十四話 素直に語る
なぜ全くの新人であるカラスマとミッカが、この場のトップであろうギルド長であるというジスワットと会談するようなことになっているのか。そのことに二人は戸惑いつつも警戒も滲ませていたが、聞けば本当にただ興味があったということらしい。
明らかにこの辺りの出身者ではない正体不明の二人組が突然冒険者ギルドを訪れて仕事を始めるなどということは、職業の特徴からして珍しいことでもないが、それに異常といえるほどの手際の良さ――つまりは冒険者としての腕前――が重なれば興味の対象にもなりえるということだった。
そしてそうした事情を丁寧に説明されたことでミッカは冒険者ギルドという組織に早くも心を開きそうにもなっていた。
ともに召喚された学友たちは降ってわいた力に浮かれて様子がおかしく、最初に接触した現地人である城の人間たちは腹に一物あることを隠そうともしない。そんな状況に辟易としていただけかもしれないが。
とはいえ彼女にしても自身が大きな力を得たのだとしても人生経験に乏しい高校生であり、比較すればカラスマの判断に頼った方が良いとも考えていた。そのため、どう反応すればいいものかと視線で問うべく横を見たが、その先ではカラスマはこれまで通りの気負ったところのない様子で口を開こうとしていた。
「まず私たちはここではない場所から突然連れてこられた、という状況でして……」
「わたし……たち? それにここではない場所などと、それはまるで……っ!?」
カラスマが話し出してすぐに、オーとミッカは戸惑うことになる。前者はその内容に、後者は馬鹿正直に話したということに。落ち着いているのは話している当人をのぞけば、ちびちびと老茶をすするのに夢中で無言のジスワットだけだった。
とはいえ部屋の中でいえば困惑しているのは半分に過ぎないために、話が中断するようなこともなくカラスマの説明は進んでいった。
そしてつい先ほど、どこまで素直に事情を明かすべきかと悩んでいたミッカの隣で、カラスマはいっそ饒舌に語っていく。
おそらくは異世界からの召喚であること、その際には学生たちとカラスマでそれぞれ別の存在から力を授かったこと、そしてなんとカラスマは自身が受けた理不尽でむごい仕打ちまで淡々と話す。
「(妙にあっさりしてて変なおじさんだなーとは思ってたけど、まじで変すぎて、うける。あんなことがあったのにまるで他人事じゃん)」
無防備ともいえる情報開示に愕然としているのか、今後が不安なのか、自分でもよくわからない感情を抱くミッカだったが、相手方の反応は逆にこちらが驚くほどに大きかった。
「なんと……っ! ジャスティア神のお与えになるギフトとは別の力なんて聞いたことも……?」
悠然として余裕のある態度を崩さなかったオーが顔に冷や汗まで浮かべて動揺をあらわにしている。
「ええ、そうですね。私はジャシーンと名乗る人物……人間ではなさそうでしたが……からハクスラというタレントを受け取りました。魔物を倒すとドロップアイテムが手に入るようになる能力で、まだよく把握できてはいませんが、ほかにも色々な能力を複合したものであるようですねぇ」
「そ、それは先ほども聞いたが……、やはり信じられないな……。いや、失礼。カラスマ殿の言葉を疑うわけではない。それほどに驚いているという意味だ」
説明を素直に繰り返したカラスマだったが、やはりオーはとても驚き戸惑っている。それは明らかに彼らにとっての常識とは違う話の内容に対してなのであったが、カラスマは「言葉だけでは信じられませんよねぇ」とのんきに受け取った。
「ああ! そうでした、ドロップアイテムをお見せしましょうか。そのついでにこれが先ほど言いました“色々な能力”のひとつであるインベントリ、ですね」
言ったカラスマがローテーブルの上に手をかざすようにすると、次の瞬間にはあまり重々しくはないことりという音をともなって、鞘付きの小ぶりなナイフがそこに置かれていた。
その手品のような現象はミッカにとっては既に見たものであったので「やっぱりすごいね、それ」という程度だったが、オーはというと口を開いたり閉じたりして言葉にもならないようだった。
「ほっほ! すごいですなあ!」
カップを置いて手を叩いて喜ぶジスワットの声が、室内に響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます