第8話

???「なぁお前子供好きなんだろ?」

???「…………」


ここは、神様に弟子入りして神様の卵が集って神様の修行をする修行場である。

そして、会話しているのは、

閻魔大王である「雫」という神様に弟子入りした二人━━━━━「独野黒花」と「兎白」である。


兎白「雫さんから聴いたんだ。黒花は保育士を目指してたって。」

黒花「…………だったら何?」

兎白「黄泉比良坂で早くに死んだ子供たちを預かってる保育園みたいなところがあるんだ。俺と行ってみないか?」

黒花「行かない。」

兎白「まぁそういうだろうと想ったよ。だから……」


そういうと、兎白は小さな藁人形を持ち出した。それを黒花はじっとみていた。


黒花「…………」

兎白「これは雫さんが今まで出会った妖怪の力を全て込めて雫さんの妖術で編んだ藁人形だ。「百鬼夜行」という名前の彼岸道具」

黒花「…………!」


黒花は、目を見開きその藁人形━━━「百鬼夜行」をじっくりみた。


兎白「これが欲しかったら俺と一緒に黄泉比良坂まで行って子供と遊びに行く……どうだ?」

「(黒花は、自分の力を向上するためならなんだってやるはず……どうなるか……)


しばらく沈黙が続くと、黒花が口を開いた。


黒花「分かった。行く。」

兎白「!」

黒花「でももし、その人形を渡さなかったり、わたしの修行の邪魔をほんの少しでもされたとわたしが感じたらあなたを殺すから。

…………って言ってもあなたは生まれ持っての神様で、人間じゃないからいっその事死にたいと想わせるまで痛ぶるだけだけど。」

兎白「すらっと恐ろしいこというなよ……分かった。約束する」


そして、二人は黄泉比良坂に行くことになった。


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ここは、黄泉比良坂。生と死の境にあると言われている場所。なぜここで子供たちをお世話しているのか。それは、あの世には地獄や天国など魂の影響力の強い場所が広がっており、幼児期の人間をそのような場所に連れていくと魂に負荷がかかり、その後の転生に支障が出ると言われていて、しかし死んでいるから生の世界に連れていくこともできないため、黄泉比良坂にてお世話をしている。


兎白「ここはいつみても綺麗だな。こんなところで自分の最愛の奥さんと再会なんてしたら泣きたくなるだろうな。」

黒花「…………イザナミとイザナギの話?でも結局奥さんとの約束を破って、岩で道を塞いで奥さんから逃げたんでしょ?最愛の奥さんって言うけど、奥さんの気持ちを受け止められず、見た目が変わったら逃げるんだからその程度なんだよ。もう死んでるのに無責任に自分のエゴで奥さんをこの世に連れていこうとして、その上そんなエゴに付き合ってくれた奥さんとの約束も破って……そういう奴大嫌い。」

兎白「…………まぁ約束破ったのは良くないけど、そこまで言うか?」


鳥居をくぐると、辺り一面に、透き通った綺麗な川があって、黄色い蓮の花が咲いていてとても美しい場所が広がっている。


「きゃはは!待て待て〜!」「あっ当たった!ちぇー俺、外野かぁ……」「次誰か当てれば勝てるよ!だから大丈夫!」「おぉ!頑張る!」


そして、子供たちが天真爛漫に笑いながら遊んでいる。


黒花「…………」

兎白「雫さんから保育士さんたちに話は付けてくれてるみたいだからお前も子供たちと遊んだらどうだ?」

黒花「…………遊ばない。わたしはまた傷つけてしまうから」

兎白「…………そうか。じゃあとりあえずあそこに腰掛けて子供たちが遊んでる風景でもゆっくりみよう」


そうして、二人は近くの石に腰をかけた。


兎白「なぁお前。どうして保育士になろうと想ったんだ?」

黒花「応えない」

兎白「…………分かった。じゃあどうしたら応えてくれる?」

黒花「…………」

兎白「じゃあお前の苦手な妖術の鍛錬と気絶するまで打ち込み稽古でどうだ?」

黒花「…………どうしてそこまでしてわたしに構うの?」

兎白「うーん…………少しでもお前の危なっかしさを柔らかくしたからかな?」

黒花「…………気持ち悪いね。」

兎白「そっ、そんなにはっきり言うか?」

黒花「…………わたしは、力になりたかった。」

兎白「力?」

黒花「うん。」


優しい光に反射した川に浮かんだ花弁が茶色くなっている蓮をみつめて黒花は、話し出した。


黒花「子供は、例え自分の現状が嫌でも、それが当たり前みたいになって…………

それが「普通」だって想うようになって……そうなると、自分では中々助けてって言えなくなる。気づいた時にはもう取り返しがつかない気持ちになって、そのまま長い間過ごすことになる。場合によっては、この世からなくなることもある…………わたしみたいに……」


