前のためなら何でもやれるぞ?」
娘「無理しないでね?いってらっしゃい!」
ナレーション「その娘の父親は仕事で隣の村に遠出をすることになり、娘を残して隣の村に出向きました。その帰り道、とても立派ではあるものの寂れた孤城を見つけました。その孤城にはとても美しい薔薇の花が咲いており、娘は薔薇がとても好きだったため、父親は一輪薔薇を摘み取りました。」
???「お前は何をしている!?!?」
ナレーション「声をあげたのは野獣に変えられた王子でした。野獣に変えられた王子は大切な薔薇を荒らされたと感じ怒り、父親を襲い、父親は城の地下牢に捕らえられてしまいました。」
娘「お父さん、遅いわね。何かあったのかしら。」
ナレーション「父親のことが心配になった娘は、とうとう父親を探しに行きました。いくら探してもみつからず、それでも探し続けると森の奥にお城があるのを発見しました。娘はぐんぐん城の中に入り、父親の捕らえられた地下牢にたどり着きました。しかし……」
???「誰だ!!」
ナレーション「地下牢に王子がやって来ました。すると娘はこう提案しました。」
娘「私が父の代わりにここに残ります。だからどうが父のことは離してあげてください」
ナレーション「王子は、少し考え、その提案に応じました。」
ここで場面が大きく変わり、独りで老婆のくれた薔薇の前で悲しい顔をした王子が出てきた。
ナレーション「最初こそ、王子は久々の人間に戸惑いをみせていましたが、自分の父親を襲われたのにその相手にすら優しくする娘に徐々に惹かれていきました。」
王子「お前とはどこかであったことがあるくらい、心と心がピッタリ重なる。お前は不思議な奴だな。」
娘「ふふ、そうかしら。……少し席を外しても良い?」
王子「あぁもちろんだ。」
ナレーション「王子は、もう既に娘のことが完全に好きになっていました。」
王子「でも、どうして自分の首元をいつも隠しているのだろう?」
ナレーション「少しある疑問を持った王子ですが、娘が戻ってくる頃にはそんなことは忘れていました。」
そして、王子と娘が仲睦まじく過ごす描写が続いた。
ナレーション「そんな日々が過ぎていきました。しかし、娘の父親に言われて村人が城を襲撃しにやって来ました。」
王子と村人が闘うシーンになり、最初こそ村人が優勢だったが、徐々に王子の方が優勢になっていく描写になった。
???「あなた……!無事……?」
王子「……!お前……!」
ナレーション「あと少しで村人を倒せる時に、娘が王子の前に現れ、二人の目はまるで恋人をみつめるような目になり、王子は油断してしまいました。しかし……」
次の瞬間、最後の村人が王子の鳩尾を剣で刺し、王子は倒れるというシーンに変わった。
ナレーション「王子は剣で刺され、徐々に死んでいきました。」
王子「……お、お前の……こと、あ、あ、あいし……ぐはっ!……」
娘「あ、あなた……」
ナレーション「薄れいく意識の中で王子は娘に自分の気持ちを伝えようとしていました。もう王子は死んでしまうその時です。」
王子が光ながら浮き出し、傷口も癒えていき、元の王子の姿に戻っていった。
ナレーション「王子の傷は癒え、王子は人間に戻れたのでした。」
王子「君を愛しているよ」
雨花「その言葉をずっと待ってたわ……!」
ナレーション「王子と娘は深く泣きながら抱きしめ合いました。そして、二人は末永く愛し合ったのでした。」
ここで、誰しもが話が終わったと思った瞬間。
ナレーション「━━━━━娘の首元に薔薇の形をした宝石が飾られた首輪があるとも知らずに。」
「えっ?」
「「「「ええええぇぇぇぇ!?!?」」」」
娘の目が鈍く光り、緞帳が降り、劇は終わった。
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???「はぁー!!ハラハラした!」
???「わたしの演技どうだった??良かったかな?」
???「まさか、こんな内容だなんて……想いもよらなかったなぁ」
???「ふふふ、中々のものでしょ?」
???「俺たちの話。どうだっただろうか。」
舞台袖で、服やウィッグなどを取って劇の片付けをしている時に会話しているのは、雨花と橙、桃時、兎白、瑠璃人だった。
雨花「橙ちゃんが娘ちゃん役やれば良かったのに。そしたら合法的に瑠璃くんと……!」
橙「ん"ん"ん"ん"。恥ずかしいのでそういうの言わないで下さい!それに私は演技が苦手なんです。ナレーションが一番適役ですよ。」
瑠璃人「俺は、相手役、橙が良かったけどな〜!」
橙「瑠璃人さんも見事な演技でしたよ?野獣の時もとても恐ろしく、でも娘を怖がる演技も上手くて素敵でした。」
瑠璃人「そうか?橙に褒められるのはやっぱり嬉しいな!」
桃時「あんたも演技できないとか言ってたけど、立派に父親役やれてたじゃない。凄かったわよ。」
兎白「ありがとうな。最後のオチはお前が考えたやつだよな?みんな驚いてたぞ?衣装も桃時が作ってくれたおかげでリアルに再現出できた。」
桃時「私にかかれば朝飯前よ!」
橙「ていうか今回の劇。結構内容が難しかったし、理解できない園児もいたのでは?理解できても恐がってしまうのではないかと……?」
瑠璃人「それは俺も想った。大丈夫か?」
桃時「向こうから頼んできたのよ?文句を言われる筋合いはないわ。」
兎白「それに意外性があって俺が園児なら逆に面白いと感じると想う。」
橙「それは……」
瑠璃人「……」
橙・瑠璃人「(あなたたち・あんたたちが変な感性の持ち主だからでは……?)」
橙「まぁいいか。ちゃんと要望には応えましたし。」
瑠璃人「そうだな……笑」
桃時「それにしても最後、王子と抱きしめあった雨花の目。めちゃくちゃ恐かったわよ?園児も恐すぎて涙すら出てなかったわ。」
雨花「なんか園児ちゃんたちに申し訳ないなぁ。大丈夫かな?」
桃時「それほどあんたの演技が本物のようだったってことでしょ?むしろ良い事よ。」
橙「雨花さんの演技もとても素敵でしたよ?」
兎白「あぁとてもリアリティがあった。」
瑠璃人「おお。本当のことかのようだったぜ」
「(嘘をつく姿が本物か。やっぱりみんな鋭いな。)」
こんなことを雨花は独り想いながら、みんなで劇の片付けをして、一時的とはいえ保育士としての仕事を全うしたのだった。
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