十五話 冒険者ギルドの態度

 「特別なのですな! カラスマ君は」

 「は……はは、こういうのは異端というのではないですかねぇ……ははは……」

 

 どこまで状況を把握しているのかも不明なジスワットの能天気な様子を見て、ミッカは「もしかしてこのお爺ちゃんぼ――」まで言いかけたがさすがに最後まで言葉にはせずに黙る。

 かわりにカラスマはナイフをインベントリに収めつつサラリーマンとして磨いた“なんとなく適当に相槌を打つ”スキルを発揮していた。

 結果として室内にはなんとも寒々しい空気が漂ってしまったものの、その冷たさが困惑していたオーの頭を冷やすことにはなった。

 

 「ジュベール様はオラクルというギフトによってジャスティア神の声を聞くとのことだ。それによって君たちが神の力で召喚されるということを知って出迎えたということなのだろう。つまりはジャスティア神が介入せねばならないほど深淵の魔物は深刻だということか……、冒険者としても気持ちを引き締めねばなりませんね、ギルド長」

 「そうなのですか、それは大変ですな」

 

 一旦はインベントリから話を変えようとしたオーの言葉に、ジスワットはやはりずれた受け答えをする。

 

 「(ジュベール……プレスルさんにもギフトの力があったのですねぇ。あの人も城では要職にあるようでしたが、ここではジャスティア神の与えるギフトがただの力以上の意味を持っているという感じですかね)」

 

 カラスマが先ほど自分で口にした異端であるということを改めて感じていた間に、ミッカは不安そうにおずおずと口を開く。

 

 「異世界とか召喚とか……、おじさんの変な力とか……、その……なんていうか……いいの?」

 

 聞くこと自体が藪をつつくような行為ではないかという思いが、随分と曖昧な言葉にしてしまっていた。しかし老茶が空になったカップを悲しそうに見つめるジスワットはともかく、オーの方は正確にその意図を読み取ったようだった。

 

 「うむ、異世界の出身だという二人の来歴には驚いたし、カラスマ殿の異端ぶりにはさすがの私も困惑しているが、正直に事情を話してくれた二人のことを邪険にはしないさ! 誠意には誠意で返すのが冒険者の流儀というもの……いわゆる“手のひらを向けられれば手を合わせるが、拳を突き出されれば拳で打ち返す”というやつだね!」

 

 落ち着きと快活さを取り戻したオーの言葉に、ミッカは深いため息をついた。それは安堵からのものだったが、正面で見ていたオーはいたずらを思いついた子供のように口端を吊り上げる。

 

 「それは冒険者ギルドの召喚者への態度が敵対的ではないと知っての安堵かな? …………それとも、カラスマ殿が当面害されることのない居場所を見つけたからか? ふふ、同じ境遇にある身とはいえ随分と思い入れがあるようだ」

 

 最初はその意味がわからずにきょとんとしていたミッカだったが、徐々に顔を赤くしていき、ついにはわたわたと顔の前で両手を交差し始める。

 

 「そ、そんなんじゃないし! ないから!」

 

 前半はからかいを仕掛けてきたオーに、後半は隣でカップを傾けていたカラスマに向けてだった。

 すると、カラスマはのんきにカップをローテーブルに戻すと、情けなく表情を崩す。笑っているのか困っているのかよくわからない顔だった。

 

 「緑茶よりほうじ茶が飲みたいですねぇ」

 「…………なにそれ、うける」

 

 なんとなくではあるが、この隣に座るおじさんはギルド長の老人に似ているなと、ふと思ったミッカだった。

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