黒花は話を続けた。


黒花「もしかしたら暖かい光が差し込んでくれることもあるかもしれないけど、そんなのはごく一部でしかなくて……そうなる前に、わたしは気づいてあげたかった。気づける人になりたかった。子供たちが無自覚に抱えてる苦しさに気づけるそんな人間になりたかった。だからこそ子供たちと近くでいれる仕事に就きたくて保育士になろうと想った。」

兎白「……そうか。暖かい理由だな。」

黒花「そういう風に言われるかもしれないから言いたくなかったのに。」

兎白「やっぱり俺にはお前は良い奴にみえるんだけどなぁ」

黒花「わたしのやってしまったことを知れば、そんな考え無くなるよ。絶対に。」


こうして二人が話していると……


???「あっ、あのう……」

黒花・兎白「?」


話しかけてきたのは、灰色の髪を持つ少女だった。


兎白「どうしたんだ?名前は何て言うんだ?」

???「あっ、えっと、……灰奈(かいな)…です……」


黒花と兎白に話しかけてきた少女━━━灰奈は、たどたどしく自分の名前を告げた。


兎白「それで何か用か?」

灰奈「その、お姉ちゃんに話しかけたくて……」

兎白「えっ?」


そういうと、灰奈は黒花の前に立った。


灰奈「えっと……一緒に遊びませんか?」

黒花「…………?」


黒花は、「(どうして私なんかと……他に友達いるだろうに……)」と想いながらもこう応えた。


黒花「私は遊ばない。他の子と遊んで。」


黒花は、あえて冷たい言い方で灰奈の誘いを断った。しかし……


灰奈「嫌だ。遊ぶ。」


灰奈も黒花の断りも断って、黒花の服の裾を握った。


黒花「…………どうしてわたしと遊びたいの?他に遊んでくれる人いないの?」

灰奈「そうじゃない。ただお姉ちゃんと遊びたいだけ。」

黒花「…………」

兎白「ほら。行ってこいよ。」

黒花「だから……私は…………」

兎白「このまんまだと人形渡せないぞ?」

黒花「…………」


こうして黒花と灰奈は遊ぶことになった。


灰奈「砂でお城作りでどうですか?」

黒花「……別に良いけど」


「あと楽な話し方で話して良いよ」そう黒花は付け加え、砂遊びをすることなった。


灰奈「お姉ちゃんは、どうして私と遊ぶの断ったの?」

黒花「…………大したことじゃないよ」

灰奈「話してくれないの?」

黒花「…………私は……あなたを傷つけてしまうから。」

灰奈「傷つけてしまう?私傷つかないよ?例え傷つけても謝れば良いじゃん。」

黒花「…………ありがとう」


「(傷をつけてしまったらもう二度と戻れない……その人の性格を変えてしまう。その人の人生を変えてしまう。だから、傷をつけてしまったらひたすら自分を誰かに戒めてもらうか自分で戒めるしかない。そして、謝り続けることぐらいしかできない。絶対に何かしら罰を下されるべきなんだからわたしは…… 本当は罰を貰って楽になることも許されないけど)」そう想いながら黒花も灰奈と一緒に砂のお城を作った。


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黒花と灰奈は、一旦休憩をすることになって木陰で休むことにした。


黒花「…………何で私と遊びたかったの?」


黒花は、「(あんな冷たい言い方をすれば怖がってどこかに行くと想ったのに、どうして私なんかと遊びたいんだろう……)」と感じながら灰奈に質問した。


灰奈「私のお姉ちゃんに似てたからかな?」

黒花「あなたのお姉ちゃん?」


すると、灰奈の目はとても暗くなった。


黒花「ごめん。無理して話さなくて良いよ。」

灰奈「…………ううん。大丈夫。私のお姉ちゃんね。自分から死んじゃったんだ。」

黒花「!」


灰奈は、話し出した。


灰奈「私は病気がちでママもパパも、私はもう治らないって想ってたんだ想う。それでママもパパもお姉ちゃんの方に沢山期待してた。私のお姉ちゃん凄く頑張り屋さんで、勉強凄く頑張ってたの。でも頑張る度にお姉ちゃんの目が暗くなって、死んじゃった日の前の夜に、お見舞いに来てくれて、いつもは「おやすみ。また明日」って言ってくれてたのに、その日だけ言わなくて、朝起きた頃には……もう…………それでその後すぐ私も病気で死んじゃった」


灰奈は、徐々に涙が出てきたので、黒花は「もう良いよ」と言ったが、それでも灰奈は話し出した。


灰奈「私のお姉ちゃんと黒花お姉ちゃん目がすっごく似てるの。お姉ちゃんが元気がない時と、特にお姉ちゃんが死ぬ前の夜のあの時の目に……私もう嫌だ。自分の目の前で誰かが死ぬの。すっごく嫌だ。だから今度こそお姉ちゃんと同じようなことを起こらないようにするの。もう誰も死んで欲しくない。」

黒花「…………ここにいる人はみんな死んでるよ。」

灰奈「じゃあ来世でも良いから自分から死んで欲しくない。いなくならないで欲しい。」

黒花「…………」


黒花はしばらく黙ると、こう話し始めた。


黒花「あなたのお姉さんは優しい人だったんだろうね。きっと人を傷つけるよりも傷つけられる回数の方が沢山あったんだろうね。あなたもお姉さんも充分すぎるくらい頑張ってるんだよ。今もきっとあの世のどこかで。」

灰奈「!」


そう言うと、黒花は、灰奈から離れようとした。しかし、灰奈は、立ち上がって黒花の方をまっすぐみた。


灰奈「黒花お姉ちゃん。私ね。自分のお姉ちゃんにずっと言いたいことがあったの。それを代わりに聴いて欲しいの。黒花お姉ちゃんに。」

黒花「言いたいこと?」

灰奈「うん」


すると、灰奈は大きく叫んだ。


灰奈「幸せになって!!幸せにならなきゃダメだよ!!私のせいで沢山傷つけてごめん!!でもお姉ちゃんは幸せになって欲しい!!お姉ちゃんだけの幸せを手に入れて欲しい!!お姉ちゃんは幸せになるために生まれてきたって私想うもん!!」

黒花「…………」


灰奈は、段々と泣き続けた。


黒花「…………そんな風に想ってくれるお姉ちゃんは本当に優しい人だっんだろうね。

灰奈「違う!!私のお姉ちゃんにも伝えたいけど黒花お姉ちゃんにも伝えたいの!!」


黒花はしばらく黙るとこう告げた。


黒花「わたしは……ダメだよ。幸せになんて……楽になるなんて絶対嫌だ。ダメ。」

灰奈「…………っ!!」


すると、灰奈は黒花をポコポコ殴り続けた。もちろん、黒花にしてみれば痛くも痒くもないが、意外なことが起きて、黒花は少し困惑していた。


灰奈「例えお姉ちゃんの言う通りでも、お姉ちゃんにそれでも幸せになって欲しい。優しい人に包まれて欲しい。そう願う私の気持ちは認めて貰えないの?!?!」

黒花「!」


黒花の心にじゅんわりと小さな綺麗な灰色の粒が落ちて、波紋のように広がっていく。


灰奈「お願いだから……幸せになってよ…………お願い…………幸せになっちゃいけないなんて言わないで……幸せになって良いんだよ……。……?」


灰奈が目の前をみると、黒花の目から涙が溢れて出ていた。


灰奈「……お姉ちゃん……?」

黒花「……うぅ……ぅぅああああ……」


黒花は、泣くと灰奈が黒花を抱きしめ、二人でずっと泣き続けた。しかし、抱きしめ返すことは無かった。


その様子を兎白はみていた。


兎白「黒花はこれでもきっとダメだろうな……」


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???「嫌だなぁ……生まれ変わるの……またもし誰か死んだら……私は……」

???「……灰奈ちゃんのその人がいなくなったら寂しいと感じることが出来る優しさに気づいてくれる人がいたら、灰奈ちゃんと一緒にいたいって想って、離れないでいてくれると想う。わたしにはこんなことしか言えないけど……」

???「黒花お姉ちゃん……」

???「もう黒花じゃなくて雨花だけどね……笑」


二人の女の子━━━━「灰奈」とそして、「紫雲雨花」の周りには沢山の子供たちで溢れかえり、輪廻転生を担当する神様と一緒に最後の時を過ごしていた。


灰奈「来世なんていらないよ。また嫌な想いしたくない。」

雨花「じゃあこれをあげる。」


そう言うと、雨花は「独野黒花」だった時の髪を留めていた髪留めを灰奈を渡した。


黒花「これは、わたしがずっと身につけていたもので、これを渡すと渡された人にとってのお守りになってくれるの。これを持ちながら輪廻転生したら魂と交ざって、灰奈ちゃん自身を恐いことから守ってくれるよ。」


真っ黒な髪留めを灰奈は握り締め、とうとう別れの時がやってきた。


灰奈「みんな沢山遊んでくれてありがとう!!みんなと来世で会えることを祈ってるね!!」


「そして」と灰奈は付け加えた。


灰奈「黒花お姉ちゃん!!幸せになってね!!約束だよ!!」

雨花「…………ありがとう」


そして、灰奈は旅立った。

雨花は、そっと呟く。


黒花「……ごめんね。灰奈ちゃん。」


黒花の心には、もう既に自分自身の手で綺麗な灰色の粒を黒が襲いこみ、汚い紫色の歪んだ希望が満ち満ちていた。


雨花の呟きは誰にも届くことなく溶け込んだ。

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